0.はじめに
バージョン3.2後期対応の公式ガイドブック(通称「魔人本」)の112~113ページでは、鍛冶職人の「地金の温度とたたく方法によるチカラの値のちがい」の詳細な一覧表が掲載されておりま~す。そして似たような表は非公式の攻略サイトにも多々ありま~す。
しかし温度やたたく方法から結果を算出する計算式までしっかり掲載しているような本やサイトは、管見の限りでは見つけられませんでした。
星月夜はこの数値の計算方法を見抜いたので、計算式を作って本稿にて掲載することにしました。
計算式や手順を出すための過程や苦労話も、結論の信頼感を担保するためにある程度書きました。これは面倒なかたは読み飛ばしていただいても大丈夫で~す。
実はこの研究課題は約一年半前の記事のコメント欄で予告していたのですが、それ以来ずっと延期してしまっていました。本日ようやく公約を果たせました。
1.基礎知識の確認
1000℃でふつうに「たたく」と、ランダムで12~18の7種類の数値がでま~す。
温度を上げたり強いたたきかたをすると数値は高まりますが、その種類は7つのままで~す。なお2000℃以上は2000℃と結果が同じで~す。
逆に温度を下げたり弱いたたきかたをすると、数値は減り、種類も減る場合がありま~す。
これらのことから、基準値と計算式と小数の処理過程とが存在することがうかがえま~す。
2.温度の影響の計算式の研究
2-0.総論
まずは原則となる計算式を作るため、温度の変化が数値にもたらす影響を研究しました。
2-1.1000℃と1050℃の断絶に気づく。
漠然と一覧表を見ているうちに最初に気づいたのが、「1000℃と1050℃の断絶」で~す。どの叩きかたでも、1000℃から1050℃になるとき、数値が必ず上昇するので~す。
そしてこのような特別なラインは他に存在しませんでした。
このことから、「1000℃か1050℃のどちらかが基準値になっていて、1000℃が基準なら計算後に切り上げ、1050℃が基準なら計算後に切り捨て」であるという仮説にいたりました。
2-2.「1000℃の切り上げ型」に賭けた理由
1050℃の各「たたく方法」を見ていると、19の「2倍打ち」が37で「3倍打ち」が56で「てかげん打ち」が10でした。
これらの結果は、1050℃が基準という仮説とも、切り捨て型の計算方法とも、相性が悪いものでした。
もちろん「たたく方法」の変化による計算と温度の変化による計算が別物である可能性もありましたが、まずは「1000℃の切り上げ型」に賭けてみることにしました。
そして最後まで矛盾が生じなかったので、これで正解だったようで~す。
2-3.2000℃で1000℃の1.5倍だと気づき、熱風おろしの40で自信を深める。
どのたたく方法のどの数値であっても、1000℃から2000℃にすると1.5倍になっていました。
「これはかなり単純に増えているのではないか?」と考え、公式の一覧表の熱風おろしの1000℃にある40の温度による変化に着目したところ、なんと50℃ごとに完璧に1ずつ変化し、2000℃なら単純に20足して60、500℃なら単純に10引いて30でした。
こうして、「計算式は単純な一次関数だ!」という仮説に至りました。
2-4.温度の影響の計算式が完成
1000℃時の数値をnとしま~す。通常の「たたく」なら、nは12から18までの自然数で~す。
そして摂氏の温度の値をxとしま~す。ただし2000℃以上はx=2000としま~す。
これで原則版の計算式が堂々完成で~す。
たとえば「1000℃で12だった数値が350℃でどうなるか」の計算ならば、12に0.675をかけて8.1と出し、小数点以下を切り上げて9という結論になりま~す。
同様に、nが13なら8.775の切り上げで9、14なら9.45の切り上げで10、15なら10.125の切り上げで11、というわけで~す。
ランダムで10ヶ所ぐらい計算してみましたが、全部公式の一覧表の数値と一致しました。
3.たたく方法による影響の研究
3-0.総論
次にたたく方法の変化が数値に与える影響について、研究しました。
3-1.たたく方法の影響が生じるのが最終段階ではないことの証明
たたく方法の影響の研究が一筋縄でいかないことについては、多くのかたが見抜いていると思いま~す。
なぜなら、「2倍打ち」や「3倍打ち」をしても数値が2や3の倍数にならないことがあるのは、日常茶飯事だからで~す。
つまり「2倍」だの「3倍」だのというのは、最終段階以外のどこかの段階での掛け算であるというわけで~す。
3-2.たたく方法の影響が生じるのが最初であることの証明
次に注目したのが、公式設定で「0.5倍」である「てかげん打ち」と「0.8倍」である「みだれ打ち」で~す。
てかげん打ちは温度をいくら上げても数値の種類は1000℃時と同じ4種類のままであり、みだれ打ちも温度をいくら上げても数値の種類は1000℃時と同じ6種類のままで~す。
もしも「0.5倍」や「0.8倍」というのが最後の整数化の直前になされているのであれば、てかげん打ちにおける「標準で13だったはずの7」と「標準で14だったはずの7」は温度の上昇とともに差異が生じるはずなのに、そうした差異が一切生じていないというわけで~す。
このため、たとえば1700℃で通常の「たたく」をすると18になるケースでは、その0.5倍のはずの「てかげん打ち」では、おそらく2度の切り上げのせいで10になっているので~す。
よって各たたく方法の1000℃時基準値のnに当たるものは、最初の「たたく」からの変化のさいの切り上げにより整数の形で一度決定され、その後に前章の計算式がまた作用していると考えるべきで~す。
3-3.本稿では採用しない、一つの解決策の提示
一つの解決策として考えられるのは、たたく方法の変化が数値に与える影響を数式に盛り込むのを諦めることで~す。
そしてそれぞれのたたく方法の1000℃時の数値をnとみなし、第2章の式で計算しま~す。
たとえば「てかげん打ちならnは6から9の自然数だ」と覚えてしまい、計算を開始しま~す。
これはこれで実用の観点からは優れた解決策の一つですが、本稿では採用せず、一つの式に盛り込むことを目指しま~す。
3-4.たたく方法の影響と温度の影響の両方を表現した計算式
「nは12から18までの自然数」の一元化にこだわり、かつ一本の美しい式で計算したいならば、二度の切り上げを一本の式の中に書くしかないですね~。
yはたたく方法の倍率としま~す。「てかげん打ち」で0.5、「みだれ打ち」で0.8、普段が1、「上下打ち」か「4連打ち」か「ななめ打ち」で1.2、「2倍打ち」か「超4連打ち」で2、「熱風おろし」で2.5、「3倍打ち」で3で~す。
できた!
これで前述の1700℃の「たたく」と「てかげん打ち」の比較例を計算してみま~す。ちなみにnは13で~す。
0.5+0.0005xは1.35なので、その13倍なら17.55で切り上げると18。
てかげん打ちなら13の0.5倍の切り上げである7を1.35にかけ、出てきた9.45を切り上げて10。
やったね!
4.「会心」の影響および「たたき変化」特性の影響の研究
4-0.総論
「会心」の影響、「たたき変化」特性のチカラ倍増の影響、そして「たたき変化」特性のチカラ半減の影響は、すべて前章までの計算がいったん終わったのちに改めて計算が行われておりま~す。
以下はそれらの証明と、それを踏まえた計算式の提示で~す。
4-1.「会心」の影響が最終段階であることの証明
これはゲーム中に語られる公式設定で~す。
職人練習場にいるルルドが、「会心で注意すべきことは?」への回答として、「奇数か 2倍になったら出ないはずの 小さい数値が出たら 確実に理想地に 届いていると 判断できるわ」と語っていま~す。
会心で奇数になるのはちょうど理想値に届くときだけであるということは、会心による2倍化とは、いったん整数化されたものの2倍化であるということになりま~す。
4-2.「たたき変化」特性のチカラ倍増の影響が最終段階であることの証明
これは長年の実測から帰納法的に得られた結論で~す。
「たたき変化」のチカラ倍増で出る数値は、「2倍打ち」と違って原則として偶数であり、せいぜい会心と理想値到達とが同時に起きたときにしか奇数になりませ~ん。
4-3.「たたき変化」特性のチカラ半減の影響が最終段階であることの証明
こちらは実測から直接的には証明することはできませ~ん。
たとえば10.2の切り上げとしての11も10.8の切り上げとしての11も、チカラ半減で6になりますが、これらが5.5経由での切り上げなのかそれとも5.1や5.4からの直接の切り上げなのかは、実測では不明だからで~す。
そこで、チカラ倍増と同じシステムであることから、とりあえず同じ段階であろうと推測するしかないですね~。
そしてどちらにせよ結果は同じである以上、計算式が内部システムの手順を正確に反映していなかったとしても、実務上は問題がないで~す。
4-4.「会心」の影響と「たたき変化」特性の影響は、どちらが後なのか?
「会心」の影響と「たたき変化」特性の影響がどちらも最終段階であるとして、では「同時に発生した場合はどちらがより後なのか?」を考えました。
常識で考えるならば、多分会心が後で~す。
仮に会心が先の場合、会心で理想値に達した後、さらにチカラ倍増で理想値の先に行ったりする事故やチカラ半減で理想値の手前に戻ったりする事故が起きるはずですから。
4-5.チカラ半減の直後、会心の直前に、切り上げは起きるか?
では会心より先に「たたき変化」が起きるとして、それが「チカラ半減」であった場合、会心の直前に切り上げが一度起きるのかを調べてみました。
具体的には600℃でチカラ半減の状態で、会心が出ても決して理想値に届かないような部位を「ねらい打ち」し、会心が出た場合のデータを集めました。
途中で切り上げが起きるならば、結果はすべて偶数になるはずで~す。さらには通常なら最大値である15の半減の切り上げの8の2倍である16が出るケースもあるでしょう。一度でも16が出たら途中での切り上げがあるということになりま~す。
逆に途中の切り上げが起きないならば、0.5倍と2倍が打ち消しあい、通常の地金の通常たたきと同じく11や13や15といった奇数も登場するはずで~す。一度でも奇数が出たら途中での切り上げがないということになりま~す。
意地の悪いことに20回連続で10か12か14しか出なかったのですが、21回目に16が出ました。
こうしてチカラ半減の直後に切り上げがなされ、そのあとで会心による2倍化がされていることが証明されました。
4-6.最終結論としての計算式
以上の研究成果をもとに、「会心」の影響や「たたき変化」特性の影響があった場合の計算式を作りました。
「たたき変化」をzとし、「z=1」がたたき変化なし、「z=2」がチカラ倍増、「z=0.5」がチカラ半減で~す。
また「会心」をwとし、「w=1」が会心なし、「w=2」が会心発動で~す。
これで完璧!
5.余談?
暁月夜「エッヘン。鍛冶職人はアスフェルド学園の部活動の60%である。普段のギルド活動や部活動では鍛冶に触れない者でも、部活強化週間末期の緊急時には、鍛冶に触れざるをえない場合も多かろう。だから姐御が作ったこの式をしっかり頭に叩きこんでおけ」
雨月「魔人本を買って一覧表を見たほうが早いわ~」
(2022年6月22日追記)
細かく場合分けをして複数の式を書いていた「4-6」を、一本の式へと整理しました。
また数式の表記方法を変更しました。