1.はじめに
星月夜が思うに、「キャット・リベリオ」の物語は、『罪と罰』の内容から多大な影響を受けておりま~す。証拠を小出しにして比較しながら分析していきま~す。
2.名前
「リベリオ」と聞くと、イタリア人男性の名前"Liberio"をまずは思い浮かべるものです。
しかしながら語末に「ン」をつけると、「反逆」を意味する英語"rebellion"の日本語風の発音になりま~す。
LとRの発音の区別をほとんどしない日本人に対してこそ有効な、見事なダブルミーニングですね~。固有名詞でありながら、聞くだけでどことなく反逆者の印象を自然に持ってしまうわけで~す。
『罪と罰』の主人公の苗字「ラスコーリニコフ」の語源"раскол"も、「分裂」・「反対」・「分派」などを意味しま~す。善と悪との間で揺れ動きながら精神を病んでいく犯罪者であることは、実は最初から予告されていたので~す。
3.ある程度同情できる犯罪
リベリオは猫島の支配者である「キャット・マンマー」の息子であるジュニアを海に流してしまい、さらに気落ちしたマンマーをも殺して自分がボスになろうとしていました。
こう書くと大悪事であるかのように思われますが、すべてが明るみになった後の戦闘でもリベリオが「仲間を呼ぶ」をするとリベリオの側に立って戦う猫が大勢いたのですから、マンマーの支配とジュニアへの世襲を快く思わない者も実際には多くいたのでしょう。
また事件解決後のマンマーのセリフを聞くに、猫島のフィールド上で冒険者を襲う猫のモンスターたちは、マンマーの方針への反発者たちのようですね。
そういうわけで、不人気の王権に立ち向かったリベリオの犯罪は、絶対悪とまではいえませ~ん。
ラスコーリニコフが金持ちの老婆を殺したのも、私利私欲が半分入っていましたが、もう半分は老婆に苦しめられているその義妹を助けようという気持ちが原因でした。
4.その後の弱体化
サブストーリー「ゆるしてほしいのニャ」が始まると、リベリオがラーディス王島の小屋で腑抜けになっていました。
本当の反逆者であるならば、自身の先駆者であるヒポポ・サードンのように猫島を外側から攻める計画を立てるでしょうし、それが無理なら実力で新天地を開拓することでしょう。
日常の道徳を無視した英雄になろうとしつつも、道徳によって保たれていたその集団の枠組みから外れたとたんに気弱になってしまうという、小悪党の心情が、よく表現されていました。
ラスコーリニコフも、いざ老婆を殺してしまうと精神に変調をきたし、肉体まで病気になっていました。
5.健気なソーミャ(ソーニャ)の影響
本章は本稿で一番重要な部分で~す。ここまでの情報は、単にリベリオがラスコーリニコフと似ているというだけの話を積み重ねることで帰納法的な証明を狙ったものであり、スタッフが『罪と罰』を参考にしたという不動の証拠ではありませんでした。しかし本章で示す証拠は、ほぼ絶対に近い証拠で~す。
リベリオは、「ゆるしてほしいのニャ」第3話「ネコかぶりでGOなのニャ」で、ソーミャの家族の事情をくわしく知り、またソーミャの心に触れて、自分を見つめなおし、改心をしま~す。
ラスコーリニコフは、ソーニャの家族の事情をくわしく知り、またソーニャの心に触れて、自分を見つめなおし、懺悔へといたりま~す。
これは単なる偶然ではありませ~ん。
このクエストの序盤のリベリオのセリフには、「そうニャ、……。あの娘を使うのニャ」という部分がありま~す。「あの娘」とはソーミャのことで~す。そしてその話題の直前に「そうニャ」とわざわざいっているのですから、ここでは「このクエストにおけるソーミャは、ソーニャとしての役割を担っているのだ!」という暗号が強力に示されているといえましょう。
6.無罪を勝ち取れそうな状況下であえて追放刑に服し、真の意味での社会復帰をする。
リベリオはサードンに立ち向かった功績により、罪を許されました。しかしソーミャの影響を受け、あえて自分の生き様を自分で決める生き方を選び、猫島から出ていきま~す。そうすることでかえってマンマーからは猫島の一員であるというお墨つきをもらえました。
ラスコーリニコフは、より嫌疑の強い容疑者が登場したことで無罪を自動的に勝ち取れそうになりますが、あえて自首をしま~す。この潔い態度は司法関係者から高く評価され、罰はシベリアへの八年間の流刑ですみました。こうすることでかえって彼の心は落ち着き、本当の意味で社会の一員に復帰したので~す。
「罰」が、不安定な立場である犯罪者を社会に復帰させるための「許し」でもあるということは、アーレントが『人間の条件』で指摘しているとおりで~す。
そしてこの「罰による社会復帰」というシステムを予行的に描いていたのが、「ゆるしてほしいのニャ」の第1話「ネコババはダメなのニャ」のミャルジで~す。彼は「お仕置きなら なんでも受けるんで それで ゆるしてほしいのでヤンス!」といい、お仕置きを受けると、それを許しとして解釈して礼をいうので~す。
7.どこまでもついてくるパートナー
ここから先は、ソーニャ役はソーミャからミャルジへとバトンタッチになりました。
シベリアまでラスコーリニコフを追ってきたソーニャのごとく、ミャルジは地獄の三丁目までリベリオを追いかけま~す。
8.思想的元凶としてのナポレオン
小市民的な精神のラスコーリニコフは、そもそもなぜ巨悪な手段を用いて巨善なる目的を達成する英雄になろうとしたのでしょうか?
本人の供述によれば、ナポレオンになりたかったとのことでした。
日常の道徳に散々背きながらも、自由や平等といった新しい価値観をヨーロッパに広めていったナポレオンをどう評価するのかについて、当時のヨーロッパ人はかなり悩んでいたようで~す。全肯定する者もいれば、全否定する者もいれば、部分肯定する者もいました。
最近の日本では、過激な手法で麻薬を退治するフィリピンのドゥルテ大統領の評価をめぐって大いに議論がなされていますが、それを一層強力にしたような論争が延々と続いていたわけで~す。
ラスコーリニコフもその議論の参加者の一員であり、またそのナポレオンになりたかったけどなれなかった凡人のうちの一人でした。この種の人物を描いた作品としては、他に『戦争と平和』や『赤と黒』などがありま~す。
ではアストルティアにおいて、本来なら善の心も悪の心も弱いリベリオのような平凡人をときとして刺激して、英雄を目指させてしまうような事績を残した思想的元凶とは誰でしょうか?
それはフォステイルであると、星月夜は考えました。
フォステイルこそ、善なる目的のためには手段を選ばず、血も涙もなく莫大な犠牲者を生み出し、その血の上に正義を実行した歴史上の偉人でした。
「たとえ短期的には批判されるようなことをしても、それを踏み台にして最終的に正しいことをすれば、やがて称えられる!」という考え方を、彼はその生涯を通じてアストルティア中に広めてしまいました。
リベリオやブランドンやゼクセンは、そうした風潮の犠牲者であったのだと思いま~す。
(追記)
フォステイルのそのまた元凶を発見しました。詳細はこの記事にて。
(2021年6月27日追記)
夕月夜が『罪と罰』の読書メモを発表しはじめました。