1.考察対象
初代『ドラゴンクエスト』(以下、『初代』)では、竜王にとってローラ姫は重要な人質でした。しかし竜王はあえてローラ姫を自分の城ではなく沼地の洞窟に隠し、しかも最強の部下であるダースドラゴンではなくノーマルドラゴン風情にローラ姫を監視させていました。
そして一般的な攻略ルートでは、それこそが竜王の敗因の一つになっていました。
このうち「なぜ自分の城ではなく沼地の洞窟に隠したのか?」については、SFC版『初代』でローラ姫を竜王のもとに連れていくと「ほほう 姫を わしの所まで 連れてきてくれたのか? ごくろうで あったな」と言われるので、「竜王の玉座付近まで連れてくるのが理想だったが、それには何らかの障害があった」程度までは判明していま~す。
しかし「なぜノーマルドラゴン風情に監視させたのか?」については、ほぼ不明のまま36年が経過したといえま~す。
本日はなぜ竜王がそのような行動に出たのかを考えてみました。
2.『初代』の情報だけでは諸仮説の優劣はつけがたい
『初代』で明かされた情報だけでこの問題を考えると、単に辻褄が合うだけで根拠となる情報のない仮説で終わってしまいがちで~す。
たとえば以前星月夜がTwitterで書いた「うそまめちしき」は、「ローラ姫はダースドラゴンより強いけど、ノーマルドラゴンにだけはかなわないんだ。 これは彼女の愛用する護身具の刃の特殊な構造に由来しているんだよ」というものでした*1。
そういう武器があれば「ダースドラゴンはノーマルドラゴンに勝ち、ノーマルドラゴンはローラ姫に勝ち、ローラ姫はダースドラゴンに勝つ」という三すくみ構造が一応説明できま~す。
でもそんな武器が存在した可能性が高いことを証明するものは何もないので、他の様々な思いつきよりも自説が優れていると主張するわけにはいきませ~ん。
他にも「沼地の洞窟で採れるエサで長期間生き抜けるモンスターの中では、一番強かったのがノーマルドラゴンなんだよ」とか「ノーマルドラゴンはだいまどうより賢いから、人質の世話などの知的作業の担当者だったんだよ」とか、「辻褄だけは合うがゲーム中に根拠がない仮説」は大量に思いつけま~す。
3.そこで『II』や『III』を参考に最優秀賞を決める
3-1.『II』や『III』から「他の呪文」というヒントを得た
そこで『初代』と世界観がつながっている『ドラゴンクエストII』や『ドラゴンクエストIII』を参考にすることにしました。『II』や『III』にその仮説の正しさを証明する根拠があったならば、その仮説はより説得力があることになりま~す。
さて『II』は『初代』の未来であり『III』は『初代』の過去ですが、『初代』の主人公が使えなかった呪文を使える人物が多々登場しま~す。だからそういった呪文の一部をローラ姫が使えたとしても、世界観には矛盾しませ~ん。
そして『初代』のモンスターは、ゲームのシステム上のデータとしては、耐性として「攻撃呪文耐性」・「ラリホー耐性」・「マホトーン耐性」の三種類だけが設定されていました。しかし「『初代』は『II』や『III』と同一の世界」という世界観上のデータでは、「ギラ系以外の各系攻撃呪文耐性」や「ルカニ耐性」や「マヌーサ耐性」や「ザキ系耐性」や「メガンテ耐性」も当然設定されていたことでしょう。
ならば「ローラ姫が覚えていたそういう呪文の耐性を持っていたのが、ノーマルドラゴンと竜王だけだったから」が、本稿が最初に目指していた『II』や『III』に根拠のある仮説ということになりま~す。
3-2.マホトーン耐性も忘れずに
「竜王にとってローラ姫の呪文が脅威だった」とするなら、「ローラ姫のマホトーン耐性はゼロではなかった」と付け加える必要もありま~す。
3-3.呪文の特定
次に「そういう呪文」の内容ですが、まったくの架空の呪文や『IV』以降に初めて登場する呪文では、前章の「単に辻褄が合うだけで根拠となる情報のない仮説」のうちの一つになってしまいま~す。
そこで「『II』か『III』に登場して、かつギラ系でなく、かつモンスターの大半には脅威である可能性の高い呪文」から選びますが、これだけではまだザラキとかイオナズンとか複数候補が登場してしまいま~す。
しかし「ローラ姫を仲間にして強敵に挑んでも、ローラ姫が使ってくれない」という点を着目したところ、「ローラ姫にもリスクがある呪文」である可能性が高まりました。
以上を満たすのはメガンテで~す。
3-4.小結
こうして「マホトーン耐性がゼロではないローラ姫が覚えていたメガンテの耐性を持っていたのが、ノーマルドラゴンと竜王だけだったから、竜王はノーマルドラゴンにローラ姫を監視させた」という、自分の中の相対評価が最優秀の仮説ができました。
4.「沼地の洞窟」問題とも矛盾せず、むしろ説明に貢献
前章では「竜王がノーマルドラゴンにローラ姫を監視させた理由」を抽象的に考えましたが、SFC版で明らかになった前述の「なぜ自分の城ではなく沼地の洞窟に隠したのかというと、竜王の玉座付近まで連れてくるのが理想だったが、それには何らかの障害があったからだ」という世界観と矛盾したのでは、その時点で失敗作で~す。
逆に矛盾しないどころか「何らかの障害」の内容の一部まで説明できるものだったならば、ますます素晴らしい仮説となりま~す。
さて、前章の小結である「マホトーン耐性がゼロではないローラ姫が覚えていたメガンテの耐性を持っていたのが、ノーマルドラゴンと竜王だけだったから、竜王はノーマルドラゴンにローラ姫を監視させた」説が正しかった場合、竜王城に住むノーマルドラゴン以外のモンスターは、ローラ姫のような危険物を竜王の玉座付近まで運ぶことを嫌がることでしょう。
そして竜王が「ローラ姫をより奪還されにくい本拠地まで護送したい。しかしそれを怖れるキラーリカントらの忠誠心の低下は、ローラ姫奪還リスク以上のマイナスをもたらす」と考えて悩んでいた場合、敵が「姫を わしの所まで 連れてきてくれた」事態というのは「ごくろう」と言いたくなるような幸いであったことでしょう。
こうして前章で作った仮説は、「沼地の洞窟」問題とも矛盾せず、むしろ説明に貢献できる優れたものであったことが判明しました。
5.まとめ
竜王がノーマルドラゴンにローラ姫を監視させた理由は多々考えられるが、『II』や『III』に強い根拠が見出せるという点で星月夜が一番満足のいった仮説は、「マホトーン耐性がゼロではないローラ姫が覚えていたメガンテの耐性を持っていたのが、ノーマルドラゴンと竜王だけだったから、竜王はノーマルドラゴンにローラ姫を監視させた」である。
この仮説は「なぜローラ姫を自分の城ではなく沼地の洞窟に隠したのか?」と「なぜそれでいてSFC版で玉座付近への護送に感謝したのか?」の説明にもなっているので、非常に優れたものである。