ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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偽の魔幻宮殿のマデサゴーラの作品群の紹介と考察

0.はじめに

 偽の魔幻宮殿は丁寧に作り込まれていて開発陣の総合芸術という趣がありますが、多くのプレイヤーはほとんど鑑賞せずに物語を進めてしまうようで、あまり話題になっていませ~ん。

 配信当時の冒険者にとっては登場モンスターは強敵ぞろいだったので、戦いを避けることだけで頭がいっぱいだった人が多かったのでしょう。そしてその後の冒険者にとっては「早く2.3を終わらせて2.4に行きたい!」という気持ちで頭がいっぱいの人が多かったのでしょう。

 これはかなりもったいないことだと思っていたので、5.1でマデサゴーラが再評価された今こそ偽の魔幻宮殿を紹介する記事を書いてみようという気になりました。

 当初は自分でも「今さら感」のある記事を書く予定だったのですが、魔界芸術史と前期マデサゴーラ芸術の知識を得た今だからこそできた考察も多かったので、この時期になってようやく星月夜が重い腰を上げたのは、よい運命だったと考えておりま~す。

 なお作品群は飾られている区画ごとに共通の主題があるので、まずそれに従って分けて章を作りました。

 その各章の順序については、ルネデリコが現地の中ボスを「エビルキュビズム」・「ワイルドフォビズム」・「ダークレアリズム」の順に並べていたので、その順こそが公式と考えて従いました。討伐モンスターリストではまた別の順序ですが、あちらは公式が考える倒すべき順序のみならず公式が考える強さの序列も勘案されている可能性が高いので、不採用としました。

 その上で、各章内の作品は解説者の創生番号順に並べました。宮殿中央の大魔王の業績の語り部たちも内容が番号順になっていたので、それにならったというわけで~す。またどの区画でも絵画モンスターが潜んでいた絵の解説者の創生番号がその地区で一番小さな数値なので、やはりこの番号には意味があると考えたので~す。

1.宮殿北の青い区域の作品群

1-560.『楽園』

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 エビルキュビズムとの戦いに勝って楽園から雷雲をはらったあとの絵で~す。

1-794.『辺獄』

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 強い光と違って安らぎを感じる淡い光ですが、解説者はこれも実は身を焦がす光であるということ示唆していました。

1-832.『此岸』

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 「此岸」の原義は「自分から見て川の手前側の岸」の意味ですが、「楽園」や「辺獄」といった単語と並列させた場合には、文脈上「この世」の比喩表現になりま~す。

 ここでは解説者が死人というものの無価値さを説いていま~す。

 そうしたことからこれらの三連作の意味を考えるに、善人が死後に行くといわれる「楽園」をまず見せ、次に善人でも悪人でもない者が死後に行くといわれる「辺獄」を見せ、かつ辺獄の炎が悪人を焼く地獄の炎と同じぐらい熱いことを示唆して不安に陥れた挙句、そもそも元善人であれ元悪人であれこの世の生者にとっては「死人に意味なし」であるという身も蓋もない現実を叩きつけるというものだということになりますね。

1-考察

 地球の「キュビズム」は、物体を幾多の方向から捉えてしかもそれらを一枚の絵に表現してしまう革命的なものでしたが、魔界の「エビルキュビズム」は一つの概念を多角的に捉えて複数の写実的な絵で表現するという、非常に保守的なものですね。

 これはエビルキュビズムが、古来より魔界で主流だった「ヘルデモニスム」の系譜から出た「前期マジックデモニスム」・「後期マジックデモニスム」をさらに発展させた末のものであることと関係しているでしょう。

 なおマデサゴーラ以前からの伝統であるせいか、エビルキュビズムの先駆であるこれらの主義だけ語尾が英語風の「イズム」ではなくフランス語風に「イスム」と発音されているので、ブロガーは表記のさいに注意が必要で~す。クイズの引っかけ問題にも使えそうですね~。

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 参考までに魔幻園の『マジックデモニスム』。

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 『エビルキュビズム』(ルネデリコによる模写版)。

2.宮殿西の赤い区域の作品群

2-513.『自由の窓辺』

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 ワイルドフォビズムとの戦いで鳥かごから鳥を解放したあとの絵で~す。

 解説者によると、人間が自由を謳歌してもそれは実は鳥かごの中の自由だったりするのだとか。

2-666.『静寂の窓辺』

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 『自由の窓辺』では解放されたかに見えた鳥の死が暗示されていますね。解説者によると、鑑賞者の多くは小鳥殺害の犯人が「猫が見ている何か」だと思い込むものの、真犯人は猫らしいで~す。

 「666」は『ヨハネ黙示録』で「獣の数字」とされており、また「フォビズム」とは「野獣主義」という意味なので、この絵こそが宮殿西の中でも一番重要な絵であるといえましょう。

2-741.『閉塞の窓辺』

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 窓を閉じても視線はこちらを見通しているということを通じて、世界創造主であるマデサゴーラが何でも見通しているということを表現したようで~す。

2-考察

 窓を開いて行動が自由になったかに見えた鳥が、結局は野獣に食べられてしまう。窓を閉めて他人の視線から自由になったかに思えた住民が、結局は創造主の視線から逃れられていない。

 「開けることで逃げだせる」と「閉めることで籠城できる」という、「自由」に対する「窓」の二面性を両方表現していま~す。しかしどちらにせよ、弱者は不自由のままであり、強者は真の自由を謳歌していますね~。

 地球のフォーヴィスムが「野獣」に込めた意味は単なる創作者側の「形式からの自由」だったわけですが、魔界のワイルドフォビズムは、創造者という強者が自由を謳歌する影では弱者が不自由を強いられているという弱肉強食の現実を鋭く偽悪的にえぐっていますね~。

 これはワイルドフォビズムが、「魔界では軽視されがちだった 死という概念に 美を見出し」た運動だった「デスロマニズム」を発展させたものだったこととも深く関わっているのでしょう。

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 参考までに魔幻園の『デスロマニズム』。

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 『ワイルドフォビズム』(ルネデリコによる模写版)。

3.宮殿東の黄色い区域の作品群

3-617.『森の秘密

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 ダークレアリズムとの戦いで茨から妖精を解放したあとの絵で~す。

 夜の静寂を乱し思考の邪魔をする無秩序な妖精が憎悪の対象になっていました。

3-876.『森の番人』

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 『森の秘密』で解放され自由を謳歌していた妖精が、結局は森の番人である蜘蛛によって退治されていました。

 話の流れとしては『自由の窓辺』のハッピーエンドを『静寂の窓辺』で覆したのと同じですね~。

3-899.『森の神性』

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 さらに一転してまた「不規則」が礼賛されていま~す。からみ合うヘビたちの不規則さ・不自然さを通じて「混沌」を描いたようで~す。そして世界は混沌で満たされるべきなのだとか。

3-考察

 この区域を守る「ダークレアリズム」は、空想や夢想による現実の超越・浸食を目指す理念を体現したもので~す。

 そしてその原点は「超暗黒主義」とも訳される「スーパーダーキズム」であり、「万物の混沌を表す暗黒の美の探求」なのだそうで~す。

 するとやはり宮殿東は、「混沌」が賞賛の対象なのでしょう。

 秩序の内側で不規則に踊る妖精という低レベルな混沌を、一度は番人という秩序によって否定させておきながら、最後は世界全体を混沌とするという高化した混沌の試みという止揚でうまくまとめた形で~す。

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 参考までに魔幻園の『スーパーダーキズム』。

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 『ダークレアリズム』(ルネデリコによる模写版)。

4.宮殿中央『女神』と紫色の玉座の間

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 三区画の絵から失われた雷雲・鳥かご・茨がこの絵に凝縮されており、ここから紫色を基調とした玉座の間へといけま~す。

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5.偽の魔幻宮殿全体が芸術だった!

 。どこかで見た色の組み合わせだと思ったら、アビスジュエルを使ったときに見える、各国のパーソナルカラーでした。

 しかもイデオロギーも対応していま~す。

 主流派の「ヘルデモニスム」から「前期マジックデモニスム」・「後期マジックデモニスム」へと発展してきた伝統を受け継ぐ「エビルキュビズム」が守る区域は、伝統を重んじマジックに秀でたゼクレス魔導国の色。死者を軽視する『此岸』が象徴するのは、名君イーヴ王の死後にエルガドーラが国策を変えてしまった件でしょうね~。

 死の美学を重視する「デスロマニズム」から発展し、強者の自由と弱者の不自由を描く「ワイルドフォビズム」が守る区域は、戦争好きで弱肉強食が国是のバルディスタ要塞の色。『静寂の窓辺』の一見無害そうなのに実は害のある猫が象徴するのは、美人なのにやたら強いヴァレリア。

 混沌を重視する「スーパーダーキズム」(「超暗黒主義」)から発展し、夢の世界のような混沌を追求し続ける「ダークレアリズム」が守る区域は、暗鉄神を崇めていたネクロデアの残党の協力の下で建てられた混沌の国である砂の都ファラザードの色。複雑に絡み合う二匹の蛇が象徴するのはユシュカとナジーン。

 そして三区域を統合する中央の玉座の間は、大魔王直轄の魔幻都市ゴーラの色

 すなわち偽の魔幻宮殿全体が、傘下の有力三国をゴーラが統合するという理念を体現した芸術だったということになりま~す。

 「協調」によって多様な要素を統合したつもりのユシュカの国も、大魔王によるより上位の統合においては一要素にすぎなかったということですね~。

6.創造神マデサゴーラの三大世界にも対応

 そしてこれは創造神マデサゴーラの三大世界にも対応していました。

 「加速する世界」では呪文を使いまくってきました。呪文大好きゼクレス魔導国風の戦いかたで~す。

 「不浄なる世界」では状態異常攻撃をしまくってきました。魔瘴弾大好きバルディスタ要塞風の戦いかたで~す。

 「混沌たる世界」は、名前の時点で考察するまでもなく混沌大好き砂の都ファラザード風で~す。

 内容のみならず、順番まできっちり対応していますね。

 ちょうど4thディスクの内容がヒストリカ博士の関連クエストで予告されていたように*1、5thディスクの内容は2.3の偽魔幻宮殿と2.4の創造神マデサゴーラの戦いかたで予告されていたといえましょう。

7.魔幻の覇王軍がマンネリな理由(3月7日追記)

 これで邪神の宮殿の「魔幻の覇王軍」で、魔幻の芸術家が開幕に使ってくる技とそのお供の組み合わせがマンネリである理由もわかりましたね。

 ゼクレス精神を体現したエビルキュビズムがお供のときは、必ず「加速の領域」

 バルディスタ精神を体現したワイルドフォビズムがお供のときは、必ず「不浄の領域」

 ファラザード精神を体現したダークレアリズムがお供のときは、必ず「混沌の領域」

 「このマンネリ化した組み合わせがたまに変化したら、冒険者も決まりきった対処ができなくなり、魔幻の覇王軍は毎回面白くなる!」とか思っていたのですが、そう思っていた自分のほうが浅はかでした。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや!

8.余談

 よく考えたら、自分の親類縁者にも似てました。

星月夜「これを機に全員自己紹介!」

夕月夜「筆者の妹で、伝統と秩序とヨーロッパ風文化を愛する夕月夜で~す。今後はエルガドーラさんみたいな声で喋っていると想像しながら読んでくださいね」

暁月夜「筆者の従妹で、バトルを愛する暁月夜だ。よくヴァレリアと声が似ているといわれる」

雨月「筆者の遠縁で、頭の中がカオスだといわれる雨月や。ジルガモットさんみたいな声かもしれないし、そうじゃないかもしれない」

卯の花月夜「筆者の母で、最近魔仙卿の物真似に凝っている卯の花月夜です。というわけで星ちゃんは今後はマデサゴーラみたいな声で喋りなさい」

(2021年10月2日追記)

 ダークレアリズムの作品群は、5.5後期メインストーリーの内容を参考に、新たな解釈を加えました。詳細は本日の記事にて。