今さらの話題ですし、今後もあまり使う予定がないのですが、一応は高級品であるアトラスのついてクンを入手したので、記念撮影しました。
ゲルメデ「学芸大臣」から考える、ゴーラの近代性とグルヤンラシュの天才性。そして新たなる希望。
1.主任のある大臣とない大臣
近代的な国では、官僚機構を職掌ごとに省庁で分けてそれぞれの上に責任ある担当者を置くという発想が強いで~す。
そういう国の大臣の多くは、主任の内容をつけて「〇〇大臣」と呼ばれ、その権限の内容は初めからほぼ決まっていま~す。権力闘争をしようがしまいが普段の仕事の内容自体はほぼ同じであり、影響力がいくら強くても他部門への口出しには限界がある一方で、影響力が弱くても他部門の責任者からの介入にも一定の限界があるわけで~す。
一方で中世的な国では、大臣はただ漠然と「大臣」とだけ呼ばれることが多いで~す。あるいはせいぜい「太政大臣」とか「左大臣」とか、大臣同士での序列がつくだけで~す。
だからそういう大臣の職務内容が曖昧な統治機構においては、大臣は権力闘争の結果次第では万機を預かって絶大な力を持つことが多かった一方、逆に名目上の立場に追いやられることもまた多かったので~す。そしてそういう傾向がまた権力闘争の火種になりました。
なお以上はあくまで理念的な二分法なので、特に過渡期においては主任があるのかないのかはっきりしない大臣というものも世界中に多くありました。大日本帝国の「内大臣」はその典型で~す。
雨月「主任があるようで内大臣。くっくっくっ」
2.アストルティアの大臣と魔界の大臣
前章の理論で、アストルティアの大臣と魔界の大臣とを比較してみましょう。
ちゃんとした主任のある大臣って、アストルティアでは珍しいですよね。チグリ大臣(グレン)とかコトル大臣(カミハルムイ)とかリゲル大臣(偽グランゼドーラ)とかコルシュ大臣(グランゼドーラ)とかカブース大臣(アラハギーロ)とかコルシュール大臣(古グランゼドーラ)とかムニュ大臣(オルセコ)とか、みんな単に「大臣」とだけ呼ばれています。
ここで列挙した大臣たちは、他にライバルらしき大臣がいない状態で玉座の間にいるので、おそらくは総理大臣級なのでしょうが、コルシュ大臣とコルシュール大臣の立ち位置の違いには微妙な地位の差も感じられま~す*1。
いやはや、実に中世的ですね~。
一方で魔幻都市ゴーラには、「学芸大臣」のゲルメデさんがいま~す。
「議会」が存在したネクロデアの近代性にも驚かされましたが*2、こう考えると学芸大臣のいるゴーラも中々近代的ということになりま~す。
他にも、魔界のいつの時代のどの国の大臣かは不明ですが、「殺りく大臣」というのもいたことが「グリーンシザー・強」のまめちしきから判明していま~す。
3.グルヤンラシュの負の遺産
前章の確認になりますが、アストルティアの統治機構は概して中世的であり、魔界に大きく後れをとっていま~す。
しかしアストルティアにおいても、統治機構の近代性の萌芽のようなものがかつて見られました。3000年前のウルベア地下帝国で~す。
主人公が行ける時代にはすでにグルヤンラシュにより粛清ずみだったためNPCとしては登場しませんが、設定上はウルベア地下帝国で財務官ルルミソの父が「財務大臣」でした。財務のことなら原則として他所からあまり口を出されない代わりに、本人も財務がらみの問題でしか他所に口を出せないという、安定的で限定された権力の財務大臣がいたので~す。
しかしウルベア地下帝国の祭政一致の古代的要素が隙となり、「宰相」グルヤンラシュによってその芽を摘まれてしまいました。
ここで明らかになるグルヤンラシュの天才性とは、邪魔な高級官僚を自然な戦死の形で死なせたことよりも、その地位を踏襲する後任者を作らなかったことで~す。自分の言いなりになる後任者を任命するだけであったなら、いつ裏切られるかしれたものではないですし、またほぼ100%言いなりになるとしても毎回一応の交渉が必要ですからね~。
グルヤンラシュ政権時代を生き延びた大臣にはクヨチ大臣がいますが、彼は無任所であり、またそれゆえに掃除夫にされていました。まさに中世的世界で~す。
地球でもクヨチ大臣に似た例がありま~す。『新五代史』馬胤孫伝や『資治通鑑』巻第二百七十九によると、後唐王朝は、馮道という有力者をとりあえず「司空」に任命しました。「司空」は歴代中国王朝では大臣級の伝統ある役名の職で~す。でも当時の後唐では司空の職務内容が曖昧だったため、馮道は祭祀関連の掃除だけをする立場を押しつけられそうになったそうで~す。
当時の世界最強国の統治機構のあり方を根本から変えてしまったのですから、グルヤンラシュが後世のアストルティアに及ぼした影響は計り知れませ~ん。
こういう作業はよほど「権力とは何か」を知っていなければできないことで~す。それを裸一貫から始めて、かつ少なくとも七十年、ひょっとすると何千年も生きている海千山千のお目付け役の筆頭研究員を差し置いて、十年ぐらいで成し遂げたのですから、グルヤンラシュは希代の天才といえましょう。
こんなすごい才能を秘めていた人材を「荒事しか能のないグズ」と見てしまったのはドミネウスの大失敗でしたね。計画を全部先に話して説得の上で重用するか、逆に完全に無権力の状態にしておくべきでした。
雨月「そうはいうても、クヨチ大臣の普段の仕事と、ゲルメデ学芸大臣の普段の仕事は、ペペロゴーラのせいで事実上ほぼおんなじやないの?」
星月夜「きっと運営はそういう評価を回避するためにこそ、クエスト「天才と凡人と」*3でゲルメデ学芸大臣に別の仕事も担当させたのよ~」
4.新たなる希望
しかし最近になってアストルティアにも新たに主任のある大臣が再誕しました。
「補給大臣」のPさんで~す。
今はまだ国政の役職ではなく、無給であり、アストルティア防衛軍において騎兵より地位の低そうな軍服を着ていますが*4、新たなる希望の萌芽ではあるでしょう。
輝晶獣をコンプリートし、5.1の新作モンスターをコンプリートしました~。
5.1で輝晶獣という枠組みのモンスターが3種類登場しましたね。
星月夜はずっと後回しにしていたのですが、やっと全部倒して称号もコンプリートしました。
これにて「5.1の新作モンスター」をコンプリートで~す。
なお決して「5.1のモンスター」のコンプリートではありませ~ん。5.0新作のカラミティデーモンをまだ倒していないからで~す。
今年中に倒せるかな~?
「ダーマ神は魔界でも崇められているのに、なぜスキルマスターはジャゴヌバに対して中立的ではないように見えるのか?」を考えました。
ダーマ神は、原則として魔界でも崇められていま~す。
特にゴーラでは「全知全能の神」という最高の尊称で強く崇められていま~す*1。
一応例外的に200年前のネクロデアの酒場にはダーマ神官らしき人物がいませんでしたが、それは60年前のナルビアの酒場とて同じことで~す*2。
そうなるといかにもジャゴヌバ対ルティアナの戦いには中立的な神という雰囲気が出てきま~す。
でも一方で、ダーマ神の関係者でもあり本人である可能性も高いスキルマスターには、「将来起こるであろう大いなる闇の根源との戦いに備えて」いるという設定がありま~す。この設定は『アストルティア創世記』の26ページに明記されていま~す。
この二つの設定の折り合いについては今までも漠然と考えていたのですが、ひささんのこのツイートを機にしっかり考えてみました。
ここで思い出したのが、スキルマスター本人が、世界を滅ぼせるだけの能力を持った危険な敵と戦った前例で~す。アスフェルド学園の3月の物語では、弟子を率いて精霊アスフェルドの暴走を制御しに来ていましたね*3。
こういう危険なものが暴走したときにはさすがにそれを倒す立場になるようですが、暴走の直前まではそれが適切に管理されていればいいという立場らしく、弟子のバウンズに任せっきりでした。そしてアスフェルド倒したあとも、「いっそ ここで 消滅させちまったほうが」というディエゴの提案を採用せず、眠りにつかせられればそれでいいというバウンズの立場に黙示の同意を与えていました。
スキルマスターのジャゴヌバに対する立場も、「このアスフェルドに対する立場と似たようなものだ」と仮定すれば、上述の問題も整合的に解決できま~す。
以下にこの仮説が正しかった場合における、三つの局面での類似性をまとめてみました。
※平時の中立
精霊アスフェルドが世界を滅ぼしかねないほど危険でも、先制攻撃で滅ぼしたりはしない。アイゼルらアスフェルド学園の学生たちが願いの想域でアスフェルドの力を利用して好き放題に願いをかなえても、基本的に放置。
異界滅神ジャゴヌバが世界を滅ぼしかねないほど危険でも、先制攻撃で滅ぼしたりはしない。ネルゲルら魔族たちがジャゴヌバを利用して強大化しても、基本的に放置。
※暴走時への備え
しかしいざというときに備え、鍛え上げた弟子のバウンズを現地に派遣してアスフェルドを見張らせている。
同時にいざというときに備え、冒険者を鍛え上げてジャゴヌバとの戦いに備えさせている。
※暴走時の対応
アスフェルドが暴走すると世界は滅び、学生たちにとってすら不利益な事態となる。こうなったら暴走を止める程度には中立を捨てる。
ジャゴヌバが暴走して(?)大魔瘴期が来ると魔界もアストルティアも滅び、魔族たちにとってすら不利益な事態となる。この件に関しては、(多分)非中立である。
語源で暗記しよう、レジャンナ三姉妹。余談で知ろう、アスカロン。
(数週間前の我が家)
雨月「明日のクイズ大会に備えて、賢者の都レジャンナの族長家の三姉妹の名前を暗記しようとしているんやけど、語尾が「ット」である以外の共通点が見いだせんから、すぐ忘れてまうわ~。姐さん、何かいい覚え方ないかな~?」
星月夜「よろしい、意味と法則のある語源を手がかりにすることで、記憶を定着させましょ~」
(その数分後)
雨月「わ~、すご。一瞬で記憶できたわ」
夕月夜「横で聞いていて私も感服しました。せっかくですし、ブログの記事として公表されては?」
星月夜「うむうむ。よいタイミングが来たら記事にするわ~」
(一時間前の我が家)
夕月夜「先ほど第9回アストルティア・クイーン総選挙の大予選会*1の20~48位が発表されました*2。レジャンナ三姉妹は全員20位以下の落選で、かえって一時的に知名度が急上昇中で~す。今こそがあの暗記法を公表する絶好の機会では?」
星月夜「よくぞ知らせてくれた~。よしよし、発表しちゃうぞ~」
まずは今回の予選で31位だった長女のジルガモットさん。
最初の一文字を「ベ」に変えれば「ベルガモット」になり、これはイタリア語でオレンジの一種を意味する"bergamotto"と特定できま~す。
またこの件から、妹たちも二文字目からが重要なのではないかという予測がつきま~す。
43位だった次女のマプリコットさん。
最初の一文字を「ア」に変えれば「アプリコット」となり、これは英語で杏子やそれに近い植物の実を意味する"apricot"になりま~す。
42位だった三女のネシャロットさん。死人を操るから「42」だったのかな?
最初の一文字を「エ」に変えれば「エシャロット」となり、これはフランス語で玉ねぎの一種を意味する"Échalote"になりま~す。
ついでに三姉妹の故郷である「レジャンナ」の語源も考えてみました。
やはり「最初の一字を重んじない」という法則を重視して考えてみたのですが、アラビア語で「天国」を意味する"جنّة"(ジャンナ)の可能性が一番高いと思いました。
ファラザードには地球のアラビア半島のイメージもありますしね~。
あと、ファラザード城執務室の本棚では「レジャンナでは国民の九割が女性」設定を読めますが、これもイスラームの天国観を多少参考にしたのかもしれませ~ん。さらに、ジルガモットさんがお酒に強い設定も、そこから得たヒントで作られたのかもしれませ~ん。
余談になりますがネシャロットさんの"Échalote"の語源をさらにさかのぼると、イスラエルの都市"אשקלון"(アシュケロン)に行きつきま~す。この都市名はこのゲームの両手剣である「聖大剣アスカロン」の語源でもあるので、ネシャロットさんと聖大剣アスカロンは義理の従姉妹みたいな関係にあるので~す。
暁月夜「アスカロンって、聖ゲオルギウスが竜退治に使ったヤリだよな。なんで両手剣にされちゃったんだろうな?」
星月夜「アスカロンは剣だったとする説も一応あるのよね~。有名どころでは、ストックホルム大聖堂に展示されているバーント=ノトケの彫刻作品では、剣説が採用されているわ~」
マデサゴーラの謎の楽器の考察 & 大魔瘴期を乗り切れるかもしれないアイディアを一つ
0.まえがき 芸術の分類の確認
芸術は一般に、小説などの「言語芸術」、彫刻などの「造形芸術」、音楽などの「音響芸術」の、三種類に分けられま~す。この中から二つ以上の要素を組み合わせた場合には「総合芸術」とされま~す。
現在のテレビゲームの大半は総合芸術で~す。たとえば『ドラゴンクエスト』シリーズは、言語芸術をつかさどる至高神ゆうぼんと造形芸術をつかさどるアキーラ神と音響芸術をつかさどるすぎやん神の合作で~す。
1.マデサゴーラの作品群を分類
マデサゴーラの作品には絵画・彫刻・ジオラマといったものが多いので、彼の芸術は造形芸術が中心で~す。
しかし偽のレンダーシアを創ったのちは、努力とギャンブルという自分の大好きなテーマを描いた『メタりんの願い事』を書いたり、努力もせずリスクも負わずに成功者になったネルゲルへの憎しみを投影した偽リンジャーラの手記を書いたりしているので*1、言語芸術家としての側面もそれなりにあるようで~す。
では音響芸術はというと、業績らしき業績はほとんど見かけませ~ん。唯一見かけたのが、創造神マデサゴーラとの戦いのフィールドで登場した謎の楽器で~す。
2.謎の楽器の活躍の記録
しかしこれがBGM『神に挑みし者』を奏でているというわけではないようで~す。
なぜなら以下の写真に見るように、「加速する世界」になって楽器の動きが激しくなろうが、「不浄なる世界」になって楽器の一部が消えようが、「混沌たる世界」になって楽器の全部が消えようが、『神に挑みし者』は普通に流れ続けるからで~す。
これが「加速する世界」の楽器の様子。初期状態より全体的に激しく動いてま~す。
これが「不浄なる世界」の楽器の様子。バルブの部分が消えてますね。
最後が「混沌たる世界」の写真。もはや楽器自体が存在しませんね。
3.謎の楽器の機能の比較研究
この楽器には一体何の意味があったのかを考えました。
まず「無意味」とか「ただの雰囲気作り」説の可能性は低そうですね~。
創造神マデサゴーラがあえて創生の霊核を後回しにしてまで勇者姫との戦いを優先したのは、自分自身の新しい能力を計測するためでした。戦闘には無駄な楽器を作ったり奏でたりするのに力を使ってしまうと、正確な計測ができなくなりま~す。
また雰囲気をうんぬんするのであれば、混沌たる世界でこそ怪しげな不協和音を奏でさせるべきでした。
ヒントとして思いついたのは、「恵みの歌」をウェナ全土に伝える装置「波紋の音叉」で~す。
キンナー調査員によれば「恵みの歌」には「水を清める」効果もあるわけですから、逆に音響によって「不浄なる世界」などを作ることもおそらくは可能なのでしょう。
なので楽器が消えた「混沌たる世界」こそが、あの空間のデフォルトなのでしょう。
そして「加速する世界」や「不浄なる世界」はもちろんのこと、戦闘の冒頭の「一見通常版の世界」もまた、楽器の音によって人為的に維持されている状態だったというわけで~す。
つまりマデサゴーラの芸術家人生が究極の完成に至るための最後の一押しである「創世の力」は、実はそれまであまり手を出していなかった音響芸術と密接に関係していたということになりますね。
4.そこから考える、大魔瘴期対策の一案
ここまでの研究成果を再確認しま~す。
本来はウェナ全土を豊かにできない「恵みの歌」も、波紋の音叉があればそれが可能になりま~す。
本来は「混沌たる世界」しか作れないか、もしくは作れるとしても巨大な楽器の急ごしらえ以上の何らかのハンディを背負う創造神マデサゴーラも、楽器があれば四種類の戦闘フィールドを使い分けられま~す。
この研究成果にもとづき、大魔瘴期を乗り切れるかもしれないアイディアを一つ思いつきました。
「本来は魔界の魔瘴には効かない」設定の聖別の詩歌も、適切な楽器の助力があれば、魔界の魔瘴に太刀打ちできるかもしれませ~ん。
雨月「波紋の音叉の存在や設定を活用している記事って、読むの初やわ~。メインストーリーに出てきたはずなのに、何で忘れられやすいんやろな~?」
暁月夜「ジュレットで青のキーエンブレムを入手するためには体験が必須の物語でありながら、後半の猫島の話と断絶しているというのが原因だろうな」
夕月夜「いっそサブストーリーだったならば、かえって記憶されたかもしれませんね~」
『大審問官』と「大審門」の関係 そして明かされるモーモン王国と「荒野」の真実
0.はじめに
ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の第五篇第五章では、登場人物が書いた作中作品として『大審問官』という物語が語られま~す。
本稿ではこの作品が「大審門」に与えた影響をまとめました。
あくまで5.1時点での情報からの類推であり、第3章以降の仮説は今後覆る可能性もあることを先に明言しておきま~す。
だから、やがて新情報を加味した続編記事を書く可能性が大で~す。
1.『大審問官』内容紹介
『大審問官』では、再来を予言したのちに千五百年以上地上から消えていたキリストが、異端審問が盛んな時代のスペインに突然再来しま~す。
でもすでに「キリスト教」はカトリック教会に完全に握られており、異端審問業界の大物である「大審問官」にキリストは捕縛され、投獄されてしまいま~す。
大審問官は牢内のキリストに以下のような内容を語りま~す。
「キリストは荒野での悪魔の三大誘惑であるパン・奇跡・権力を退け、自由尊重のキリスト教を作った。自分も若いころは荒野での飢えた自由に挑戦した。でもそんな高邁な信仰に耐えられるのは、人よりも神に近いような一握りのエリートだけであり、それ以外の人類の多数派は自由よりもパン・奇跡・権力に支配されたがる。そしてそういう一般人を幸福にできるのは、キリストではなく、悪魔と手を組んでキリスト教を修正したカトリック教会のほうなのだ」と。
なお、キリストが五つのパンと二匹の魚で成人男性だけでも五千名である群衆の腹を満たした記述が四つの福音書のすべてにあり、さらには『マタイ福音書』と『マルコ福音書』では類似の行為をもう一度やっているほどなので、『大審問官』の聖書解釈には星月夜は個人的に反対で~す。ついでにいうと、悪魔が提案した「空中浮遊で墜落死を回避」の奇跡は拒否しても「水上歩行で溺死を回避」の奇跡は自発的にやっていま~す。
なので本稿は『大審問官』の内容を称揚してそのカトリック批判の尻馬に乗るといったものではなく、あくまで『大審問官』の『ドラゴンクエストX』への影響を論じるだけのもので~す。
2.『大審問官』の「大審門」への影響の証明
この『大審問官』は5.0で登場した「大審門」に影響を与えたと思われま~す。
まず直感ですぐわかるように、発音が似ていますね。
そして漢字表記まで似ていま~す。
しかも「大審門」という単語は創作的で不自然なものなので、まず間違いなく『大審問官』の影響の下で考案されたことでしょう。前にも書きましたが*1、「自然なもの」は先行する何かと似ていても偶然の一致である可能性が高く、「不自然なもの」は先行する何かと少し似ている程度でもそれを意識して無理に作られたものである可能性が高いので~す。
また「『罪と罰』で読み解くリベリオ ―― 強力な暗号「そうニャ」の秘密。そして思想的元凶は……」という記事で証明したとおり、このゲームの運営がドストエフスキーの影響を受けていることはほぼ確実で~す。
以上の理由から少なくとも名称に影響を与えたことは確実でしょう。こればっかりは、今後覆る可能性はほぼゼロで~す。
3.仮に「魔仙卿 ≒ 大審問官」としてみる
さて、「大審門」が『大審問官』から名称以外にも内容的な影響があったと仮定してみましょう。
この場合、大審問官やその黒幕であるローマ教皇に当たるのは、魔仙卿で~す。
そして教皇から戴冠される皇帝に当たるのが大魔王であり、教皇が崇めるキリストに当たるのがジャゴヌバで~す。
魔仙卿は名目上はジャゴヌバの権威を背景にしていますが、ジャゴヌバとあまりまともに意思疎通をしている形跡はありませ~ん。そしてジャゴヌバの手の動きを自己流に解釈して、その自説をあたかもジャゴヌバの真意であるかのように魔王たちに語っていました。
そして本人なりの正義感で、弱者を保護したり、強者の持つ危険な武器を破壊させたりしてきたわけで~す。
こういう権力者にとって一番困るのは、万全な状態の神本人の再登場で~す。
やがてそういう形で魔仙卿とジャゴヌバの間で利害の対立が生じる可能性を指摘しておきま~す。
4.荒野での三つの試みと悪魔のモーモン王国
第一章で書いたことの再確認になりますが、『大審問官』では、キリストと違ってカトリックはパン・奇跡・権力を使って、自由に耐えられない弱者に不自由な幸福を与えたとされていま~す。
さて、魔仙卿は魔界全体に対してもこれら三つの試みに似た介入を多少は行っていますが、中でも重点的に介入しているのがジャディンの園で~す。自由で弱肉強食な通常の魔界で生きていくことを諦めた弱小モンスターをここに集めて保護し、モモリオン王という権力者を据えて、彼らにそれなりの幸せを与えていま~す。
そして、そうした保護を拒否したモンスターの代表例が「モーモン・強」で~す。まめちしきには「理想郷モーモン王国に背を向け 荒野で生きていくことを選んだ ハードボイルドなモーモン。 強くなければ生きていけない」とありま~す。
まず、この文章に出てくる「モーモン王国」についてですが、メインストーリーでモモリオン王に最初に会ったときに「ここは 魔界の桃源郷 ジャディンの園。 ……モーモン王国と 呼ぶ者もおるがな」と語られるので、ジャディンの園と同一視していいでしょう。
次に「荒野」について考えてみま~す。実際のモーモン・強の「主な生息地」は、現時点では緑豊かなベルヴァインの森西のみであり、そこは荒野ではありませ~ん。つまりここでいう「荒野」とは、現実の荒野ではなく、何らかの比喩なので~す。
そしてこれを『大審問官』で話題に出た『新約聖書』の「荒野」(ἔρημος)の比喩であると解した場合、モーモン・強のまめちしきは「魔仙卿が弱者のために創った不自由なモーモン王国での奴隷的な幸福を拒否し、真正キリスト教徒のような荒野での自由を選んだ」と読み解くことができ、ピタリとつじつまが合うわけで~す。
これ以外の理論でモーモン・強のまめちしきと生息地のズレをより整合的に説明することは、現時点ではほぼ不可能なのではないかと自負しておりま~す。
5.では『カラマーゾフの兄弟』自体からの影響は?
では『大審問官』を包含する『カラマーゾフの兄弟』自体からの影響はどの程度あるのかというと、現時点では「ほぼない」といわざるをえませ~ん。
以下のように多少影響があるような雰囲気の設定もありますが、原典と一致しない面が多すぎで~す。だから似ていても偶然の可能性が高いで~す。仮に偶然ではなかったとしても、せいぜいアイディア程度の影響しかないということになりま~す。
今後に期待という程度ですね~。
5-1.先代の後継者候補は「三人」とも「四人」とも言える。
物語冒頭のカラマーゾフ家当主フョードルには三人の正式な息子がいました。そして料理人も実は落胤であるという噂がありました。やがてこの料理人が先代当主を殺害したと自白しますが、裁判では信じてもらえず、読書人の中にも真犯人は別にいると考える者が多いで~す。
そして大魔王マデサゴーラの有力な後継者と目されていたのは三魔王でしたが、勇者の盟友もまた後継者候補と認定されました。この盟友は先代大魔王の殺害者の一人ともいえますが、真の責任者は勇者本人で~す*2。
こう書くと何となく似ていますが、ここに挙げた登場人物たちの性格がほぼ不一致なんですよ~。特にフョードルは典型的な俗物であり、芸術家という雰囲気はありませ~ん。
5-2.死んだとたんに評価が下がる人がいる。
ゾシマ長老は聖人として崇拝されていましたが、死んだ直後の死臭が強烈だったため、一気に評価が下がりました。
魔界ではイーヴ王やマデサゴーラが死後に評価や影響力が下がったようで~す。
でも、それは魔界における死者に対する全般的傾向でもあり、またゾシマ長老の死ほど極端ではありませんでした。
5-3.社会問題の代表例として児童虐待が語られる。
『カラマーゾフ家の兄弟』では社会問題として児童虐待が繰り返し語られま~す。
ヴァレリアもかつてはその被害者であったため、児童の問題にはそれなりに気を配っていたようで~す。
でも、魔界の最大の問題は大魔瘴期で~す。
5-4.ロシア人登場
『大審問官』はスペインが舞台でしたが、『カラマーゾフの兄弟』はロシアが舞台であり、登場人物の大半はロシア人で~す。
そして「イルーシャ」はロシア系の名前で~す。
これなんかもう、「だからどうした?」レベルの一致ですね。
(2021年6月17日追記)
夕月夜が『カラマーゾフの兄弟』を読破して人物の動向メモを作ったようで~す。詳細はこのリンク先にて。
(2023年9月19日追記)
第1章で予告した、第3章以下の見解に微修正を加えた続編の下書きが終わりました。
近日中に発表し、リンクを貼る予定で~す。