0.はじめに
本日は、「なぜモーモリーナとデンデロベーが聖天舎、ひいては天星郷のマスコットなのか?」を考えました。
モーモン系は可愛くて何度もマスコット化しているので、マスコットになるにしては少々不自然なデンデロベーから先に理由を考えました。
このブログで何度か主張してきましたが*1*2、「創作中における一見して不自然なもの」というのは強い元ネタが背後にあったからこそそう描かれている場合が多いので~す。
1.語源から考えるデンデロベーの元ネタ
1-1.デンデン竜
デンデロベーの最大の元ネタが、『ドラゴンクエスト』シリーズにおける「デンデン竜」であることは、名前からも容姿からも明らかで~す。
そしてその「デンデン竜」の元ネタは、長崎県の童謡『でんでらりゅうば』か絵本の『でんでら竜がでてきたよ』の一方または両方だと思うのですが、これについては本稿では論じませ~ん。
問題は前述のとおり、美しき天星郷の聖天舎において、運営がなぜあまり美しくないデンデン竜なんかをマスコットとして登場させたかで~す。
「容姿」が理由ではないとすると、次は「名前」が理由ということになりま~す。
1-2.デンデラ野
「デンデロベー」と似た発音で、かつ天星郷と深い関係がありそうな日本語といえば、遠野地方の「デンデラ野」で~す。
これは柳田国男の『遠野物語』では「蓮台野」と表記されており、「姥捨ての地」や「墓」という意味から考えてもこれこそが本来の表記で~す。
「蓮台野」という地名は遠野に限らず日本中にありますが、大抵はどこも何らかの意味で「死」と深く関係していま~す。仏教では仏の座る席を「蓮台」としているので、死人やもうすぐ死ぬ人が転生後に蓮台に座る立場になることを願っての命名だったのでしょう。
だからデンデラ野を語源とするモンスターは、転生の園のある聖天舎にピッタリで~す。
1-3.デンドロビウム
デンデン竜にもデンデラ野にも足りなかったのが、デンデロベーの「ベー」の部分のb音で~す。
そこまで忠実に子音が対応した単語となると、ラン科の"dendrobium"(デンドロビウム)が思い浮かびま~す。
この単語は古典ギリシア語で「木」を意味する"δένδρον"(デンドロン)と「生」を意味する"βίος"(ビオス)の合成語であり、「木の上で生きる花」という生態に着目して18世紀末に名づけられました。
転生の園でも転生の花の上から新たな命が生まれてくる設定でした。
1-4.デンドロアスピス・デンドロトキシン
デンデン竜は一応は竜であり、竜の元ネタはヘビで~す。
ここでデンデン竜のデンデロベーを「デンデロのヘビ」と考えると、ヘビの一種である「マンバ」を意味する"dendroaspis"(デンドロアスピス)に行き着きま~す。
この単語は古典ギリシア語で「木」を意味する"δένδρον"(デンドロン)と「ヘビ」の一種を意味する"ἀσπίς"(アスピス)の合成語で~す。
マンバをこの学名で注目するとき、マンバがら分離されたヘビ毒の"dendrotoxin"(デンドロトキシン)が想起されま~す。これのせいで、マンバに咬まれて治療しないと大抵死にま~す。
1-5.小結
「デンデロベー」という発音や「デンデン竜」という立場を総合的に考えるに、元ネタの可能性が高い単語群はどれも大抵「死」や「生」や「転生」と深く関わっている。
2.語源から考えるモーモリーナの元ネタ
2-1.モーモン
モーモリーナの最大の元ネタが、『ドラゴンクエスト』シリーズにおける「モーモン」であることは、名前からも容姿からも明らかで~す。
モーモンならマスコットになって当たり前で~す。
2-2.イーナ
名詞の語尾につく接尾辞"-ina"(イーナ)は、イタリア語で女性単数に「小さい」とか「可愛い」といった印象を加えるもので~す。
2-3.モリ
「モーモン」と「イーナ」だけでは、「モーモリーナ」中の「リ」の子音部分が不足ですが、先にデンデロベーで何度も「死」のイメージが登場していたことを想起すれば、ラテン語で「死ぬ」を意味する"morior"の能動・現在の原型である"mori"(モリ)が想起できま~す。
「メメント・モリ」で有名なあの「モリ」で~す。
2-4.ではなぜピンクモーモンか?
以上が全部正しいとしても、「なぜノーマルモーモンではなくピンクモーモンでなければならいのか?」という問題が残りま~す。
それへの回答として考えられる第一の理由は、過去記事「カミハルムイ領北の桜の樹の下には大量のピンクモーモンの屍体が埋まつてゐる!」で指摘した内容の繰り返しで~す。「本作のピンクモーモンは『桜の木の下には』を参考にした「死が転じて美を産む」という連鎖の構造を体現しているから」で~す。
第二の理由は、第一とも密接に関係していそうですが、「本作のモーモン族で「転生モンスター」化するのが現時点ではピンクモーモンだけだから」で~す。
2-5.小結
色がピンクなのは本作における「死と転生のモーモン」の伝統である。
3.天星郷における「転生」の重要性
3-0.総論
第1章と第2章で、聖天舎のマスコットであるデンデロベーとモーモリーナの名前が、「死」・「生」・「転生」のイメージと深く関わっていることを証明しました。
そして聖天舎には重要施設として転生の園があるので、それだけでも十分にこの二名は聖天舎のマスコットとしてふさわしいといえま~す。
しかし「転生」が天星郷全体にとってどれだけ重要かを語ってこそ、二名の天星郷全体のマスコットとしてのふさわしさまで証明できると考えました。
このために一章を割きました。
3-1.天使にとって再重要の施設「転生の園」
6.2メインストーリー終盤までは、アストルティアの楯が収められていた北の神殿は最重要施設でした。
しかし楯が破壊されたあとは、ガスパールの語るように転生の園こそが次代の天使を唯一供給できるという意味で、繰り上げで最重要施設になったと評価できましょう。
加えて6.2以前であっても、北の神殿が重要だったのはアストルティア全体にとってであり、天使という種族に限っては最初から転生の園こそが最重要施設であったといえま~す。
3-2.天使の秩序の根幹をなす「転生」
重大な罪を犯した天使への罰も転生をさせないというルールは、これまで何度も語られてきました。
よって転生は天星郷の秩序の源泉でもありま~す。
3-3.「天星郷」の発音
地上のアストルティア民から見て「天」にあり、それ「星」と同じ方向であることから忘れられがちですが、実際の天星郷は「星」とはあまり関係がありませ~ん。
よってこれは漢字の意味より発音のほうが重要と考えま~す。
「てんせい郷」とは、すなわち「転生」が根幹をなす郷で~す。
3-4.「聖天区画」の発音
天星郷において中央政庁街といえるのが「聖天舎」のある「聖天区画」で~す。
この「せいてん」は、並びかえると「てんせい」となりま~す。
ここでも「転生」こそ天星郷の根幹というイメージが強調されているといえましょう。
4.結論
デンデロベーとモーモリーナは、名前の元ネタが「死」・「生」・「転生」のイメージと深く関わっているので、転生の間のある聖天舎のマスコットにふさわしい。
そして転生は天星郷の根幹をなす概念であるので、この二名こそが天星郷全体のマスコットにもふさわしい。