0.はじめに
「ロトは体験から「権力は腐敗しやすい」・「腐敗を一定レベルに抑えるには勢力均衡しかない」という結論にいたり、その子孫である初代『ドラゴンクエスト』(以下、『I』と表記)の主人公の世代でついにラダトームを牽制する新国家の樹立運動を開始した。そう考えると、彼らの一見異常な行動は全部説明がつく」
しかしここでこの運動の成果を台無しにしかねない、予想外の強敵が登場しました。
今回はそのラスボスとの最終決戦の過程を、公式設定から理論的に再構築しま~す。
1.征服の軌跡とその蹉跌
『ドラゴンクエストII』(以下、『II』と表記)では、ローレシア・サマルトリア・ムーンブルクの三王国が『I』の主人公の子孫の国で~す。これは説明書の段階で教わる公式設定で~す。
そしてルプガナまで冒険を進めると、『I』の主人公とローラ姫は、まずはルプガナに上陸したという設定を聞かされま~す。
すると後の三ヶ国の内、最初に征服の対象となったのはのちのムーンブルク地方ということになりま~す。
ここで疑問がわきま~す。
ムーンブルク周辺を征服してしまえば、ラダトームにもデルコンダルにも睨みを利かせることができる地理的条件を満たせますし、肥沃な平地もあるので国力の面でも両国に十分対抗できま~す。
これで当初の目的は十分に達成できたはずで~す。
しかし『I』の主人公の征服は止まることなく、ローレシア大陸まで併呑してしまいました。
建国当初は広いだけの未開の地だったかもしれませんが、肥沃な平地がある限り、すぐに国力は伸張しま~す。現に領内の町であるリリザやムーンペタは、『II』の時代には城塞都市メルキド以上の規模の存在となっていました。
こんな超大国「大ローレシア帝国」が出現したのでは、ラダトームとデルコンダルもその属国となるしかなく、この帝国が人類の新たな最大の脅威になってしまいかねませ~ん。
一体なぜこんなことになってしまったのでしょうか?
2.予定外の領土膨張の原因
この広大すぎる領土拡張の原因として、最初に思いつく仮説は、「『I』の主人公はやはり欲のかたまりであり、世界の半分を領有しなければ気がすまない人物だった。よって彼が権力の暴走を怖れていたなどという星月夜の説は間違いだ!」というもので~す。
しかしそんなに欲深い人間なら、やはりラルス16世の世界征服プランに当初から乗ったでしょうし、ロトのつるぎもロトのかぶともアレフガルドに置き去りにするなどという縛りプレイで征服をするとは到底考えられませ~ん。
やはり自分は無欲でありながら「もっと国土を広げよう」という国内の声を抑えられなくなったと考えるのが適切で~す。
ではその、ロト以来の悲願である目標を台無しにする領土拡張運動の総大将は誰だったのでしょうか?
星月夜が考えるに、それは元ローラ姫であるローラ后で~す。
当初の目標以上の領土が「ローレシア大陸」と呼ばれ、そこへ行くための海底トンネルが「ローラの門」と呼ばれているのも、余計な領土拡張運動の首班が『I』の主人公ではなくローラ后だったことを示していま~す。
では竜王より強い主人公が、なぜこの通常のドラゴンよりも弱い后の行動を抑えられなかったのでしょうか?
それは后の「そんな ひどい……」の力でしょうね~。ローラ后は国の名目上の最高権力者である夫から、時間さえかければ好きな言質をいつでも採れるので~す。
こうしてローラ后は、父もそのライバルの竜王も成し得なかった「ロトの子孫を活用して世界を征服する」という目標を、達成したので~す。
3.主人公の反撃
これでは『I』の主人公が理想としていた国家間の勢力均衡は成立しませんね~。外部に対抗できる勢力がいなければ「大ローレシア帝国」は腐敗しやすい国となり、かつ腐敗した瞬間に世界は滅亡で~す。
そこで分割相続を通じて、その新帝国をさらに三つに分けたのでしょう。
しかもそれぞれの国に物理偏重・魔法偏重・バランス型という伝統を遺したので~す。せっかく国を三つに分けても、各国に特徴というものがなければ、結局はほんの少しの国力の差から他国を完全に圧倒する国ができる可能性が高いと考えたのでしょう。もうこの時点で三権分立思想の一歩手前あたりまで来ていたといえますね~。
冒険中は戦士・僧侶・魔法使いという特徴のある三名の仲間に助けられていながら、自分の遺品を特徴のない「3にんの けんじゃ」たちに託したロトの知見を、この時点ではすでに越えていたといえましょう。
5.そして『ドラゴンクエストX』
そして『ドラゴンクエストX』でも、「大アリアハン帝国」崩壊にヒントを得て「大ラダトーム帝国」や「大ローレシア帝国」の成立を阻止したロト一族の行動に類似した歴史が語られました。
ルティアナは、最強である万能型の長男であるナドラガを産んだ後、長男の反対を押し切って、能力に偏りのある第二子から第七子までを産みました。
これは確かに長男の堕落の直接の原因になりました。
しかし第二子を産みさえしなければその後も絶対に長男が堕落しなかったという保証はありませ~ん。
そういう意味では、長男に多少恨まれてでも新しく六つの神権を建てるというのは、長い目で見れば保険になったと思われま~す。