夕月夜「前回に続いて、ドストエフスキーを読みま~す。今回は『罪と罰』で~す。きっかけは姉の書いた「『罪と罰』で読み解くリベリオ ―― 強力な暗号「そうニャ」の秘密。そして思想的元凶は……」という記事で~す。底本は中村白葉訳の岩波文庫で~す。前回と同じく「人物」を中心にメモをとっていきま~す」
雨月「これは古い訳やな~。現在の岩波文庫では江川卓訳が売られとるで~」
第1篇
1-1
ロヂオン・ロマーニイチ・ラスコーリニコフは質屋経営の老婆アリョーナ・イワーノヴナを訪ねるが、あまり多くの金を借りることができずに不愉快な気分になる。アリョーナの妹のリザヴェータの話題も少しだけ出る。
1-2
ラスコーリニコフは、酒場で初対面のセミョーン・ザハールイチ・マルメラードフと飲むことになり、延々と身の上話を聞かされる。
今の妻はカテリーナ・イワーノヴナといって元は身分が高かったらしく、妻の側には結婚した時点で三人の連れ子がいた。マルメラードフの側の連れ子にはソフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードワ(ソーニャ)がいた。
ソーニャはマルメラードフがあまりにだらしないので、最近では売春婦をして一家を支え始めた。するとそれまで同じ下宿の住人でソーニャに恋慕していたアンドレーイ・セミョーノヴィッチ・レベジャートニコフが急にソーニャとその家族を追い出そうとしはじめたらしい。
ラスコーリニコフはマルメラードフを家まで送り届けるが、カテリーナには酔っ払いの一味だと誤解されてかえって罵倒される。
それでもラスコーリニコフは家主のアマーリヤ・リッペヴェフゼルに追い出されかかっているこの一家に同情し、こっそり施しを置いていく。
ラスコーリニコフは世の中を憂う。
1-3
翌日、ラスコーリニコフもまた、下宿先の女中ナスターシャとの会話から、家主に追い出されかかっている立場だと判明する。
ラスコーリニコフの母であるプリヘーリヤ・ラスコーリニコワから長い手紙が届く。
それによると、妹のアフドーチャ・ロマーノヴナ(ドゥーネチカまたはドゥーニャとも)は奉公先の親父アルカージイ・イワーノヴィッチ・スヴィドゥリガイロフに懸想されて苦しい立場になったものの、ピョートル・ペトローヴィッチ・ルーヂンという好青年に求婚されてすべてうまく行きそうになっているとのこと。しかもピョートルの事務所でラスコーリニコフも職を得られそうだという話である。
しかしラスコーリニコフはこの結婚話に不快感を持ったようである。
1-4
妹の結婚話に不愉快なラスコーリニコフは、酔っ払いの少女に近づいた買春目的らしき紳士を、妹に言い寄ったスヴィドゥリガイロフに見立てて攻撃する。
この件で少女に施しをしたため、貴重な持ち金をさらに失ってしまう。
その後で自分がドミートリイ・プロコーフイチ・ラズーミヒンという友人に会うために外出したことを思い出す。
雨月「そろそろ正気じゃなくなってるな」
1-5
ラズーミヒンに会うのは、ある計画を実行した翌日にしようと、ラスコーリニコフは思いなおす。
そしていきなり道端で寝込んでしまう。
夢の中のラスコーリニコフは少年時代。父とともに、荒くれ者がオノで馬を殺す場面を見る。
起きたラスコーリニコフは、自分もまたオノでアリョーナ・イワーノヴナを殺すという計画を再考する。
しかもご都合主義的に偶然にも、質屋のアリョーナに奴隷のように使われているその妹のリザヴェータを見かける。そして彼女と商人の会話を盗み聞きすることで、明日の夜七時にはリザヴェータが外出してアリョーナが一人きりになるということまで知ってしまう。
1-6
最近のラスコーリニコフはこうした偶然というものに対して迷信的な信仰を抱いていた。
そもそもアリョーナ・イワーノヴナの殺害を計画したのも、初めて彼女のところで金を借りた帰り道に、偶然にも士官と学生が彼女の妹への仕打ちを語った末に「あんな女は殺してその財産を有益に使ったほうがいい」という結論に達しているのを盗み聞きしたのがきっかけであった。
ラスコーリニコフは、犯罪のあとに犯罪者が精神を病むことで悪事がばれる傾向があるということを一瞬だけ心配するも、自分がこれからやろうとしていることは実質的には犯罪ではないので、自分は精神を病まないに違いないと決め込む。
そして下宿の台所からオノを盗み出して、質屋を訪ねた。
1-7
ラスコーリニコフは計画通りにアリョーナ・イワーノヴナを殺す。
しかし計画ではそこにいなかったはずのリザヴェータがいて、犯行を目撃されてしまう。
このため、本来はリザヴェータを姉から解放するための犯罪であったというのに、口封じのためリザヴェータまで殺してしまう。
その直後にリザヴェータと会う予約をしていたコーフとペストリャコーフが来て、ドアが開かないことを疑問視する。
絶体絶命のように思えたラスコーリニコフだが、その場は上手に切り抜けて帰宅し、オノも所定の位置に返す。
第2篇
2-1
犯行の翌日、ラスコーリニコフは目覚めると同時に衣服から血の付いた部分を裂くなどの隠蔽工作をする。
そこへナスターシャが起こしにきて、警察からの呼び出し状が来ていることを知らせる。
警察に行ってみると、昨日の殺人の話は出ず、ラスコーリニコフが借金を返さない件についての手続きの話題であった。
警察署長ニコージム・フォーミチと二等警部イリヤー・ペトローヴィッチが登場する。
ラスコーリニコフは、借金を返すまで「市から外に出る権利・所持品を売る権利・所持品を贈与する権利」の三点を失う。
2-2
警察からの帰り道、夢遊病のようになったラスコーリニコフは、無意識にラズーミヒンを訪ねるが、ほとんど会話は通じない。
帰宅後も怪しげな悪夢にさいなまれる。
2-3
ラスコーリニコフが長い間うなされてから目覚めると、部屋にはラズーミヒンがいた。
実家からの送金とラズーミヒンの保証により、ラスコーリニコフの借金苦の問題は寝ているうちに解決してしまったようである。
2-4
医師のゾシーモフが部屋に入ってくる。
ラズーミヒンはラスコーリニコフの下宿の近所に引っ越してきたらしく、近々引っ越し祝いをするのだとか。出席予定者として語られた者の中には、のちに重要な登場人物となるポルフィーリイ・ペトローヴィッチ予審判事やアレクサンドル・グリゴーリエヴィッチ・ザミョートフ警部の名前もある。
質屋姉妹殺害事件の話題となり、ニコラーイというペンキ屋が逮捕されたという話になる。
2-5
ここで突如として、ラスコーリニコフの部屋に妹の婚約者のピョートル・ペトローヴィッチ・ルーヂンが入ってくる。
ラスコーリニコフはこの縁談が気に食わなかったので、二人は決裂する。
2-6
家を抜け出して散歩に出たラスコーリニコフは極度の興奮状態のようで、通行人に話しかけたり乞食に気前よく金をばらまいたりする。
ザミョートフ警部と出会い、質屋姉妹殺しの話題を自分から向ける。
帰宅すると、病気でありながら勝手に抜け出したことをラズーミヒンに責められる。
2-7
ラスコーリニコフは偶然にも、マルメラードフが馬車に轢かれて瀕死になっているのを発見し、本人宅まで運ぶ。そしてマルメラードフは死んでしまう。
マルメラードフの妻のカテリーナ・イワーノヴナの側の三人の連れ子の名前が、ポーレニカとコーリャとリードチカだと判明する。
ラスコーリニコフは持っていた金をカテリーナに見舞金として渡してしまい、また一気に貧乏になる。
マルメラードフ家から退散するさい、ニコージム・フォーミチ署長と再会する。
ラズーミヒンから、警察内部ではイリヤー・ペトローヴィッチがラスコーリニコフを質屋殺しの犯人だと疑っているという話が聞かれる。さらにゾシーモフはラスコーリニコフを狂人だと疑っているらしい。
家に帰ると、上京した母と妹が待ち構えていた。
雨月「『カラマーゾフの兄弟』と違って、この作品の舞台って首都のペテルブルクやろ? 相当の人口のはずなのに偶然の出会いや再会が多すぎやな。不自然すぎてリアリティがないわ~」