0.はじめに
『魔導の王国 その歴史』には「長く 大魔王を輩出せざる ゼクレス魔導国」とありま~す*1。
ゼクレスから大魔王が出にくい原因については、いくらでも想像をたくましくすることができますし、また単なる偶然の可能性もありま~す。
でもそれでは際限がなくなるので、最低限の典拠のある範囲内で想像をしてみました。
1.候補者の質と量とを下げる徹底的な階級制
ゼクレスは階級制が厳しいので、魔王以外の者には基本的に大魔王への挑戦権はないようで~す。挑戦したい人物がいても、徹底的に潰すのでしょう。
だからもうこの時点でゼクレスからの候補者は一名に絞られてしまい、当然ゼクレスの出身者が大魔王になる確率は低下するわけで~す。
しかもその魔王が壮健とは限らないので、ますます大魔王に選ばれる可能性が低下してしまうので~す。
候補者の「量」の問題については主に次章で続けて語りますが、この「質」の問題の最大の根拠は、宝物庫の「魔仙卿の錫杖」*2の紹介文にあった「大魔王選出の儀に向かう途中 病に倒れ ゴダ神殿にて息絶えた 当時のゼクレス王」という部分で~す。
「急病に倒れ」ではないので、元々半病人のような状態の魔王だったのでしょう。
たとえ原則は世襲制の国であっても、ゼクレスほど極端でなければ、そんな状態の魔王に無理はさせないでしょう。親子の一時的な地位の逆転が予測されようとも、王太子あたりに大魔王を目指させるのではないでしょうか。太子に限らず複数の王子に目指させれば、ますます確率は上がるでしょう。
でもそういった妥協を一切せず、たまたま大審門が開きそうなときに魔王だった人物に無理をさせてきたのが、ゼクレスの歴史なので~す。
2.名目上の候補者という援軍すら禁止
しかもこの「魔王以外のゼクレス人は大魔王への立候補禁止」法は極めて徹底的なものであり、たとえ名目上の立候補という形で魔王を支援することすら禁止のようであり、それは序列第二位にすら適用されるようで~す。
その根拠は5.0におけるエルガドーラの行動で~す。
もしも魔王以外のゼクレス人でも名目上の立候補なら許されるのであれば、エルガドーラはあの性格ですから自らも候補者となってアスバルを援護しまくったことでしょう。仮に念のため自分は国内にいる場合でも、信頼できる部下を名目上の候補者に仕立て上げたことでしょう。
でもエルガドーラが援軍として採用したのは、非ゼクレス民であるシシカバブでした*3。このせいでかえってアスバルの足を引っ張ってしまった上に、ファラザード軍を強大化させてしまいました。
この事件の当時はエルガドーラが無能すぎると思ったものですが、あれはゼクレス法に違反しない範囲で最大限の援助をしたいという、強い親心によるものだったのでしょうね~。
ベルトロと数名の兵は名目上の候補者になってヴァレリアを援護していましたが、もしもこの種の行為がゼクレスでも合法だったならば、大魔王になれたはずのゼクレス王ももっといたかもしれませ~ん。
3.強大な貴族たちの掣肘
「魔王以外のゼクレス人は大魔王への立候補禁止」法が厳しいと書くと、いかにも王権が強そうに思えますが、序列一位のアスバルと二位のエルガドーラが組んだ状態でも「今回は例外」と宣言できなかったということは、王権はむしろかなり弱く、この法は魔王に対する拘束でもあるということを意味しま~す。
貴族の中には王家と自家の勢力が一層隔絶してしまうことを快く思わない者も数多くいるからこそ、ある種の妥協としてこの制度が長らく維持されてきたのでしょう。
王権の弱さと貴族の強さの根拠は、貴族制廃止を目指したイーヴ王が貴族との政争に敗れて監禁され最後は殺されてしまったという歴史と、魔王であるアスバルをしもべにしようと企むリンベリィの態度で~す。
こうなってくると大魔王選定の儀の時代のゼクレス王と不仲な貴族の中には、別の有力候補を密かに援助していた者もいたかもしれませ~ん。
思い起こせば、エルガドーラほどの有力者がシシカバブにかけた呪いが不完全で逆にアスバルを苦労させたという物語も、かなり不自然でしたね。あれも本来は完璧な呪いだった状態に、面従腹背の貴族が余計な付加をしたのかもしれませ~ん。
ジパングの鎌倉幕府や室町幕府においても、自らは決して征夷大将軍の地位を目指さないものの、その将軍が朝廷における官位を上昇させていくことを快く思わない有力者が多かったといいま~す。
4.自国で厳しい事前審査
魔仙卿の課題は毎回異なるという設定なので、5.0のように「知の試練」が非常に簡単な回も数多くあったことでしょう。あるいはもっと簡単であったり、そもそも知を問わない回すらあったかもしれませ~ん。
ジャディンの園での性格検査*4にも、同じことがいえま~す。
でも5.2で判明したように、自分たちで勝手に知力・威厳・性格の三点に関する厳しい事前審査を魔王に課しているので~す*5。
若くして即位したばかりだけれども類稀なる才覚を秘めた少年王の中には、大審門まで行きさえすれば本来は大魔王になれたのに、ゼクレス流の事前審査で躓いてしまったという者も、多くいたかもしれませ~ん。
5.本能的復讐心を和らげる強い郷土愛
5.2の魔仙卿の発言によれば、魔界にはアストルティアから分断され厳しい環境に追いやられたことに対する復讐心が渦巻いており、それが大魔王に結集するシステムのようで~す。
でも自分たちこそ最高だと思い込んでいるゼクレスの上層部では、アストルティアへの羨望みたいな感情は概して弱いでしょう。
しかもその郷土愛は単なる独りよがりのものではなく、『ゼクレス名所探訪』に書かれているとおり、魔界には珍しく実際に「美しい自然の営みも 存在している」ので~す。
この郷土愛の最大の根拠は5.2のリンベリィのセリフ「よりによって アストルティア!? ヤダッ おぞましい!」で~す*6。
ゴダ神殿までなら実力で行けたゼクレス王の中には、アストルティアに対する征服欲の弱さを最終面接で見抜かれたことで大魔王に選ばれなかった者も、数多くいたかもしれませ~ん。
6.簡単にアストルティアに行ける立場
復讐心とは別の動機でアストルティアに行きたがる者も魔界には数多くいるでしょう。
そういう魔族が自力ではアストルティアへの魔法の門を作れなかった場合、まずは偉くなって部下に門を作らせようとすることでしょう。魔力が高く門作りの知識もあるような部下がなかなか集まらなかった場合、いっそゼクレスに門を作れと命令できる立場である大魔王を目指そうと努力するかもしれませ~ん。
でも魔術に秀でたゼクレス魔導国では、かつて自国が開発した儀式でかなり簡単にアストルティアへの観光ができるというわけで~す。魔王自身がたまたま魔力の才能が低くても、ゼクレスならば同時代に門を作れる部下がいる可能性が高いわけで~す。
その根拠は、個人の立場でアストルティアに行ったイーヴ王とアスバルの実績で~す。
前掲『魔導の王国 その歴史』に紹介された「ゼクレス王家に連なる 魔導士」が、魔法の門の魔術を開発したのが具体的にいつごろであったかは不明ですが、この開発以後はますますゼクレス王は動機の点で最終面接で落とされやすくなったことでしょう。
(2021年7月13日追記)
ゼクレスが不利な理由、また一つ明かされました。詳細は本日の記事にて。
*1:https://hoshizukuyo.hatenablog.com/entry/2019/11/27/200000
*2:https://hoshizukuyo.hatenablog.com/entry/2020/02/19/200000
*3:https://hoshizukuyo.hatenablog.com/entry/2019/12/06/200000
*4:https://hoshizukuyo.hatenablog.com/entry/2019/12/07/200000
*5:https://hoshizukuyo.hatenablog.com/entry/2020/06/11/200000
*6:https://hoshizukuyo.hatenablog.com/entry/2020/06/09/200000