0.はじめに
本稿では、ファラザード城地下牢の囚人たちの置かれた立場について考えました。
1.登場人物の整理
※ウバダバ・・・・・・対話不能な囚人
※ゲルケ・・・・・・・快楽殺人鬼の囚人
※ビビアロ・・・・・・結婚詐欺師の囚人
※コカード・・・・・・看守
※サバス・・・・・・・看守
※ムルゲンチ・・・・・死刑執行官
※ナジーン・・・・・・前任裁判官
※ユシュカ・・・・・・後任裁判官?
2.法的には未決囚
地下牢の囚人たちについては、サバスが「じきに ムルゲンチ隊長のオノで まっぷたつにされる 運命なのさ」と語っており、ゲルケが「俺は 死刑が決まってるんだ」と語っていることから、死刑囚であるかのような印象を持ってしまった人も多いかと思いま~す。
でもコカードは「重罪を犯した者が 収監され 裁きの時を 待っている」と語っているので、法的には未決囚のようで~す。
ビビアロが保釈金を名目にした詐欺をしようとしてくることも、この「法的には未決囚」説が正解である可能性を高めま~す。
保釈という制度は、少なくともジパングでは未決囚に対するものであって、死刑や禁固刑が確定した者に対する制度ではありませ~ん。
ジパングの常識を機械的に適用するわけにはいきませんが、日本語で「保釈」とビビアロがいった以上は、相当の参考になるでしょう。
よって前掲のサバスやゲルケの発言は、「判例に照らすと死刑は免れない」という予測を意味していたにすぎない可能性が高いで~す。
あるいはゲルケについては、すでにいくつかの罪のせいで死刑判決が出ているものの、さらに別の犯罪の裁判が終わっていないのかもしれませ~ん。
3.裁判の遅延について
彼らは5.1クリアー以後も死刑にならずにずっと収監されていますが、この処遇については「前任裁判官が魔界大戦で戦死した*1ので裁判が遅延している」と説明することができま~す。
ナジーンが裁判を一手に引き受けていたことは、コカードが以前から語ってくれていました。なお5.2のコカードは、ユシュカが新たな裁判の責任者になったかのような発言をしてくれますが、確定情報というほどではありませ~ん。
また5.1以前においても、ウバダバについては慢性的な混乱により対話不能な状態になったので裁判を後回しにしたと考えることができま~す。
なお実はウバダバについてはもっと深い理由があった可能性もあるのですが、その詳細については話が長くなりすぎたので明日発表の「後篇」として独立させました。
一方、ゲルケとビビアロの裁判を5.1時代に放置していたのは不思議で~す。
魔界大戦の前半でファラザードは籠城戦を選びました。バルディスタによる包囲が長引けば深刻な食糧不足になるのは自明でした。
なにしろズムウル峠をならず者たちに占領されただけで一気に困窮した国ですからね~。
だからさっさと裁判を終わらせて余計な人口を少しでも減らすべきでした。
またバルディスタでは元死刑執行官のカーボーンを将軍にするなどの工夫をしているのですから、緊急時には牢をほぼカラにすることでムルゲンチや看守たちを戦力に回すといった工夫をしてしかるべきだったはずで~す。
4.第一の仮説「ナジーンの性格上、戦時下でも適正手続き」の限界
ユシュカの手記にはしばしばナジーンの頭が固いという話題が出てきますので、「ナジーンは頭が固いので、戦時下だろうと愚直に適正手続きを守った」と考えることもできま~す。これが第一の仮説になりました。
ただし戦時中のナジーンは偵察と称して魔剣アストロンを拾ってきたりしていたので、戦時下でも頭が固いままだという可能性は低いですね~。
またユシュカのナジーン評はあくまでユシュカ視点での見解であり、5.2で裏通りのムースに話しかけるとナジーンからしばしば暗殺を依頼されていたことがわかりま~す。ユシュカの知らないところで、こうした臨機応変の汚れ役もやっていたのがナジーンなので~す。
よって第一の仮説は、他の事情との複合としてならば正解率が極めて高いと思うのですが、「これのみが理由だった」では自己評価では不合格点で~す。
5.ムルゲンチの視線や反応の差異というヒント
ゲルケは脱獄の手伝いを依頼してきますが、本当に手伝った共犯者を殺すというキャラで~す。
ビビアロは結婚を望んできますが、承諾した相手から保釈金をせびるというキャラで~す。
獄卒としては本来は三つの理由からゲルケのほうを警戒すべきで~す。
騙されて協力した者の末路の観点からいえば、ゲルケに協力すると死にますが、ビビアロに協力すると3000万ゴールドの出費ですみま~す。
国費や牢内の秩序の観点から見ても、ゲルケに協力者が現れるとカギや格子を壊されかねないのに対し、ビビアロの場合はそういうことにはなりませ~ん。
さらにそもそも、可能性こそ低いもののビビアロの誘惑は今回こそ本心なのかもしれませんから、「そいつから離れろ」だなんて公務員による私人間の人間関係へのパターナリスティックな介入であり、はっきりいって余計なお世話で~す。
それなのにムルゲンチはビビアロに騙されかけた者だけを懸命に注意し、ゲルケに騙されかけた者は放置で~す。
以下の写真のとおり、ムルゲンチのデフォルトの向きからすれば、ゲルケのいる牢のほうが見張りやすいというのにで~す。
ゲルケのほうが自分で計画を暴露してしまうという迂闊さがありますが、それにしたって不自然ですよね。
この不自然さにこそ、ヒントが隠されているのかもしれないと考えました。
6.共犯ホイホイのゲルケ
よくよく考えたら詐欺師に3000万ゴールドを支払うことはただの被害ですが、脱獄の片棒を担ぐことはそもそも犯罪で~す。
他人の脱獄を手伝うような者はそもそも国にとって不利益な存在ですから、そういう者をじゃんじゃん殺してくれるゲルケは、その意味においては国にとって有益な存在で~す。しかもゲルケは脱獄よりも快楽殺人のほうを優先してしまうので、結局は脱獄のほうは失敗に終わるわけで~す。
ならば適正手続きを建前にしてなるべく長くゲルケを生かしておき、脱獄の手伝いをするような不穏分子をどんどん殺させるというのは、卑怯とはいえそれなりに賢いやり口で~す。
そうして新しい犠牲者が出るたびに、「この事件もしっかり裁かないといけない」とかいえば、またさらに当分の間ゲルケを生かしておく大義名分ができるというわけで~す。
7.金の生る木としてのビビアロ
腐敗した国における保釈制度は、事実上の「高額な罰金による免罪」である場合もありま~す。裁判が進行すればほぼ確実に死刑になる人物も保釈金さえ払えば牢から出られるようなファラザードは、そういう国である可能性が非常に高いで~す。
そして連続結婚詐欺の場合、一部の被害者が納得していたりすでに死んだりしているとその被害者を騙した件については犯罪であることが立証できず、犯罪者の手元に莫大な金が合法的に残ったりすることもありま~す。
新興国で予算の不足にあえいでばかりのファラザードとしては、ビビアロ一人を死刑にすることよりも、彼の有り余る資産から保釈金だけ払ってもらってあとはさっさと逃亡してくれたほうが、本心ではありがたかったりもするのでしょう。
だから拘置だけして裁判を遅らせて「金を払え~」と暗黙の圧迫を加えているのだと考えれば、非常に得心がいきま~す。
それでもさすがにビビアロに次の詐欺を犯させてその被害者の払った金を国が受け取るなんてことはできないので、ムルゲンチに特に厳しく見張らせているのでしょうね~。
(2021年8月1日追記)
5.5後期から、この記事の執筆当時は存在しなかったパハカースという囚人が配置されました。