ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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「グルヤーン・イル・イシュ」の言語的分析と、それに基づく「グルヤンラシュ」の意味の推測

1.はじめに

 『蒼天のソウラ 7』の167ページでは、「グルヤーン・イル・イシュ」と発音される名称の魔族の勢力が挙げられています。この発音の現代語の意味は「大いなる月の王の民」だそうで~す。そしてこれについて、エリーゴ調査員が「太陰の一族」「訳しかたが違うだけで同じもの」という仮説をたて、古代語の得意なギブも資料を根拠に「同じもので間違いないと思いますよ」と賛意を示していました。

 「グルヤーン・イル・イシュ」を構成する三つの単語である「グルヤーン」と「イル」と「イシュ」のそれぞれの意味を類推する作業において、「グルヤーン・イル・イシュ」が訳しようによって「大いなる月の王の民」にも「太陰の一族」にもなるというのは、非常に強い手掛かりになりま~す。

2.「イシュ」

 まず「イシュ」についてですが、この意味は間違いなく「月」であり「太陰」で~す。

 同書168ページでは「イシュラース」「三日月」「イシュマリク」「満月」とされ、『蒼天のソウラ 6』の174ページでは「イシュ・ヤンカル」「復讐の月」とされていま~す。三つの言葉の発音上の共通点が「イシュ」であり、意味上の共通点が「月」であるので、これについてはほぼ間違いないでしょう。

 そして東アジアの陰陽説では、月を「太陽」と対なる「太陰」とみなしま~す。アストルティアでも陰陽説が盛んであることは、拙稿「縞模様の歴史と陰陽説から考える、光と闇のプクリポ」で証明ずみで~す。

3.「グルヤーン・イル」は、「大いなる王」の「民」なのか、「大いなる」「王の民」なのか

 そうなると消去法で、「グルヤーン・イル」は、直訳すると「大いなる王の民」であり、意訳すると「一族」ということになりま~す。一人の王によって率いられる集団を一言で「一族」と表現することは、そうおかしなことではありませ~ん。

 問題なのは、「大いなる王の民」が原語では二単語なのであることで~す。「大いなる王」の「民」なのか、「大いなる」「王の民」なのかを、考えなければなりませ~ん。

 思うに、「民」に対して原語であれ翻訳であれ「大いなる」という形容詞をつけることは考えにくいで~す。一方、「王」を超える「大王」を意味する単語が原語にあって翻訳語にそれを一語で表現できる適切な単語が存在しなかった場合に、それを「大いなる王」と二語で表現するというのは、極めて自然で~す。

 よって「グルヤーン」と「イル」は、どちらか一方が「大いなる王」で他方が「民」なのでしょう。

4.「グルヤーン」と「イル」のどちらが「大いなる王」でどちらが「民」なのか

 では、「グルヤーン」と「イル」のどちらが「大いなる王」でどちらが「民」なのでしょうか?

 これは語順から「イシュ」とのつながりが深いほうが「イル」だということから推測できま~す。

 仮に「グルヤーン」のほうが「大いなる王」だとすると、大いなる王の下に様々な一族がいて、その一つが「月の民」だということになりま~す。しかしこれでは、王自身の名が「三日月」であることの説明が難しくなりま~す。

 よって「グルヤーン」が「民」で「イル」が「大いなる王」と考えたほうがよさそうで~す。

5.以上の成果から考える「グルヤンラシュ」

 グルヤンラシュが仕えた国は末期のウルベア帝国で~す。よって「グルヤンラシュ」という名前はその時代のウルベア語であった可能性が高いですね~。

 そして『蒼天のソウラ 7』の168ページでは、500年前のウェナ諸島で起きた事件の記録をスラスラ読むギブに対し、エリーゴ調査員が「キミ古代語得意なのでありますか?」と聞き、ギブが「古代ウルベア語とガテリア語の本なら辞書なしで読めますよ」と答えていました。

 このやりとりを全体の文脈から考えるに、古代のウルベア・ガテリアの影響力が非常に強かったせいで、両国が滅んだ後もかなりの長きにわたって、各国の公式記録文書などではウルベア語やガテリア語かそれに近い言語が使用されていたのでしょうね。地球のヨーロッパでも、ローマ帝国滅亡後に現地語の影響を受けてある程度訛った「中世ラテン語」が長く使用され続けましたが、それと同じような現象だと理解すればいいので~す。

 貨幣でもウルベアのコインがいまだに流通しているのですから、言語もウルベア語が古語として影響を保ち続けていたとしても不思議はありませ~ん。

 ウェディ族が長母音を好むことは彼らの人名から明らかであるので、「グルヤーン」が古代ウルベア語「グルヤン」のウェナ訛りであったという可能性は高いですね~。

 以上の推測が正しかった場合、グルヤンラシュは重要な地位に抜擢されたあとも自らを「ラシュ(皇帝?)の民」と称してへりくだっていたことになりま~す。そうすることで有力者に警戒されないようにしたのでしょう。

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(以下、2018年10月6日追記)

 この説はハズレでした。詳しくはリンク先の記事をお読みください。

(以下、2022年8月22日追記)

 一度はハズレ宣言をした本稿ですが、#FAFDFFさんのツイートのおかげで、実はかなりいい線まで来ていた気がしました。