ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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ナジーンが隻眼で黒服のキャラである理由

0.はじめに

 ナジーンが隻眼であることの、物語上の理由は、200年前にゾブリス将軍にくり抜かれたからだということになっておりま~す*1

 また砂漠で暑そうなのにあえて暑苦しい黒服をまとっていることの、物語上の理由は、暗鉄神を崇めるネクロデア文化の出身であるからなのでしょう。

 しかし本稿の主題ではそこにとどまらず、そうしたキャラ設定を生み出した背景にある文化的な事情などを考察したいと思っておりま~す。

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1.隻眼考

1-1.鍛冶の神々における傾向

 日本神話の天目一箇神(あめのまひとつのかみ)ギリシア神話Κύκλωψ(キュクロープス)も、鍛冶の神でありかつ隻眼で~す。

 当時の鍛冶の技法として片目だけを使って金属の状態をより正確に把握するというものがあり、またそのことで片目だけ先に悪くなるという職業病があったため、「鍛冶の神は隻眼」という世界的な傾向が生じたともいわれていま~す。

 ネクロデアは暗鉄鉱ネクロダイトの採掘と精錬で栄えた国であり、ナジーンはその国の王子で魔剣アストロンの製作者の一人で~す。そうした経緯もあってキャラデザインにおいて地球の鍛冶の神が参考にされ、隻眼になった可能性が高いで~す。

1-2.天目一箇神の影響

 ネクロデアでは鉱山そのものを暗鉄神ネクロジームとして崇めていました。

 こういう信仰のあり方は非常に日本的で~す。山そのものが御神体である例としては、大物主神を祀っている三輪山などが挙げられるでしょう。

 しかも『ドラゴンクエストX』は人格神が実在して影響力をふるっている世界なのですから、ますますその信仰の特異性が際立ちま~す。ネクロデアの酒場にダーマ神官がいなかった件については、クエスト「仮面の下の素顔」の紹介記事で書いたとおりで~す。

 だからネクロデアの重要な元ネタの一つが日本の神道的側面なのは、まず間違いないでしょう。

 そして『日本書紀』に引用される「一書」によれば、天目一箇神には、大人しく高天原に帰順した旧土着勢力である大物主神を祀る役目が与えられたとされていま~す。

 ユシュカの部屋の本棚の本によれば、ナジーンはネクロデアの再興を拒否してファラザードの副官になり、かつ200年間地道にネクロデアの犠牲者たちを祀り続けたようで~す。

 「ネクロジーム」・「ネクロデア」・「ネクロデアの後継者としてのナジーン」の三者には大物主神のイメージが投影されており、「200年間ものネクロデアの追悼者としてのナジーン」には天目一箇神が投影されていると考えていることができましょう。

1-3.Κύκλωψの影響

 ギリシア神話において「ティーターノマキアー」と呼ばれたゼウスとクロノスとの戦いは、当初は膠着状態でした。でもゼウスが救ったΚύκλωψが、自作の武器をゼウスたちに献上したことで、一気にゼウス側が有利になりました。

 ファラザードとバルディスタの戦いも、当初はファラザードが籠城戦をしたことで長引きそうでした。そしてかつてユシュカに救われたナジーンは、かつて製作した魔剣アストロンが勝利へのカギとなると考えました。

 魔界大戦の趨勢が一振りの剣で左右されるという思考は、かなり非常識で~す。でもだからこそ、「ナジーンには、救命の返礼にゼウスたちに自作の武器を献上したΚύκλωψが投影されている」という説の、強い証拠となりま~す。

 もしもこれがいつぞやの「太陽の弾」*2などのように、いかにも戦争の切り札というイメージの破壊兵器を用いるという自然な話の流れだった場合には、それは元ネタなしで自然に創作された話である可能性が高いですからね~。

 余談になりますが、ナジーンにはさらに元ネタに忠実に行動してほしかったですね~。ゼウスに由来するグランゼニスの申し子である盟友が、クロノスと名前の似ているキュロノスと戦っているときに、武器をくれるとか…。

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2.黒服考

2-1.陰陽

 血統を重んじるゼクレスではナンバー2が血縁でエルガドーラと決まっており、実力を重んじるバルディスタではナンバー2が功績でベルトロと決まっていました。

 だから異なる立場の者が知恵を出し合うことで物事を解決していく「協調」という概念を重んじるファラザードでは、やはりユシュカと組んだときに生み出せる利益の総量でナンバー2が決まると考えたほうがいいでしょう。

 そしてナジーンはユシュカとちょうど陰と陽の関係にあり、両者の交わりが多大な利益を生み出してきました。

 ユシュカは普段から明るく振る舞い犯罪者とも宴会をして懐柔していくという、「陽」の役割を果たしていました。このため多くの民から慕われていましたが、これだけでは国は成り立ちませ~ん。

 そこで「陰」として嫌われ役の元締めをしていたのがナジーンで~す。これについては裏通りでボハラが「ファラザードが抱える さまざまな闇を ナジーン殿が 一手に引き受けて 解決したからこそ この国は発展したのだ」と語ってくれま~す。その影の仕事の具体例の一つが、地下牢の犯罪者の処断ですね~*3

 バルディスタではヴァレリアが、「弱者に慈悲深い聖女」と「強者を優遇する魔女」の陰陽や「引き際の天才」と「最前線で戦う猪武者」の陰陽を、一人でバランスよくこなしていました。つまり昨日の記事で書いたように、ヴァレリアはヴ王ナウシカ「破壊と慈悲の混沌」そのものなので~す。

 そしてユシュカとナジーンは二人そろってやっとそのレベルなので~す。

 それは二人の名前からも明らかで~す。「ナジーン」から「ナ」を採用し、「ユシュカ」から「uシ」と「カ」を採用し、つなげれば「ナウシカ」ですもん。

2-2.陰陽を教えたのは?

 ユシュカに、「協調」という概念を教えたのはアストルティアから来た「師匠」であることが、デモンマウンテンで語られました。

 この「師匠」の正体がマリーンである可能性が高いというクミユさんの先行研究については、「クエスト「華のウルフ道極めるっす!」 & 5.0時代のクエストボスをコンプリート。あとは万魔のボスのみですが…。」という記事に貼ったリンクから読みにいけま~す。

 師匠がマリーンであった場合、師匠は単にアストルティアの常識として協調を知っていただけでなく、「陰と陽の協調」をラウルとともに実体験していたことになりま~す。これについては「縞模様の歴史と陰陽説から考える、光と闇のプクリポ」という記事でも書きました。

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 妖精図書館の物語では、本来「陽」であるラウルのほうが服だけはで、本来「陰」であるリィンのほうが服だけはでしたが、「陽中に陰有り、陰中に陽有り」は陰陽思想の基本なので、これでいいので~す!

 このの協調をユシュカとナジーンが再現していることからも、師匠がマリーンである可能性がさらに少し高まると思いま~す。

 師匠がもし別人で、たとえば天地雷鳴士出身だったら、陰陽を「」ではなく「」と考えると思うんですよね~。