ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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4thディスクにおいて強烈であった『オイディプース王』の影響。白灰の試練場にて復活。

1.『オイディプース王』紹介

 『オイディプース王』は、古代ギリシア三大悲劇詩人の一人であるソポクレースによって書かれました。

 物語の時系列は複雑で登場人物のセリフなどから徐々に再構成されていく仕組みであるので、以下は星月夜が時系列に従って物語をまとめなおしたあらすじで~す。

 テーバイ王のラーイオスは若き日の罪のため、子に殺されるという呪いを受けました。このため後に生まれてきたオイディプースを殺そうとするのですが、オイディプースは幸運にもコリントス王のポリュボスに拾われてその養子となりま~す。

 オイディプースはポリュボスを実父と信じていたので、「オイディプースはやがて実父を殺して実母を妻として子を作る」という予言を聞いてからは、ポリュボスから離れて放浪の旅に出ま~す。

 オイディプースは旅の途中で遭遇した実父ラーイオスをただの無法者だと思って殺し、さらにはラーイオス没後に王が不在であったテーバイで活躍し、ついに新テーバイ王に即位しま~す。

 ラーイオスの妻だったイオカステーは、オイディプースが亡夫の仇にして息子でもあるということを知らずにこの新王と再婚し、孫でもある子を四人産みま~す。

 しかしやがてすべてが予言通りだったことを知り、また自分がそういう存在であるため天災の原因になっていると知ったオイディプースは、自ら目を抉って盲目となり、王位を捨てて去っていきま~す。

 オイディプースが自ら盲目になったのは、長年運命に翻弄され続けたにしてもさすがにそういう行為だけは自分の自由意志だからだと思ったからのようですが、実はそうなることも物語中の伏線として予言されているという構造になっていま~す。

2.本稿ではフロイト経由での間接的影響を論じない

 オイディプースは本人の意思としてはなるべく実父を殺さないつもりで行動していたわけですが、なぜかフロイト男児の父への対抗心の比喩としてこのオイディプースの名前を使ってしまいました。かの有名な「エディプスコンプレックス」で~す。

 「ドゥラ対ウラード」とか「クオード対ドミネウス」とか、この概念に影響を受けた可能性のあるストーリーも『ドラゴンクエストX』には存在しますが、これはソポクレースの作品とは事実上無関係の話となってしまうので、本稿では論じませ~ん。

 下手をすると原作以上に有名な概念なので、あえて一章を割いて断り書きを書きました。

3.4thディスクへの強い影響

 4thディスク冒頭にて主人公は「自分がキュロノスに必ず敗北し、全世界も滅ぶ」という恐ろしい運命を見せられま~す*1

 のちにその運命の原因は、自分のせいではなく自分の大先輩であるギリウスのせいだと判明しま~す。

 そして自分ではその未来を回避するため奮闘したつもりになりますが、かえって世界の滅亡の日を早めてしまいました*2

 そして実父パドレとの戦いもありました。

 終盤で「これだけはキュロノスも予想外だろう」という気分で時獄獣を殺すと、実はそれすらキュロノスの計画の内だったと知らされるわけで~す*3

 最後の最後でキュルルの自己犠牲によって運命を変えましたが*4、その大逆転以外は『オイディプース王』に相当似ていました。

 この4thディスクの物語を通じて、「オイディプース王の物語とほぼ同じく、運命の確定事項を変えるのはほぼ不可能である。しかし絶対不可能というわけでもない」というこのゲームにおける「運命」に関する設定が明らかになりました。

4.5thディスクでは影響力低下

 5thディスクの敵は全生命を滅ぼすのが目的のジャゴヌバでしたが、物語のどの段階で1000年後を見に行ってもアルウェーンはつねに無事でした。

 現代においてジャゴヌバのほうが敗北するのは歴史の確定事項であり、ジャゴヌバにとっての考え得る限り最良のルートでもせいぜい「惜敗し、負傷を癒すための1001年間の休眠に入る」ぐらいのものでした。

 おそらくマデサゴーラまたはそのお抱えの予言者もこの確定した運命を読み解いていて、「それが何代目かは未確定だが、ある大魔王が近々ミナデインでジャゴヌバを滅ぼす」ぐらいまで予知していたのでしょう。だからこそ『雷葬』を描けたので~す。詳細については、過去記事「5.5後期の物語から解釈する、マデサゴーラ芸術」をご覧くださ~い。

 5thディスクの主要登場人物で仮にオイディプース王に近い存在がいるとすれば、それは生き残る方法を色々模索した末に結局予定通り散ったジャゴヌバで~す。

5.白灰の試練場にて復活

 いったんは影響力が低下した『オイディプース王』ですが、白灰の試練場にて復活しました。

 心の試練で聞かされる物語は、「長ずれば 世界に仇なす邪王となる運命に 生まれついた王子がいた」から始まりま~す。そして王は王子を殺そうとしますが、王妃が王子を命懸けで庇ったせいで王子だけが生き残り、王子は運命が示すまま邪王になったそうで~す。

 細部に違いがありますが、原作はほぼ確実に『オイディプース王』であるといえましょう。

雨月「さすがのヘルヴェルも、"CERO A"の世界では、父を殺して母に弟兼息子や妹兼娘を産ませるオイディプース王をそのまま登場させるわけにもいかず、漠然と「邪王」ってことにしたというわけやな」

 そしてこの心の試練は、「王と王妃と王子のうちで王子こそが一番悪い」というヘルヴェルの見解に挑戦者が従うまで続き、最終的にその見解に従いさえすればそれまで何度抵抗していようと通過できる仕様となっていました。過去記事「現時点では、星月夜は以下の理由からヘルヴェルを一番疑っていま~す」でも指摘しましたが、つまりこれは実際には試練ではなく、ヘルヴェルがその見解を広めようとしているだけということになりま~す。

 なおヘルヴェルによると、この王子は邪王に生まれついたという罪(!)を認め自裁すべきだったとのことで~す。

 このヘルヴェルの運命と善悪に関する考え方は、今後の物語に強く関わってきそうで~す。

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