1.マーマンダインの「ダイン」
1988年に発売された『ドラゴンクエストIII』でマーマンの上位種としてマーマンダインが登場しました。
現在のドラゴンクエスト大辞典の【マーマンダイン】の項目では、「「ダイン」の由来は不明だが、水の精霊ウンディーネ/Undineの英語読みで「アンダイン」とも読めるため、マーマン+アンダインで「マーマンダイン」という説がある」と書かれていま~す。
これはそれなりに説得力のある説ですが、星月夜は元々「ダイン」という発音である"dyne"の影響のほうが強かったと考えていま~す。しかもその解釈の正当性は年々強くなってきていると考えていま~す。
2."dyne"とは
"dyne"とは物理学における力の単位で~す。
よって星月夜の解釈では「マーマンダイン」とは「力のあるマーマン」という意味の側面が強いということになりま~す。
"dyne"の語源の古典ギリシア語"δύναμις"は単に物理的な力のみならず「戦力」や「魔力」などの意味でも使われま~す。
3.当時の唯一の作中内ヒント、ヒャダイン
マーマンダインの「ダイン」の解釈の作中内のヒントとしては、『III』の時点では「ヒャダイン」しかありませんでした。
ヒャドの上位呪文がヒャダルコなので、この呪文の語幹は「ヒャd」で~す。その上位呪文が「ヒャd-dyne」であるとするならば「力強いヒャド」と解釈できるので、"dyne"説に有利だと考えられま~す。
とはいえヒャダルコの接尾辞である「アルコ」には世界中の言語を漁っても「少しだけ強めの」なんていう意味が見当たらなかったので、「有利」といってもそれは若干で~す。
4.クロコダイン登場で一気に有利に
やがて1989年に『ダイの大冒険』の連載が始まり、1990年初頭に「クロコダイン」が登場しました。
彼はいかにも「力強いクロコダイル型のモンスター」というキャラクターでしたので、「ドラゴンクエストシリーズのモンスターの名前の「ダイン」とは「力」を意味する」という説がこれで一気に有利になったと思いま~す。
5.オンディーヌの側面支援とそのライバル
1995年発売の『ドラゴンクエストVI』には"undine"を直接元ネタにした「オンディーヌ」が登場したので、マーマンダインのダインが"undine"である確率はまた下がり、反射的に"dyne"の権威が上がったといえましょう。
しかし同作で同じく"undine"を元ネタにしたと思われる人魚の「ディーネ」も登場したので、"undine"が繰り返し多様なキャラの元ネタに使われている可能性も上昇してしまいました。
そういうわけで『VI』が「ダイン」の解釈に与えた影響は差し引きしてほぼゼロだと考えていま~す。
6.そして本作『ドラゴンクエストX』
そして本作『ドラゴンクエストX』では、2015年に配信された3.0でほぼ水と無関係な上にいかにも力馬鹿という牛型のボスが登場しました。彼は「タウラダイン」という名前でした*1。
「タウラ」は雄牛を意味する古典ギリシア語"ταῦρος"(タウロス)の影響が強いと思われま~す。
これでドラクエのモンスターに「ダイン」がついたら、それは原則として力を意味するということが、ほぼ確定したかと思いま~す。
4.5では「メガロダイン」なんてのも登場しました*2。「メガロ」は古典ギリシア語で「大きい」を意味するやや詩的な形容詞"μεγάλος"であるとともに、形状である「ガメゴンロード」も匂わしているのだと思いま~す。だから「大いなる力を持ったガメゴンロード」ぐらいの意味だと思いま~す。
ただし5.4で登場した「ダインスレイフ」は"dyne"とは無関係で~す。これは古ノルド語で「死」を意味する妖精"Dáinn"の属格"Dáins"に「遺産」を意味する"leif"をつなげたものなので、「ダインス」までが一つの意味で~す。
7.答え合わせとしての『ドラゴンクエストXI』
以上の一連の流れを反映してのキャラ設定なのか、それとも『III』のころからの設定の開示なのかは不明ですが、2017年発売の『XI』で再登場したマーマンダインのまめちしきは「階級社会であるマーマンの中で戦士としての役割を持っておりいざ他種族との戦いになれば真っ先に切り込んでいく存在」とされました。
いかにも「力のあるマーマン」という意味に適した内容であり、ウンディーネとはほぼ無関係の内容で~す。
これでマーマンダインの意味には決着がついたことになりま~す。
8.「ダイン」で一番のお気に入りはデン・ダイン
外伝である『ドラゴンクエスト モンスターパレード』には、「デン・ダイン」というボスが登場しま~す。形態はヒッポキングと同じで~す。
星月夜は名に「ダイン」を含むモンスターの中では、後述する理由から彼こそが一番優れた名前だと思い、愛好していま~す。そして早くナンバリングに登場してほしいと思っておりま~す。
まず巨大なオノを持ったモンスターなので、上述のドラゴンクエストシリーズにおける「ダイン」の歴史に忠実で~す。
さらには「デンダイン」とは、『第一エノク書』でベヒモスの胸部分の下に広がっていた荒野の名前の読み方の一種なので~す。ベヒモスはカバに似た怪物とされているので、竜型のベヒードスなんかよりもカバ型のデン・ダインのほうが元ネタに忠実であるといえましょう。
夕月夜「わたくしもそこまで理解していたので、過去記事「夕月夜の読書メモ ホッブズ著『リヴァイアサン』第3部・第4部 & そして明らかになるブルラトスとミナデインの意味」では、ホッブズにとって秩序の象徴であるリヴァイアサンのライバルである無秩序を象徴するベヒーモスの想像図として、魔界大戦中のヒッポキング型モンスターであるメルカバ兵長の雄姿を貼ったので~す」
星月夜「よくできた妹だわ~」