お久しぶりで~す、夕月夜で~す。
かつて私はこのブログをお借りしてドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』(以下、『兄弟』と表記)の読書メモを三回にわたって書きました。そのリンクをまず貼っておきま~す。
そして先月、お姉様からその二次創作の『カラマーゾフの妹』(以下、『妹』と表記)という課題図書をいただき、雨月と一緒に読みました。すると『兄弟』だけでは意味不明だった疑問点がどんどん氷解していったので~す。
さっそく内容を紹介したいところですが、著作権に配慮し「あらすじ」のようなものは一切書きませ~ん。そして万が一、近い将来に『妹』の著作権を私が相続するようなことになったとしても、やはり「あらすじ」を語る気にはならないでしょう。何しろこれは第一級の推理小説でもあるからで~す。
そこで「ここが特に良かった」とか、そういう話を雨月としたいと思いま~す。
なお人物名の表記は『妹』に準拠したので、たとえば前掲の過去記事では「イヴァン」だった人が「イワン」になっていたりしま~す。
1.『兄弟』の構成を補完
『兄弟』は一つの完結した小説としては構成がおかしいと言われていま~す。
主人公扱いされたアリョーシャがあまり活躍していなかったり、終盤でカラマーゾフ家とはほぼ無関係な若い世代が続々と新登場してきたりと。
これらを「構成の破綻ではない」と評価するには「続編が想定されていた」と考えるのが一番で~す。
そして『妹』は、フョードル殺害事件の全貌を暴くのを主目的にして書かれたものの、『兄弟』の構成を補完する続編としての内容もしっかり盛り込まれていました。
こういう配慮が素晴らしいで~す。
2.『兄弟』の哲学的テーマも一層追及
「神がいないとすれば、すべては許されているのか?」というのが『兄弟』でイワンの考えていたテーマでした。
このテーマにつき、ドストエフスキーの後輩にあたるニーチェなども作中の同時代の外人として参照しつつ、他の人物に思考の継承をさせ、独自の発展をさせていました。
雨月「若者風に言うなら、「原作リスペクトが強い」ってとこやな」
3.原作者のファンへのサービス精神
同じくドストエフスキーによって書かれた『罪と罰』や『死の家の記録』について、「その内容と似たようなことが『兄弟』の世界でもあった」という世界観で『妹』は書かれていま~す。
原作者の作品群に詳しい人が読めば、まだまだ大量の元ネタを発見できるかもしれませ~ん。
これは単なる原作者ファンへのサービスにとどまらず、イワンの精神状態をラスコーリニコフとの対比で解釈するなどの工夫にもなっていました。
4.推理小説として完璧
死体の状況や登場人物のスケジュールや原作者の叙述トリックを総合的に解釈し、反論の余地のないほどに真犯人を突き止めていました。
しかも「これが真相だ」と考えると、『兄弟』では奇妙に思えたような登場人物たちの言動まで説明がついてしまっていました。
雨月「『兄弟』記事の2-8で「世界名作のはずなのに、カオスすぎるで!」という感想を言うてしまったが、この前言を撤回することになったわ。いや~、原作者にも作者にも脱帽や」
暁月夜「一見奇妙だった言動が実は壮大な伏線だったというのは、姐御の過去記事「武闘魔ガウラドの記憶力の不自然な低さこそ、5.2で魔仙卿が明かした魔界の設定の予告だったのかもしれませ~ん」と一脈通じるところがあるな。
5.SF小説としても秀逸
先ほどは哲学者ニーチェ(1844~1900)の話を出しましたが、『妹』では作中の同時代や同時代にとっての近未来に活躍した学者やSF小説家を大量に登場させ、当時を舞台としたSF小説のような側面も『妹』に持たせていました。
名前が出ただけでも、心理学者のピエール・ジャネ(1859~1947)、数学者のチャールズ・バベッジ(1791~1871)、ロケット科学者のニコライ・キバリチッチ(1853~1881)、SF小説家のジュール・ヴェルヌ(1828~1905)、物理学者のコンスタンチン・ツィオルコフスキー(1857~1935)。
6.権威付けも
素人目にいくら名作に見えても、権威のお墨付きがなければ、「本当に名作なのか?」という疑いの心が残ってしまいま~す。
この点『妹』は、第58回江戸川乱歩賞の受賞作であり、また文庫版にはドストエフスキーの翻訳者と研究者の二人から内容を絶賛された鼎談が掲載されていたので、素人でも安心して絶賛できま~す。
7.そして簡潔
そして何より素晴らしかったのは、これだけ詰め込んでおきながら、『兄弟』ほど長ったらしくなかったということで~す。
雨月「そうそう、これが一番ありがたかった。江戸川乱歩賞の字数制限の御陰やな」