ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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聖守護者の闘戦記を『ラーマーヤナ』で解釈してみました。するとガートラントと「守護」の相性の良さの理由まで見えてきました。

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0.はじめに

 本日は、聖守護者の闘戦記について、『ラーマーヤナ』が重要な元ネタであるという仮説を立て、それに従って解釈を進めてみました。

1.『ラーマーヤナ』紹介

 "रामायण"(『ラーマーヤナ』)とは、古代インドの叙事詩で~す。

 日本では『天空の城ラピュタ』のムスカによる誤った発音のせいで「ラーマヤーナ」という訛りが人口に膾炙していますが、これは間違いで~す。

 また同作品から『ラーマーヤナ』の「インドラの矢」が大量破壊兵器であると誤解している人も多いですが、実際にはこれはラーヴァナ個人を殺すのに使われたものであり、威力としては災厄の王の「インドラの矢」に近いで~す。

 ラピュタの影響力が強すぎて誤解が広まった理由としては、ライバルの『マハーバーラタ』と違い長らく全訳が出ていなかったこともあるでしょう。しかし2012年から2013年にかけて平凡社から全七巻が出版され、今後は徐々に真の内容が世間の常識になっていくのではないかと期待していま~す。

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 内容は、ヴィシュヌ神の25%部分の化身であるラーマ王子の活躍を描くもので~す。

 彼が生まれてきた目的は羅刹王ラーヴァナを倒すためであり、物語上もラーヴァナの軍団との戦いが一番の重きを占めま~す。

 ラーマはラーヴァナに妻のシーター姫をさらわれたり、羅刹の本拠地であるランカー島に渡るのに苦労したりしますが、最終決戦ではそれまであまり登場しなかったインドラの矢をいきなり使って羅刹王ラーヴァナに勝利しま~す。そしてラーヴァナの弟ヴィビーシャナを新たな羅刹王に任命し、インドに帰還し、王になりま~す。

 こう語ると、何だか初代『ドラゴンクエスト』への影響も強そうですね。

 主人公は一応は王族(元ロマリア王の子孫)であり、竜王に未来の妻ローラ姫をさらわれ、「まのしま」に渡るのに苦労し、最終決戦では登場したばかりのロトのつるぎ竜王に勝利しました。そして竜王の一族の良識派はその後も「まのしま」の王として認められ続け、主人公はラダトームに帰還し、やがてローレシア王になりました。

2.ラーヴァナとバラシュナの五つの類似性

 『ラーマーヤナ』の最大の悪役であるラーヴァナと「聖守護者の闘戦記」の敵の元締めであるバラシュナには、多くの類似性がありま~す。

 第一に、ラーヴァナとバラシュナはともに「羅刹王」であり、これこそが『ラーマーヤナ』が聖守護者の闘戦記の重要な元ネタの一つではないかと考えた最初の理由で~す。

 第二に、固有名詞の発音の類似性もありま~す。「シュ」に当たる部分こそないものの、「ラ」や「ナ」は共通しており、「バ」と「ヴァ」は大変近いで~す。余談ながら、「ヴァ」行と「バ」行については、今年の「在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律」の改正で同一化されたことも、記憶に新しいで~す。

 第三に、多彩な部下を持っている点でも、両者は共通していま~す。

 第四に、倒したのが化身状態の神か神そのものかという違いこそあれど、神に倒されたという点でも共通していますね~。

 第五は、後継者の類似性なのですが、これについては非常に長くなるので、以下の章を使ってゆっくり語りま~す。

3.『ラーマーヤナ』の羅刹王家史の紹介

 ラーヴァナが王を務めていた「羅刹」とは、"राक्षस"(ラークシャサ)という鬼神族の音訳で~す。

 『ラーマーヤナ』の第七巻では「羅刹史」が語られま~す。本章ではこの要約を語りま~す。

 神が水の守護をさせるための人間を創ったとき、彼らの中で「水を守護したい」と申し出た者たちが「守護」を語源とする羅刹となり、「水を供養したい」と申し出た者たちが「供養」を語源とする夜叉(ヤクシャ)となったのだそうで~す。

 最初の羅刹王は二人いましたが、子孫を残したのはヘーティという羅刹王でした。

 ヘーティの子がヴィディウト=ケーシャ。そのまた子がスケーシャで~す。

 スケーシャにはマーリヤヴァト・スマーリン・マーリンという三人の子がいましたが、このころから羅刹王家は修行と梵天ブラフマー)の加護によって強くなり増長したため、三兄弟で最強だったマーリンがヴィシュヌ神に殺され、残党は地下に逃れました。

 生きのびたスマーリンは、ヴィシュラヴァスの子であるヴァイシュラヴァナの羽振りがいいことに目をつけ、ヴィシュラヴァスの遺伝子を自分の血統に取り入れることで一族を再興させようと考えました。そして娘のカイカシーをヴィシュラヴァスに嫁がせた結果、ラーヴァナ・クンバカルナ・シュールパナカー・ヴィビーシャナという四人の孫を得ました。

 カイカシーはラーヴァナを異母兄のヴァイシュラヴァナをライバル視するように育てました。その甲斐あって、やがてラーヴァナはヴァイシュラヴァナに勝ってランカー島を奪いま~す。

 でもラーヴァナは結局はラーマに殺され、ラーマに寝返っていた弟のヴィビーシャナに羅刹王の地位を奪われることは、本稿の第1章で解説したとおりで~す。

4.羅刹王家史とオーガ史の類似性

 前章で紹介した『ラーマーヤナ』の羅刹王家の歴史は、『ドラゴンクエストX』のオーガの歴史と随分類似性がありますね~。

 大昔にバラシュナが滅んだ後に代わって栄えたのは、バラシュナから見てまったくの他者ではなく、元はモンスターでありながらガズバランに寝返ったオーガ族でした。

 モンスターとしてのオーガ族は、モンスターとしての人間族(ごろつきなど)とは違って大きな盾を持ったタイプのもの(オーガキングなど)が多く、「守護」を語源とする羅刹に近いイメージを持っていま~す。

 そしてこの歴史はガートラントの地限定でもう一度繰り返されま~す。

 500年前、守護者ラズバーンのレイダメテス計画の余波でドランド平原の開拓が始まり、それによって羅刹王バラシュナの眷属が一度は復活しました。

 でもやはりオーガ族の聖守護者ガラテアによってすぐに封印されてしまいました。

 こうしてドランド平原にはガートラント王国が成立し、守備に特化したパラディンの本拠地となりました。

 このように、バラシュナ一門の転落物語には、過剰な程繰り返し「かつてはバラシュナの味方だった者が取って代わる」「敵も味方も守護者」という二つのイメージが強調されているので~す。

 これはやはり、「守護を語源とする羅刹族は、ラーヴァナが王の時代に良識派ヴィシュヌ神側に寝返り、その代表であるヴィビーシャナがラーヴァナの本拠地であるランカー島を奪って新しい羅刹王になった」という『ラーマーヤナ』の物語の影響の下、「守備が得意なオーガ族は、ガズバランによってその一部が良識派となり、羅刹王バラシュナに取って代わり栄え、やがて代表格であるガートラント王家がバラシュナの本拠地である鬼神の大岩まで奪った」という物語が作られたと考えました。

5.呪術師マリーンについて

 そしてこのガートラントでは、呪術師マリーンが自分のいいなりになるオーガの軍団を結成しようとして失敗していま~す。これも、羅刹王子マーリンが羅刹の軍を率いるも敗死した件に、少しだけ似ていますね~。

 「王宮で威張る呪術師」という設定からマリーンについて考えると、アーサー王の部下の魔術師"Merlin"(マーリン)を想起しやすいで~す。でもアーサー王の部下の魔術師マーリンが、その後「ウーサー王の部下の魔法使いマーガリン」に直球で影響を与えたことを考えると、運営が魔術師マーリンを強く意識して呪術師マリーンを作った可能性は低そうで~す。

 むしろ「防御の国」であり「羅刹の国」であるガートラントの物語として、「羅刹王子マーリン」をインド神話から借用したと考えるほうが自然だと考えました。

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(2020年2月19日追記)

 次の聖守護者の敵は「ガルドドン」らしいで~す。「ガルド」を「ガード」と解釈すると、また直球で「守護」であり、まさに「羅刹」ですね~。

(2021年3月25日追記)

 聖守護者第五弾のデルメゼも、『ラーマーヤナ』がらみでした。詳細は本日の記事にて。

(2021年6月15日追記)

 ラーヴァナの被害者の一人である異母兄のヴァイシュラヴァナも、名前の部分が羅刹王バラシュナの元ネタになったのだろうと気づきました。「ヴァイシュラヴァナ」は「ヴィシュラヴァスの子」という意味なので、ある意味ではラーヴァナ自身もまたもう一人のヴァイシュラヴァナですからね。

 ついでにいうと、ヴァイシュラヴァナは仏教に取り入れられたのち、やはり部下として羅刹を率いる立場となったようで~す。