ほしづくよのドラゴンクエストX日記

ドラゴンクエストXの世界で体験したことを綴っていきま~す。画像は原則として株式会社スクウェア・エニックスさんに著作権があるので転載しないで下さ~い。

文豪バルザックが錬金術師バルザックに与えた影響 『ドラゴンクエストIV』版

1.錬金術バルザックと文豪バルザック

 ドラゴンクエストシリーズにおける「バルザック」の初出は『ドラゴンクエストIV』で~す。そこでは恩師である錬金術エドガンを殺してその業績を盗み、魔族と手を組んだ人物として登場しました。

 ドラクエのファンは「バルザック」と聞くと大抵このキャラクターを思い浮かべま~す。

 しかし一般に「バルザック」と聞いて思い浮かぶものを聞いてまわれば、おそらくフランスの文豪"Honoré de Balzac"(1799~1850)が一位となるでしょう。以後、錬金術バルザックとの区別のため彼を「文豪バルザック」と表記しま~す。

 本人の作品に興味がない人でも、ロラン=バルトが文豪バルザックの作品『サラジーヌ』を題材にして『S/Z』を書き、新しい読解の手法を世に広めたので、『サラジーヌ』だけは『S/Z』を学ぶさいに読んだという人は多いかと思われま~す。

 『S/Z』においては、「サラジーヌ」という人名を聞くとフランス人の多くが女性を思い浮かべ、そこに物語のネタバレの要素があったのだ、という指摘がありました。

 これとまさに同様に、現代日本人がドラゴンクエストシリーズで「バルザック」という人名に出会うと、文豪バルザックやその作品群のイメージがそこに投影されるので~す。

2."L'Élixir de longue vie"の紹介

 そしてドラゴンクエストIV錬金術バルザックの元ネタの要素が強い文豪バルザックの作品といえば、星月夜としては第一に"L'Élixir de longue vie"(1831)を挙げま~す。日本では一般に「不老長寿の薬」という題に翻訳されていま~す。以下、あらすじを紹介しま~す。

 この物語では、バルトロメオという人物が二十年の研究の果てに秘薬を発明しま~す。それは死者を復活させる薬でした。バルトロメオはその薬を息子のドン=ジュアンに預けるのですが、遺産が欲しいドン=ジュアンは、それを親の死体に使わずに私物化してしまいま~す。いわば親を見殺しにして薬を奪ったようなもので~す。

 やがてドン=ジュアンは自分が死ぬときになって同じように息子にこの薬を預けることになるのを予測し、息子を自分とは正反対の敬虔で親孝行な人物に育てるため苦心しま~す。そのため、せっかくバルトロメオを見殺しにして入手した財産もほとんど使わず、質素な家庭を運営することになりました。

 ところが、いざドン=ジュアンが死んだとき、その敬虔な息子が薬を上手に使わなかったせいで、首と右腕だけが若々しく他の部分が死体のままという、不完全な形で復活してしまうのでした。

 それを知った修道院長は、この奇跡を金儲けの道具にしようと考え、大々的な儀式を行いま~す。そこでは首と右腕だけ復活したドン=ジュアンが崇拝の対象となりました。ここで原文に"Le corps de l’impie étincelait de pierreries, de fleurs, de cristaux, de diamants, d’or, de plumes aussi blanches que les ailes d’un séraphin, et remplaçait sur l’autel un tableau du Christ."という文が登場しま~す。拙訳すると、「不信心者の死体が、宝石・花・水晶・ダイヤモンド・黄金・セラフィムの翼と同じぐらい白い羽毛によって輝き、キリストの祭壇画に置き換えられた」となりま~す。

3.類似点の列挙

 前章で紹介した太字の部分を中心に、ドン=ジュアンとIVの錬金術バルザックとの類似点を挙げていきましょう。

※「親を見殺しにして薬を奪った」≒「恩師を殺して進化の秘宝を奪った」

※「不完全な形で復活してしまう」≒「黄金の腕輪がなかったので実験は失敗」

※「キリストの祭壇画に置き換えられた」≒「玉座に座り、神に近いと自慢した」

 さらに小説版では以下の類似点が加えられていました。

※「せっかくバルトロメオを見殺しにして入手した財産もほとんど使わず」≒「せっかく究極の肉体を得たのに、人間の意識にもとづく欲望を肉体が快楽として受容しなかった」

 そして小説版では"L'Élixir de longue vie"の影響は上司のキングレオにも及び、親である王を倒して玉座を奪った人物とされ、この設定はリメイク版のゲームにも採用されました。

4.結び

 制作陣や小説の執筆者が、どの程度意識的に"L'Élixir de longue vie"を念頭に置いていたかは不明ですが、バルト流の「作者の死」の立場に立つならば、それはある意味でどうでもいいことで~す。

 完結した一個の物語としての『ドラゴンクエストIV』においては、錬金術バルザックはその名前と経歴の時点で"L'Élixir de longue vie"をプレイヤーに想起させ、その予言通りに死んでいったので~す。

 次回は『ドラゴンクエストX』における錬金術バルザックと文豪バルザックの関係について語りま~す。

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