ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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夕月夜の読書 笹沢佐保著『木枯し紋次郎』シリーズ その3

※第11巻

11-1.「白刃を縛る五日の掟」 天保11年梅雨明け 信州刈谷原→千曲峠

 今回は新しい趣向の弱体化の物語。固い契約により、五日間は脇差を抜いてはならないという立場に追い込まれてしまいました。

11-2.「雷神が二度吼えた」 天保11年晩夏 遠州秋葉山

 2巻の「一里塚に風を断つ」で相当の業物の長脇差を入手したような雰囲気でしたが、結局は消耗品だったらしく、また折れてしまいました。

 代わりに今回入手したのは、大名に献上されるはずだった、志津三郎兼氏作の名刀です。

 紋次郎がこの名刀を持っているかどうかで、時系列の判断に役立つ場合もあります。今回も早速役立ちました。

 まず10巻の「二度と拝めぬ三日月」と同時期の裏話を「この夏」の出来事として回顧していたので、今回の話は天保11年後半の話ということになりま~す。

 そして次回作の天保11年初秋を描いた「賽を二度振る急ぎ旅」で紋次郎はすでに志津三郎兼氏作の名刀を持っていたので、今回の話が天保11年晩夏の時期と特定できたわけで~す。

11-3.「賽を二度振る急ぎ旅」 天保11年初秋 相武国境小仏峠頂上

 「秋の訪れ」を感じる時期であり、かつ「去年の7月の初め」よりは一年以上経過した時期のようです。

 長年放浪をしてきた免許皆伝持ちの元武士の最強の渡世人「音右衛門」が登場します。

 こういうキャラを出すと、3巻の「噂の木枯し紋次郎」で天保9年9月の時点で紋次郎が渡世人業界で最も恐れられていたという設定と矛盾しかねないのですが、そこはしっかり「強いとはいえ、自分からは攻撃を仕掛けない」キャラだという設定も加えてきました。

 ところがこの温厚なはずの音右衛門が、なぜか突然紋次郎にだけは無理筋の喧嘩を吹っかけてきました。

 この時点で感じた違和感こそ、この話の謎を解く鍵でした。

11-4.年に一度の手向草 天保11?年秋 上州亀井村

 紋次郎が19歳のときから毎年かかさず姉の墓参りをしているという設定が明かされ、今回は15回目の墓参でした。つまり紋次郎は33歳です。

 それならば1巻の「赦免花は散った」の天保6年に30歳という設定から判断するに、天保9年の話になりそうで~す。

 しかし紋次郎をよく知る茶屋の亭主が、2巻の「川留めの水は濁った」で描かれた天保8年の戦いを「三年ほど前」としていることや、天保8年に19歳だったという設定の登場人物が22歳になっていることを重視すると、天保11年ということになりそうで~す。

 作者が途中で設定変更をして紋次郎の年齢を2歳若返らせたのかもしれませんし、当初は「数え歳」で表記していた年齢をある時点から満年齢で表記するようになったのかもしれませ~ん。

 どちらにせよ「その変更がいつなされたのか?」は研究者好みの話題でしょうが、夕月夜は星月夜御姉様ほどの探求心を持ち合わせていませんので、そこまで考察しようとは思いませ~ん。

11-5.「お百度に心で詫びた紋次郎」 天保11年末 房州那古村

 10巻の「旅立ちは三日後に」ではすぐに定住に失敗した紋次郎ですが、今回は余所者を嫌わない気風の土地であったため、一度は成功します。

 しかし紋次郎が過去の戦いで背負った因縁のせいで、地元民に迷惑をかけてしまいました。今回は追手を打ち取り一段落こそしたものの、いつまた似たような事件が起きると知れたものではありません。

 このため結局はまた放浪の旅に出ました。

 この話だけを読むと、舞台となった天保11年の吹雪の季節が年初なのか年末なのか不明なのですが、例の志津三郎兼氏作の名刀のおかげで年末と特定できました。

※第12巻

12-1.「奥州路・七日の疾走」 天保14年夏 奥州

 シリーズ唯一の長編で、12巻はこの話だけが収録されています。

 関東と違って領地が細分化されていない奥州には、渡世人のような存在を許容する余地がありません。そういうわけで堅気には普通の社会である奥州が、渡世人の視点では早く脱出しないと餓死する不毛の地となっていました。

 今回の紋次郎は船の事故でこの補給のない世界へと放り込まれます。

※第13巻

13-1.「人斬りに紋日は暮れた」 ?年冬 甲州

 博打に熱くなって敗けたり、三流の親分からの人斬りの依頼を受けながら金だけ持ち逃げしたりと、普段の紋次郎とは違った側面が見られました。

13-2.「明日も無宿の次男坊」 ?年12月初旬 尾州熱田

 年代が不明の話が二回続きました。作者の方針が変わったのかもしれません。

13-3.「女郎にはたった一言」 天保14年早春 三州赤坂から遠州相良への道中

 年代は直接的には明言されませんでしたが季節は早春。そして人を斬って放浪中の清水の次郎長が登場し、現在23歳であるとされました。

 次郎長が数え歳23歳の天保13年の早春にはまだそのような境遇ではないので、満年齢表記であると解釈しました。

 次郎長の誕生日は旧暦の元旦なので、満年齢ならば旧暦でも新暦でも早春というよりまだ冬のうちに到来します。

 以上により、天保14年の話であると解釈しました。

13ー4.「生国は地獄にござんす」 天保14年10月ごろ 信州唐木

 将軍の日光参詣記念の恩赦から約半年後という設定なので、天保14年10月ごろと解釈しました。

 「三宅島に流刑になった経験がある、他人とは極力関わりを持とうとしない、旅の渡世人」という紋次郎によく似た設定の人物が登場し、妙に気が合い、孤高同士で逆につるみ始めます。

 「友人のいる紋次郎」という珍しい状態を見られるのが魅力です。

※第14巻

14-1.「孤影は峠を越えた」 天保10年旧暦10月 信州岩村田

 紋次郎については数日前に岩村田付近を通過した等の情報が出るものの、本人は直接登場しません。

 今回の主役は、天保10年春以来紋次郎を妹の仇敵と決めつけて追っている「峠花の小文太」です。最後まで死ななかったので次回以降も出てきそうです。

14-2.「黒髪が風に流れて」 天保10年旧暦11月 信州鳥居峠

 中山道を東から来た紋次郎は、信州の藪原まで来て恩人の墓参りをすませ、また東のほうへ帰っていく途中の鳥居峠で敵と戦いました。

 紋次郎は6巻の「冥土の花嫁を討て」では天保10年10月に美濃大井川付近にいて、同巻の「怨念坂を蛍が越えた」と「笛が流れた雁坂峠」では同年11月初旬に野州→信州→甲武国境と移動しまくっていたので、6巻の月の設定は特に注釈がないものの、今作と同じく旧暦と解釈すべきということになります。

 なお鳥居峠で待ち構えていた敵というのは、前回登場した峠花の小文太の兄貴分でした。

14-3.「女の向こうは一本道」 天保10年12月 上州横堀

 紋次郎とは関わりのない事件を追っていた某集団が登場しますが、彼らが偶然にも峠花の小文太に肩入れしていたため、紋次郎を発見したとたんに目標を変えて襲い掛かってきました。

14-4.「黙して去った雪の中」 ?年1月19日 上信国境の渋峠

 雪に閉ざされた旅籠の狭い一室で起きた、腹の探り合いのようなやりとりの話です。

 「いつこの静寂が破壊されるのか?」と読んでいる側までドキドキしてしまい、普段の斬り合いの話以上に緊張しました。

14-5.「関所に散った梅の花」 天保11年旧暦1月下旬・新暦2月20日ごろ

 年代は明記されていませんが、「旧暦1月下旬」が「新暦2月20日ごろ」であるような年であり、かつ峠花の小文太が紋次郎を追っているので、暦の知識があるとこの時点で天保11年か14年だと特定できます。

 さらに後述するように第15巻の「さらば峠の紋次郎」まで読むと天保11年のほうが正しいと判明します。

 この話以外でも、小文太関連の話で作者が年代を明言していない話の多くは、「さらば峠の紋次郎」で特定できました。

 今まではどんな危険が待っていても構わず直進する紋次郎でしたが、小文太には遭遇しないように工夫をしていました。

※第15巻

15-1.「恋の闇路を見送った」 天保11年春 信州金沢峠

 武士時代の峠花の小文太を知っている者が登場するので、一応一連の小文太シリーズの一作ですが、全体的な内容は木枯し紋次郎としての王道に戻ったかのような話でした。

15-2.「白刃が消した涙文字」 天保10~11年 信州野沢宿

 10歳で三日月村を飛び出した紋次郎が21年ぶりに幼馴染に会います。

 1巻の「赦免花は散った」の「天保6年に30歳」という旧設定から判断すれば、これは天保7年の話になります。11巻の「年に一度の手向草」の「天保11年に33歳」という新設定から判断すれば、これは天保9年の話になります。

 しかし話の最後に天保10年春から紋次郎を追い始めたはずの峠花の小文太が登場し、紋次郎の命をしっかり狙っていました。

 そろそろ真面目に年代設定を考察するのが馬鹿馬鹿しくなってきました。

15-3.「夜桜に背を向けた」 天保10~11年 甲州笹子峠

 紋次郎は、普段なら騙されないような詐欺に引っかかります。その原因は、峠花の小文太を意識しすぎたからでした。

 小文太は直接登場しなくても、紋次郎の旅に不気味な影を落とし続けています。

15-4.「遺恨の糸引く奴凧」 天保11年陰暦3月半ばすぎ・新暦4月下旬 鬼怒川

 紋次郎と峠花の小文太がついに相見えるも、大量の共通の敵の登場のため共闘していました。いかにもライバルという雰囲気になってきました。

15-5.「死神に勝つは女か雷か」 天保11年陰暦5月下旬 神流川

 「遺恨の糸引く奴凧」と同じ年の六十数日後。

 紋次郎を仇敵とみなして追い回す峠花の小文太も、実は正木進之丞という男に仇敵とみなされて追い回されていました。そして今作では紋次郎が、正木を恩人の仇敵とみなして殺そうとしました。

15-6.「さらば峠の紋次郎」 天保11年10月 信州海野

 峠花の小文太が紋次郎を逆恨みする原因となった偽の紋次郎は死に、誤解が解けた小文太もその直後に死にます。

 小文太が登場する話の時代設定の範囲が、これでかなり限定できました。