仏教の世界観に、「六道」という概念がありま~す。転生先を六種類に大別したもので~す。
なお、「六道」を「りくどう」と発音すると格好良いと思い込んでいる人がいますが、これは間違いで~す。
おそらく「仏教用語は普段と発音が違う」という中途半端な知識があったせいで、「「六」は普段の「ロク」ではなく「リク」と読むんだろう」と思い込んでいるのでしょうが、漢字の「六」は「ロク」こそが呉音であり、「リク」は漢音で~す。よって呉音で読むのが原則の仏教用語では、「六」は「ロク」と読みましょう。
なおかつ「道」は「ドウ」が呉音で「トウ」が漢音なので、「りくどう」では漢音と呉音がごちゃ混ぜで~す。どうしても呉音が嫌いな人は、「六道輪廻」を「リクトウリンカイ」とでも読んでくださ~い。もちろん普通の人は「ろくどうりんね」と読みましょう。
さて、六道の一つに「餓鬼道」というものがありま~す。これは地獄道の次に悪い世界で~す。
餓鬼道やそこに生きる餓鬼たちの設定についてはお経によって多少の違いがありますが、おおむね「常に空腹状態」という苦痛が設定の中核をなしていま~す。何も食べられずに空腹であったり、食べても空腹であったりしま~す。
日本語で人間界の子供のことも「餓鬼」と呼ぶのは、子供が食欲旺盛な上に、性欲や名誉欲といった別の欲には比較的淡白であることからの、比喩表現であると思われま~す。
さて、北伝仏教には『正法念処経』というお経がありまして、これは星月夜の知る限りでは、餓鬼道の設定が一番詳細なお経で~す。
正法念処経では、餓鬼は三十六種類いるとしていま~す。そして巻第十七には「執杖餓鬼」という種類の餓鬼の物語が描かれていま~す。
執杖餓鬼は、生前は切れ者で、権力者にへつらって万民への慈悲を忘れた悪人が、死後になる立場で~す。「閻羅王」の手下で、杖や刀を持ち、他の罪人を苛めま~す。
ここまでの説明で、執杖餓鬼の設定と偽セレドの町の物語の類似点が数多く挙げられま~す。
1.餓鬼ばかりの世界
偽セレドは子供たちばかりの町。すなわち日本語のスラングで表現するなら「餓鬼ばかりの世界」。すなわち「餓鬼道」で~す!
2.生前は切れ者
リゼロッタの回顧談によると、生前の偽セレドの町の子供たちは、大人を落とし穴に落としたりして楽しむ知能犯だったようで~す。
3.正体は死人
偽セレドの住民は、他の偽レンダーシアの住民と違い、死人で~す。
4.権力者にへつらう
住民の大半はリゼロッタを「女王」と呼んでへつらっていました。
5.その果てに閻羅王の部下になる
偽セレドの子供たちは女王にへつらっていいなりになっているつもりでしたが、これは全部エンラージャの掌の上で操られていたようなものでした。
エンラージャと閻羅王の関係については、以前書いた「「魔人エンラージャは閻魔大王だった!」説を提唱します。 根拠は語源・容姿・肩書・業績・部下」という記事をご覧くださ~い。
6.果てしない空腹感
偽セレドの町には、「ドーバ」という常に飢えているNPCがいま~す。
7.武器を持つ
屋外には武器を持っている子供もいますね。まさに文字通り「執杖餓鬼」で~す。
以上の類似性により、『正法念処経』巻第十七の「執杖餓鬼」の設定は、偽セレドの町の物語の元ネタかもしれないと、星月夜は考えました~。
ちなみに「餓鬼」をサンスクリットでは"प्रेत"「プレタ」といいま~す。
「セレド」の語源としては「セレシア」ばかりが挙げられる傾向にありますが、「子供」を意味する英語の"child"「チャイルド」や、「餓鬼」を意味するこの「プレタ」もまた語源であると、星月夜は考えていま~す。