西暦644年は、当時の日本にはまだ年号というものがなかったので、便宜上「皇極天皇三年」と呼ばれていま~す。
当時の日本は大化の改新前夜。近畿地方では蘇我氏が台頭し、天皇家と同じような儀礼を自宅で催したり山背大兄王を滅ぼしたりして、権勢を極めると同時に、人々の恨みや妬みもかっていました。このまま一気に強大化するか、逆に袋叩きにあうかの、瀬戸際だったわけで~す。
そうした近畿の混乱につけこんだか、はたまた単なる偶然なのかは不明ですが、七月に富士川のほとりで不思議な新興宗教が一気に勢力を拡大しました。
「大生部多」(おおうべのおお)なる教祖が、蚕に似た虫を常世(とこよ)の神だと主張しはじめました。多神教世界では「これが神だ!」というだけでは大した人気は出ないのですが、常世の神というのは事件解決後に流行した民謡によれば、どうやら神の中の神と思われていたようで~す。
そして、この虫を祭れば大金持ちになって若返ることもできると言いふらしはじめました。これを信じた人々は、どうせもうすぐ収入が増えると思い込んだのか、浪費に浪費を重ねました。
しかし秦河勝という豪族がこれを強烈に敵視して、教祖を殺してしまいました。残党も類縁をおそれて儀式をやめました。
秦河勝がこの宗教を憎んだ理由は不明ですが、秦氏は養蚕・紡績で儲けていた氏族なので、蚕と似て非なる生物の価格が高騰した場合、自分の抱えている労働者がそのノウハウを活かして真っ先に転業してしまう、という危機感があったのかもしれませ~ん。
この蚕に似た虫については、長さが四寸強であり、緑色をしていて黒い斑点があり、橘か山椒の木につくと書かれており、アゲハチョウの幼虫であったというのが通説で~す。
以上により、「とこよアゲハ」の元ネタは「皇極天皇三年七月に富士川周辺で常世の神と同一視されたアゲハチョウ」であると、星月夜は考えました。
ちなみに「常世」とは、海の彼方にある理想郷で~す。
アストルティアからみると地獄(奈落)のような環境のナドラガンド*1に行くための門が「奈落の門」と呼ばれているのに対し、ナドラガンドからみると理想郷(常世)のような環境のアストルティアに行くための門が「常世の門」と呼ばれているのは、こういう理由によるので~す。