今年の3月9日に、「エステラさんの語源には、"*h₂stḗr"のみならず"ὑστέρα"もあると考えました。これで、ナドラガンドの領界が五つであることや闇の領界が漆黒でなく紫がかっていることまで説明できました」という記事を書きました。
この記事では、ナドラガ神には虚空蔵菩薩のイメージが投影されていると主張し、その根拠の一つとして「五大虚空蔵菩薩」を紹介しました。
ただしこの時の星月夜はまだ肉眼で五大虚空蔵菩薩像を見たことがなく、文献で知った知識を元に記事を書いていました。
すると不思議な縁もあったもので、3月26日から東京国立博物館で「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」*1という特別展が開催されまして、京都の東寺から五大虚空蔵菩薩像が東京にやってきました。
しばらく忙しくて見に行けなかったのですが、最近やっと行きました。
夕月夜「久々の上野ですね~。わくわくで~す」
星月夜「空いているといいな~」
夕月夜「40分待ちだそうですよ~」
星月夜「一人で並んだら辛いところだったわ~。二人で来て大正解」
数十分後
夕月夜「25番「両界曼荼羅図」。う~ん、いいですね~。やっぱり真言宗といえば曼荼羅ですね~。どのキャラが何て名前なのかはほとんど知りませんけど~。御姉様は全部言えます?」
星月夜「流石に無理ね~。でも胎蔵界のあのあたり一帯が、本日のお目当てである虚空蔵菩薩が代表者を務める「虚空蔵院」であることは、予習してきたわ~」
夕月夜「その虚空蔵院の中だけ、変な生き物が飛んでますね~。あれは何ですの?」
星月夜「ああ、あれ「飛天」っていうのよ」
夕月夜「飛天といえば「くらやみ飛天」! またもやナドラガ神と虚空蔵菩薩の関連性を一つ発見ですね」
数分後
夕月夜「42番「火羅図」。元はサンスクリットの「ホーラー」。へ~、平安時代が舞台のアニメ『牙狼 紅蓮ノ月』で「火羅」と書いて「ホラー」と読ませていたのって、ちゃんとした元ネタがあったんですね~!!」
星月夜「うんうん、火羅とは「一時間における天体の位置の変化」ぐらいの意味ね。そしてここでいう一時間は当時の東アジアで流行していた十二時辰の「半刻」なんかじゃなく、現代の「3600秒」とほぼ同じ意味よ~」
夕月夜「わお! 牙狼シリーズの魔戒騎士の鎧の装着限界時間が100秒って設定は、随分と近代的すぎると思えていましたが、火羅の力から創られた鎧なのですから、実は非常に優れた設定だったんですね~」
星月夜「なおここでは解説されてないけど、サンスクリットにおいて"होरा"(ホーラー)は外来語であって、元々は古典ギリシア語の"ὥρα"(ホーラー)ね。ちなみにイオニア弁の古典ギリシア語だと「ホーレー」と発音するのよ~」
夕月夜「ギリシアからイオニア弁に汚染されずにインドにやってきたホラーですか~、ロマンがありま~す!」
数分後
夕月夜「いよいよ95番「五大虚空蔵菩薩坐像」ですね~」
星月夜「なんと素晴らしい! ここは15分は粘るわよ!」
数時間後
雨月「うわ~、私も一緒に行きたかったわ~。6月2日で終わってしまうんか~。行きたいな~。でも土日は混みそうやしな~。迷うわ~」
夕月夜「そんな雨月ちゃんにお土産よ~」
雨月「わ~、結構お高い図録やんか~。これは嬉しいわ~。この涼しい部屋にいながらにして、東寺の秘宝を楽しめるな~」
星月夜「う~ん、でも立体的な像が正式な配置で並んでいる姿の美は、個々の作品の写真だけではわからないと思うよ~。曼荼羅が大好きな空海は、像の配置にも深いこだわりを持っていて、それがまた一種の立体版の曼荼羅としての機能を持っていたわけだしね。さて、この教訓を通じて「全体とは単なる部分の総和ではない」という命題を学べるね。まさに『ミリンダ王の問い』ね~。と、仏教ネタでまとめてみました」
夕月夜「そういえば、五大虚空蔵菩薩像たちがそれぞれ別方向を向いて鎮座している有様は、全体でまた一個の美でしたわ~。「図録を読むだけでは密教美術は理解しきれない」という教訓は、まるで『理趣釈経』を最澄に貸し渋ったときの空海の主張みたいですね~。と、東寺ネタでまとめてみました」
雨月「しくしくしく」