ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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文豪バルザックが錬金術師バルザックに与えた影響 『ドラゴンクエストX』版

 昨日の記事の続編で~す。

1.意識的な模倣

 『ドラゴンクエストIV』の錬金術バルザックについては、制作者たちが文豪バルザックを実際にどの程度意識していたかは、ブラックボックスの中でした。

 これに対してXの錬金術バルザックについては、運営が意識的に文豪バルザックを元ネタにしたことがうかがえま~す。

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 不思議の魔塔の5階には、錬金術バルザックの遺作である『錬金喜劇』が置かれていま~す。

 この題名は文豪バルザックの「人間喜劇」シリーズの意識的な模倣であると思われま~す。

 文豪バルザックは、様々な極端な性格の人間を描きました。晩年には彼らが織りなした悲喜劇を「人間喜劇」という一つの体系的なシリーズにまとめようとしました。

 現代日本では岩波文庫を通じて単独の作品として鑑賞される傾向の強い『ゴリオ爺さん』や『谷間の百合』も、昨日紹介した『不老不死の薬』も、この「人間喜劇」の一部分なので~す。

2."La Recherche de l'absolu"の紹介

 文豪バルザックの作品のうち、Xの錬金術バルザックに最大の影響を与えたものは、人間喜劇の中の一作である"La Recherche de l'absolu"(1834)であると星月夜は考えていま~す。岩波文庫では『「絶対」の探求』という題名で出ていま~す。

 この作品の主人公は「バルタザール」といいま~す。若いころは近代化学の父と呼ばれたラヴォアジエ(1743~1794)の不熱心な弟子だったという設定なのですが、壮年になったある日、たまたま宿を貸した軍人から学術的好奇心を刺激され、自宅の研究室で化学の実験を開始しま~す。

 ここから先は、その探求心だけがバルタザールの生きがいになってしまいま~す。そして先祖から受け継いだ家財を投じて研究に打ち込み、瞬く間に貧乏になりま~す。家族が情に訴えると一時的に研究を中止するのですが、その日から廃人になってしまうので、結局家族も研究の再開を許してしまうので~す。妻が死んでもお構いなしどころか、その遺産をさらに研究につぎ込みま~す。

 それでも一度は事実上の破産をし、しっかり者の娘が家を再興する過程を見て、少しは反省した様子を見せま~す。しかし放置していた装置が偶然にも人工ダイヤモンドを一度だけ作ってしまったので、またもや研究熱がよみがえり、せっかく再興した家の財産をもう一度実験につぎ込むことになりました。

 こういうバルタザールの没落の過程を見て、まだ錬金術と化学の分化を十分に理解していなかった田舎の人々は、単なる浪費家として嘲る以上の嘲りを与えました。「19世紀だというのに"pierre philosophale"(賢者の石)を探している悪い奴」とか「"alchimiste"錬金術」だとか。

3.バルタザール・文豪バルザック錬金術バルザック三者の類似性

 このバルタザールは、名前からして作者の「バルザック」と似ておりま~す。日本語の発音で「バル」と「ザ」が共通しているのみならず、フランス語の綴りでも"Bal"と"za"が同じで~す。

 そしてその生涯も、作者にそっくりでした。文豪バルザックは、精力的に小説を書きまくる一方で、暴飲暴食を筆頭とする各種の浪費を重ね、そのために発生した莫大な借金は妻が肩代わりしました。

 バルタザールと違って文豪バルザックの創作と借金との間には直接的な因果関係はありませんが、蕩尽によるストレス発散がなければ後世に残る作品をあれほど大量には書けなかったかもしれないので、やはり似たようなもので~す。

 ここで「錬金喜劇」やオフラインモードの内容から、錬金術バルザックを思い返してみましょう。

 まず「錬金術師」という時点で、バルタザールに似ていますね。

 そして錬金術バルザックは「我の才覚は ついに 師に遠く及ばなかった」と書き遺していま~す。偉大すぎる師匠がいたという点で、バルタザールとの共通点がうかがえま~す。

 「真理に挑むことを あきらめたならば わが人生は意味を失」うとも書き遺していま~す。この人生観はバルタザールに似ていますね。

 「他の錬金術師たちの 知識と技術を食らってでも 生き延びるよりほかにない」と書き遺しており、実際に行動に移しました。他人の力を利用する発想は、妻を含めた他人の財産を活用しまくったバルタザールおよび文豪バルザックにそっくりですね~。「食らって」という言い回しにも、文豪バルザックの影響がうかがえま~す。

4.結論

 Xの運営は、錬金術バルザックの設定として、意識的に文豪バルザックを元ネタに使いました。

 意識的であったため、「どうせ文豪バルザックとその作品を元ネタにするなら、作品については、なるべく錬金術師に近くて、なるべく作者の分身的存在である主人公が登場するものを選ぼう!」という判断があったのだと思いま~す。

 その判断の結果として、"La Recherche de l'absolu"が選ばれたのだと思いま~す。