ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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初代『ドラゴンクエスト』におけるロトの不可解な行動の謎は、『ドラゴンクエストIII』で解けま~す。

0.はじめに

 初代『ドラゴンクエスト』(以下、『I』と表記)発売33周年を記念し、今日から三夜連続でロト三部作の考察記事を発表しま~す。

 本稿では、まず『I』における伝説上のロトの行動には『I』単体で評価する限りでは多くの不可解な点があることを立証しま~す。

 続いてその謎につき、『ドラゴンクエストIII』(以下、『III』と表記)までの続編を含めて解釈をすると合理的な説明がつくという説を提唱しま~す。

1.戦後のロトの異常な行動の整理

 星月夜が『I』のプレイ時に一番悩まされたのは、ロトが一度は所持したはずの重要アイテムが散逸していたことで~す。

 この内で、ロトのつるぎロトのよろいの散逸の経緯については不明であり、スクエニの準公式出版物の間でも設定に諸説がありま~す。

 でもロトのしるし・あまぐものつえ・たいようのいしの三点の散逸は、完全にロト本人の意思によるもので~す。

 その証拠に、「まのしま」に渡るのに必要な「3つのもの」を「3にんの けんじゃ」に託したと、ロトの洞窟の石板に自分で書いてま~す。

 「3つのもの」は一つ欠けても「にじのしずく」がもらえないので、わざわざ三人に分け与えてもリスクが高まるだけで~す。そして実際に「ロトのしるし」は、自分で保管する能力と意思の少なくとも一方が欠ける賢者の手により、敵に回収されかねない危険な場所に野ざらしにされることになりました。

 永久の平和を勝ち取った自信があったならばそういうこともあるでしょうが、件の石板を読む限り、「あく」がよみがえることも、その場合には「あく」の本拠地が「まのしま」になる可能性が高いことも、ほぼ予見していたようでした。

 「次なる脅威を予見していたなら、全部まとめておけばよかったのにな~。ロトって、戦闘力だけのバカだったのかな~?」とか、当時は考えました。

 星月夜以外にも、キーアイテム集めに苦労した人の中にはそう思った人が多かったことでしょう。

2.冒険者時代のロトの体験の整理

 これらの謎を解くため『III』でロトが体験をしたことをおさらいしてみましょう。

 物語の冒頭で、「かつてアリアハンが全世界を支配していた」という設定を聞かされま~す。

 実はこれこそが本稿のテーマにおいて一番重要な体験なのですが、この時点ではそんなことはわかりませ~ん。当時は特に必要のない設定にも思えてしまいました。

 とりあえず本稿では、この世界を支配していたころのアリアハンを「大アリアハン帝国」と仮称しま~す。

 「世界大戦ののち、また話し合って団結して一つになれば、魔王なんか簡単に倒せたかもしれないのに、人間ってバカだな~」とか、この時点でもロトもその分身であるプレイヤーたちも思ったことでしょう。

 アリアハン王の次に会う王は、王冠を簡単に盗まれたり、その王冠を奪還したという手柄だけで外人に王位を気軽に譲ったりするロマリア王で~す。

 アリアハンではどんなアイテムも絶対に盗まれない預り所を民間人が経営しているというのに、実に不甲斐ないですね~。

 さらには、もしもカンダタがマスクを脱いで別人になりすまし、「カンダタを倒してきんのかんむりを奪還した勇者何某です」と自称していたなら、カンダタが王になっていた可能性すらあったので~す。

 よってここでは「王冠ですら王城から盗まれることがある」「誰が王になるか知れたものではない」「かといって自分が王になっても、旧来の重臣が大勢いる場合には、できることは限られている」いう知識を手に入れました。

 サマンオサまで行くと、ボストロールサマンオサ王に成りすましていたために、民が苦しみ、勇者サイモンも粛清され、それが間接的にオルテガの敗因にもなったという因果関係が理解できま~す。

 ここでは「外人や大盗賊どころかモンスターが王になる可能性すらある」「国家権力の前では勇者一人の力は脆く儚いものだ」という知識を手に入れました。

 ジパングでも似たような事件に遭遇し、しかも祭司王に化けていたやまたのおろちが「へんげのつえ」すら必要としていなかったことから、「モンスターに国家権力をまるごと奪われる可能性は、サマンオサで感じたよりも高そうだ」という気分になりま~す。

 ここでロトもプレイヤーの多くも思ったことでしょう。「これらがアリアハンの事情でなくて、よかった。仮にアリアハンの事情だったとしても、大アリアハン帝国の時代でなくて、よかった」と。

 世界を一人の独裁者が支配するシステムにおいては、暗君が即位してそれに不満を持った場合、自分が賊にでもなるしかありませ~ん。ましてその独裁者がいつのまにか魔王の手下と入れ替わったら、一瞬で人類に対する魔王の勝利が確定で~す。

 そしてバークでは、かつての仲間が権力に溺れて堕落していく姿を見せつけられ、さらにはそれを革命で倒した移民たちによる新政権が、エジンベアジパングまがいの排外主義に陥る姿も見せつけられました。

 ここでは、「名君とて堕落する可能性がある」「民間から発生した国家権力もまた堕落する可能性がある」という、悲惨な現実を学びました。

 下の世界に着くと、そこは王が一人しかいないという、かつての大アリアハン帝国が全世界を支配していた時代の上の世界みたいな世界でした。

 魔王に勝てるはずの最強の装備も、一人の王が一ヶ所に集めていたために全部一度に盗まれていました。

 ここでまた「ロマリアにおける王冠盗難事件は偶然の産物ではない。国家権力が保管する重要物品がモンスターに盗まれることもあるのだ」と、知識を深めました。

 そして最終決戦で得た知識は、「にじのしずくがなくても泳げばまのしまに渡れる」「若造一名と酒場の常連三名の連合でも、多少修行をすれば大魔王を倒せる」というものでした。

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3.戦後のロトの思考を推測する

 冒険を通じて前章の知見を得たロトは、ゾーマ討伐後に下の世界で何を考えたでしょうか?

 まず、ゾーマに予言された次の「あく」は、無視こそしなかったものの軽視したことでしょう。「あく」なんて多少の修行をすれば一般人でも倒せるものであり、「まのしま」も多少の水泳の練習をすれば自力で渡れなくもないのですから。

 またロマリア・サマンオサジパング・バーク・ラダトームでの体験から、人間の国家権力のアイテム保管能力に疑問を持ち、かつ国家権力の暴走や乗っ取りにも恐怖したことでしょう。

 そして有力な外国がまだ存在せず、ゾーマ軍という対抗組織を失ったラダトームは、まさにかつての大アリアハン帝国と同じく、いつ堕落して民衆を苦しめる組織になってもおかしくはない危険な存在となりました。

 ロトは、「まのしま」でやがて復興する矮小な「あく」なんかよりも、この国家権力の危険への対処を考えたことでしょう。

4.ロトの解決策

 この「国家権力は普段は便利だけれども暴走すると厄介」という問題につき、リアル地球の近代では、無数の思想家の努力と無数の社会実験の果てに、「どんな民間権力にも屈しない最強の国家権力を作った上で、内部ではそれを三つに分けて牽制させあう」という解決策にたどり着きましたが、さすがに一人の英雄がそれをゼロから考案し、かつ王家にそれを押し付けるのは不可能で~す。

 ではかつての危険な大アリアハン帝国に対して全世界がおこなった抵抗運動のように、ラダトームに対抗する新たな外部勢力を作り、切磋琢磨をする」というのはどうでしょうか? 片方が堕落したら住民がどんどん相手の国に逃げてしまい税収も落ちるので、自然に堕落への歯止めがかかりま~す。いわゆる「足による投票」の国家版であり、これが一定程度機能した例としては中公新書の『逃げる百姓、追う大名』で紹介される、ジパングの江戸時代の大名間の農民誘致合戦がありま~す。

 でも、アレフガルドにはラダトームへの独立運動をしている地域はなかったですし、ロトが下の世界で入手した船には外洋航海の性能がありませんでした。

 なので残った手段は、ひかりのたまは王家に、「3つのもの」は民間の三賢者に」というものだったのでしょう。

 いつかラダトーム王が堕落したり、あるいは王に悪気がなくとも「あく」にひかりのたまを盗まれたりするとき、「3つのもの」まで王家が管理していたら大変で~す。そしてラダトーム王家は、管理していた三種の最強装備をゾーマに盗まれるという前科もありま~す。

 ならばひかりのたまと「3つのもの」の管理責任者を分ければ、リスク分散になりま~す。

 では「3つのもの」を一人の賢者に渡さなかったのはなぜかというと、バークでの体験から民間の権力もまた信用していなかったというのが答えでしょう。

 三つ揃えば強大な力となるものを一度に渡された人間は、いつ堕落するか知れたものではありませ~ん。そこで単独では意味をなさない状態にしてから保管させたのでしょう。

 三権分立思想の萌芽的な段階までは、ロトは至っていたのでしょうね。