ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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夕月夜の読書メモ 吉川英治著『私本太平記』

1.底本

 1990年に講談社から「吉川英治歴史時代文庫」の一部として出版されたシリーズを読みま~す。

2.今回のメモの特徴

 人物紹介を多少重視した「あらすじ」を書いていくことで、人間関係や話の流れを理解したいと思いま~す。時々余談もいれま~す。

雨月「もし吉川英治さんの著作権が切れてなかったら、公開がかなり危うかったタイプのメモやな」

卯の花月夜「そういう古い本でありつつも、今年はBSプレミアム大河ドラマ太平記』の再放送があったから、中々にタイムリーね。やるじゃないの、夕ちゃん」

3.あらすじ

3-1.あしかが帖

 若き日の足利高氏は部下の一色右馬介を連れ、幕府には内密で上洛をする。京都では公卿の冷泉為定や伯父の上杉憲房に会う。遠くから後醍醐天皇も見かける。帰る途中、日野俊基とすれ違ったり、土岐頼兼・佐々木道誉と会ったりする。道誉の屋敷内で恋をした藤夜叉とは再会の約束をする。

 帰郷した途端に幕府から蟄居を命じられ、新田義貞の兵に監視される身となる。弟の足利直義の血気のせいで足利家と新田家は一触即発となる。両家の親戚である草心尼が仲立ちをするがうまくいかない。

 鎌倉での裁判のため蟄居が解けると、高氏は母清子の許可を得て先祖の遺言を読み、以後はその遺言にあった天下平定の夢を果たすため自重的な性格となる。その新しい性格のおかげで、裁判は無事にやり過ごし、執権北条高時にも気に入られる。

 そうした中で赤橋守時の妹登子との間で結婚話が持ち上がるが、同時に高氏の息子不知哉丸を産んでいた藤夜叉が現れる。以後一色右馬介三河の足利領で不知哉丸を育てるため、高氏とは別行動となる。

夕月夜「個人的に懐かい足利学校*1も、高氏が長年ここで本の虫だったという設定で一瞬だけ登場していました」

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3-2.婆娑羅

 倒幕計画が、一味の舟木頼春からその妻へ、妻からその父である斎藤利行へと漏れて、日野資朝日野俊基が鎌倉に連行されるまでは原作の『太平記』と同じ。ただし土岐頼兼が舟木頼春の従兄弟ではなく兄とされているなど、若干の独自設定あり。

 舟木頼春は己を恥じて浪人に変装し、日野俊基の密命を帯びて楠木正成の下に身を投じようとする。しかし正成には採用を断られたので同じく河内の宮方の有力者である石川の散所ノ太夫義辰の部下となる。やがて頼春は六波羅密偵である忍ノ大蔵に苦しめられるが、楠木正季に救われる。

 高氏登子の婚礼をめぐり、直義は高氏が姻族となる北条氏への反発心を失ってしまったのではないかと思い詰問するが、高氏の野心は消えていなかった。

 草心尼の息子で盲目の覚一は足利兄弟のその会話を盗み聞きし、関東で近々戦乱が起きることを予見し、京都への避難を母に促す。草心尼の義兄の上杉憲房は、覚一が夢想疎石の下で一年間学業をした後でならばという条件付きでそれを許す。

 道誉は高氏夫妻をからかうため北条高時もいる宴席に藤夜叉を出すが、藤夜叉はその席で高時の不興を買い殺されそうになり逃亡し、三河で息子の不知哉丸と合流する。

 この宴席の混乱の中で高時は体調を崩し、執権を辞す。そして赤橋守時が執権に就任したことにより、高氏は執権の義弟の立場を得る。

 都に上る途中の草心尼・覚一の親子は、上杉憲房につけてもらった従者が謀反を起こしたために難儀をするが、藤夜叉に救われる。

暁月夜「この舟木頼春ってのは、史実や原作では正中の変の密告劇を最後に記録から消えるようだな」

夕月夜「そういうキャラは自由に動かせるから、小説家には便利よね」

3-3.みなかみ帖

 日野俊基が潜伏していた石川の散所が六波羅検断所に襲われ、舟木頼春は再び俊基の身代わりとなり捕らえられ自殺する。

 代わって視点は俊基の逃亡を援助した謎の申楽師夫婦に移る。名は杉ノ本の雨露次卯木であるが、やがて雨露次の正体が倒幕派の公卿である平成輔の部下だった服部元成であり、卯木は宮中から彼と駆け落ちした元女官であり実は楠木正成の妹であると判明していく。二人は当てのない逃亡生活を送っていたが、兼好法師に諭されて、申楽を芸術に昇華させることを人生の目標とする。

 服部夫婦は具足師柳斎の店の下請け職人として一時の安寧を得るが、元弘の乱の始まりとともに店は壊滅する。その日たまたま会っていた草心尼・覚一の親子から、柳斎とは一色右馬介の仮の姿であると教わる。

 史実では最後の執権であった赤橋守時が執権を引退し、史実では最後の連署であった北条茂時が繰り上げで執権となる。

 日野俊基は逃げ回った挙句に逮捕され、鎌倉で処刑される。足利高氏はその前日に俊基と交流し、俊基の遺品を預かる。

 一色右馬介は高氏の命を受けて佐渡日野資朝の様子を見に行くが、資朝も処刑されたあとであった。そこでその子である阿新丸を救出する。

暁月夜「おいおい、前帖の感想で褒めた舟木頼春、いきなりあっけなく死んでしまったぞ」

夕月夜「原作の『太平記』でも、長く大活躍しそうな雰囲気で登場したキャラがあっけなく死ぬケースが多いことが指摘されているから、その影響かもしれないわね」

3-4.帝獄帖

 元弘の乱の戦いと戦後処理が、ほぼ史実通りに描かれる。

 楠木正成は勅命を受けてもなお支配下の民や親類の利害を考慮してグズグズしていたが、弟の楠木正季が師匠の毛利時親に煽られて暴発したのを機にやっと本気を出す。正季派は、戦いを始めるときだけは勇ましく、かつ正成の遠大な計画を理解できない集団として描かれる。

 佐々木道誉元弘の乱で捕縛された後醍醐天皇に便宜を図り、気に入られる。

 また道誉は日野俊基の後家の小右京に嫌われつつも熱心に懸想をし、兼好法師まで動かして目的を達成しようとするが、俊基から伝言や遺品を預かっていた高氏は小右京を庇護する。

卯の花月夜「戦前には過激思想の持主たちに崇拝された楠木正成に斬新なキャラ設定を持ち込み、一方でそういう過激派と彼らを煽る知識人を楠木正季毛利時親コンビで戯画化したわけだ」

夕月夜「なるる~。そういう社会の背景事情まで知っているとなお面白いですね~」

3-5.世の辻の帖

 佐々木道誉後醍醐天皇隠岐に護送する。途中の道にいた児島高徳大覚ノ宮(恒性皇子)は奪還を狙うが失敗する。

 楠木一族は乱の後もゲリラ活動を続け、正成の妹婿である服部元成もそれに加わる。

 兼好法師は、護送中に我儘を言う宗良親王を説得したり、道誉のせいで自殺しかけた藤夜叉を偶然救ったりする。

雨月「兼好法師、偶然様々なキャラに会いすぎやな~」

暁月夜「吉川英治の作品の大半にいえることだが、主要キャラクター同士の偶然の会合が不自然な頻度で起きるんだよな~」

3-6.八荒帖

 小説の独自設定で北条高時が執権に復帰し、独自設定で執権に昇進していたはずの北条茂時は特に説明もなく史実通りの連署に復帰。

 近畿での後醍醐派のゲリラ活動はますます活発になり、幕府は討伐軍を続々と西に送り込むが、足利高氏は病と称して出征しない。佐々木道誉は高時に命じられて高氏の病の調査に行くが、足利家の執事の高師直に邪魔をされる。

 高師直は史実では高階氏の出であるが、なぜか「山階氏」という架空の出自を与えられている。かつ本来は連署が任命されるのが慣例であった武蔵守の地位に、陪臣の身でありながら就いている。

 後醍醐天皇隠岐を脱出し、西国でも倒幕運動が活発化する。

雨月「謎の独自設定が続くな~。でも単なるミスかもだ」

3-7.千早帖

 後醍醐派の勢いがますます強まり、赤松円心の軍によって都は陥落寸前となる。

 足利高氏もいよいよ西上する。このとき、正妻の子だけでなく三河不知哉丸まで人質に出すよう北条高時に要求され、高氏はそれを飲む。

 しかし長年不知哉丸を育ててきた三河派はそれを拒む。兄の優柔不断さを問題視していた足利直義三河派と手を組み、不知哉丸を連れに来ていた幕府の使者を殺し、謀反を既成事実化してしまう。

 足利高氏はその一件が幕府に知られるのを可能な限り遅らせるため、近江を抑えていた佐々木道誉に不知哉丸と藤夜叉を人質として与えて味方にする。これにより暴発の対価は最小限となる。

夕月夜「一見昼行灯でありながら遠大な策を持ち、血気盛んな弟の暴発の後始末も卒なくこなす足利高氏って、「帝獄帖」のときの楠木正成とそっくり!」

卯の花月夜「かなり上手な対比関係を作ったものだな。こうなってくるとますます楠木陣営に同類がいない軍師キャラの高師直の存在感が増すな。彼の有無がこの先両陣営に何をもたらすのか」

3-8.新田帖

 足利高氏の裏切りもあって六波羅探題は陥落し、鎌倉に落ち延びようとした有力者たちは佐々木道誉の裏切りにより全員が死ぬか捕虜となる。六波羅が陥落すると楠木正成を包囲していた幕府軍も雲散霧消する。

 新田義貞も地元で幕府を裏切り、その新田軍に足利高氏の嫡子の千寿丸が鎌倉を脱出して合流する。この新田足利連合軍は鎌倉を陥落させ幕府を滅ぼす。

3-9.建武らくがき帖

 鎌倉での主導権をめぐって足利派と新田派の争いがおきかけるが、新田義貞は恩賞が心配となり上洛し、鎌倉は足利派のものとなる。

 建武の新政が始まり、足利高氏は恩賞によって足利尊氏と改名する。

 都でも足利派と護良親王派の対立が深まり、暗闘の末に護良親王のほうが失脚する。

 やがて中先代の乱が起きて鎌倉は再び北条氏のものとなり、その混乱の中で足利直義護良親王を暗殺する。

3-10.風花帖

 足利尊氏中先代の乱を鎮圧するが、鎌倉に留まって武家政治の再来の予兆を示す。朝廷から尊氏に帰還命令が来るが、足利直義は兄が都で謀殺されることを恐れて勅使を追い返し、引き返せない状況を作ってしまう。

 朝廷は足利尊氏を逆賊と認定し、新田義貞に征伐を命じる。尊氏が謹慎をしていた間は連勝であった新田軍であるが、尊氏が本気を出したとたんに壊滅して京に逃げ帰る。しかしその足利軍も食料の乏しい都を占領したとたんに弱体化し、北畠顕家の奥州勢が新田軍と合流したこともあって敗北する。

 足利尊氏新田義貞を逆賊と認定する持明院統院宣により名分を回復し、九州での再起を目指す。楠木正成だけは足利尊氏の底力を見抜き、後醍醐天皇や公卿たちに和議を提唱するが受け入れられず逼塞する。

雨月「六巻の224ページで坊門清忠左大臣として扱われとるわ~。でも七巻の58ページでは参議に戻っとる。カオスや~」

3-11.筑紫帖

 足利尊氏の使者として一色右馬介楠木正成を説得するが、交渉は失敗に終わる。

 尊氏は僅かな兵を率いての九州での地盤作りに成功し、すぐに膨大な兵士数を回復して都を狙う。

 新田義貞はその対抗馬に認定されるが、病気や赤松円心の激しい抵抗により時間を空費してしまう。

3-12.湊川

 湊川の戦い楠木正成が悲壮な死を遂げる。

 足利軍は光厳上皇を奉じて京都を占領し、新田軍は後醍醐天皇を奉じて比叡山に籠る。

 膠着状態が続き両軍ともに食料が厳しくなった結果、後醍醐天皇足利尊氏との間で密かに和議が成立する。

 しかし後醍醐天皇が帰京すると一瞬で賊軍になりかねない新田一族は和議に否定的であり、とりわけ堀口貞満は下山のための輿の通行の邪魔までする。このため北陸に落ちていく新田軍には、旗頭としての仮に譲位された恒良親王が与えられる。

 足利軍の中でも、死んでいった戦友のためにも敵を壊滅させるまで戦いたかったという不満分子は多く、実戦の事実上の責任者の足利直義はその勢力の筆頭として兄への不満を強めていく。

 和睦後、後醍醐天皇足利尊氏は互いの理想論をぶつけ合うが決着はつかない。結局後醍醐天皇はまたどこかへ逃亡してしまう。

卯の花月夜「直義の「今ここで戦いをやめたら死んでいった者たちに申し訳が立たない」って、1941年ごろに中国からの撤兵論に反対していた陸軍の論法にそっくりだな~」

夕月夜「堀口貞満の暴走は原作もにあるとはいえ、読んでいて実際に想起したのは玉音盤をめぐるクーデター事件のほうでした」

暁月夜「文官や文官型の武官にとっては戦争は外交の一手段であり、またそうであってこそ被害は最小限ですむのだが、現場の武官の一部が戦争を人生そのものにしてしまう気持ちも理解できるぜ。だからこそ時代を越えて停戦をめぐる内部抗争は何度も繰り返されるんだろうな」

3-13.黒白帖

 最終帖。この帖自体がすでにダイジェストみたいなもので、長い南北朝の対立や北朝内部の対立が猛スピードで語られる。

 長期間にわたって内面が描かれてきた活躍してきた人物がどんどんあっけなく死んでいき、そこに無常が感じられる。

雨月「『機動戦士ガンダム』の終盤みたいやな。打ち切りでも決まって急いだんかな?」

4.『随筆 私本太平記』について

 吉川英治歴史時代文庫の「補5」巻の前半が『随筆 私本太平記』だったので、『私本太平記』の読後に読んでみました。

 するとなんとこれは、『私本太平記』の新聞連載の中で月に一度のペースで小説の代わりに掲載されてきた、著者から読者へのメッセージだったようで~す。

 「これはこういう意図で書いた」とか「こういう取材をした」などの裏話が大量に語られていました。

 そうと知っていれば、小説としっかり同時並行で読んだんですけどね~。