ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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呪縛の魔獣の系譜を遡る。高橋留美子と半魚人の歴史。

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 0.はじめに

 5.5前期メインストーリーで、ヒメアの恋人だったコハクのエルフ態の霊が登場したので*1、記念に「呪縛の魔獣」態の系譜を遡って紹介しま~す。

1.直接の元ネタは高橋留美子の『人魚シリーズ』の「なりそこない」

 高橋留美子の『人魚シリーズ』(1984~)は、ツスクルの外伝の設定とよく似ておりま~す。

 このシリーズでは、人魚の肉を食べた者は原則として、不老不死になるか、数日以内に死ぬか、「なりそこない」という理性なき不老不死の半魚人に変貌しま~す。

 半魚人は「顔は魚で二足歩行」という点で人魚のちょうど対となる存在なので、人魚の漫画に登場する悪役の設定として相応しいものだと個人的に感じておりま~す。

 シリーズでは、主人公と知能派の悪役と理性なき「なりそこない」が三つ巴になることが多く、これにより話のパターンが増えてマンネリ化が防がれていま~す。

 ツスクルの外伝の内容もこれに似ていましたね。「数日以内に死ぬ」ルートこそ確認できませんでしたが、長命の儀式をするとヒメアのように長命になるか、コハクのように理性なき長命の半魚人である呪縛の魔獣になる設定でした。しかも師ハジカという、主人公の味方でもなければ呪縛の魔獣の味方でもない知能派の悪役も登場していました。

 そういうわけでほぼ確実に高橋留美子の人魚シリーズがツスクルの外伝の元ネタであり、とりわけ「なりそこない」と呪縛の魔獣の設定の類似性はほぼそのまま流用したようなものだと、星月夜は考えておりま~す。

 でも話をこれだけで終わらせるのはもったいないので、この系譜を更に遡っていきま~す。

2.『うる星やつら』の「謎」のマスコットとしての半魚人

 高橋留美子の最初の長期連載作品は『うる星やつら』(1978~1987)で~す。

 この作品では宇宙服を着た半魚人が、その設定について何の説明もないまま、度々通行人のような役で登場しま~す。

 アニメ版でも本編中は原作と同じく脇役として時々登場するだけなのですが、オープニングやエンディングの映像ではまるでレギュラーキャラのような重要な扱いを受けることが多いので~す。

 この半魚人のマスコットとしての高い待遇は、原作であれアニメ版であれ、『うる星やつら』だけを鑑賞していたのでは理解できない「謎」なので~す。

3.デビュー作『勝手なやつら』の半魚人

 高橋留美子のデビュー作は、『勝手なやつら』(1978年発表)という短編で~す。

 登場人物の多くは『うる星やつら』にも再出演しており、世界観としての連続性が認められま~す。宇宙服を着た半魚人もそうした再出演者の一例で~す。

 あらすじだけを紹介すると、宇宙人と海底人たる半魚人と地球人とがそれぞれ主人公の体内に三種類の異なる爆弾を仕掛けた結果として、主人公が死ぬか爆弾が摘出されると全宇宙が消滅するという状態になり、一種の「核による平和」が成立するという話で~す。

 この原点としての作品で「第三勢力としての半魚人」が描かれ、またそれが当時の漫画のセオリーを無視した非常に珍しい立場であったので(『高橋留美子本』p31参照)、その後も『うる星やつら』や『人魚シリーズ』で半魚人が強い影響力をふるい続けたのだと星月夜は考えておりま~す。

おまけ.『勝手なやつら』の奥深さを勝手に語る

 主人公は美少女に名前を聞かれてもカタカナで「ケイ」とだけ答える少年で~す。設定上はこれが本名なのかもしれませんが、読者としてはイニシャルの"K"を思い浮かべ、そこから「主体性が少なく、周囲に翻弄される存在」というイメージを予告されま~す。

 彼の唯一の生き甲斐は新聞配達であり、また新聞をこよなく愛していま~す。その愛たるや、見知らぬ宇宙人から「新聞てなんだ?」と聞かれても即座に「社会の出来事の報道・解説をすばやくかつ広く伝えるための定期刊行物」と答えるほどであり、その宇宙人によって宇宙船へとさらわれても、自身の心配の前に「新聞がおちた~」と嘆くほどで~す。

 そんなケイは、宇宙人と海底人に爆弾を仕掛けられるも、何とか生き延びて地上に帰ってきま~す。

 宇宙人は新聞の「読者のひろば」に地球人への脅迫文を載せることに成功しますが、掲載場所や文体のせいで、地球人に内容をまったく信じてもらえませ~ん。

 そのころ地球人の松戸先生が、ケイの体内に第三の爆弾を仕掛けま~す。同じ地球人なのに何故そんなことをしたのかというと、ケイが宇宙人の一味だと誤解したからで~す。なぜそう誤解したかというと、ケイが新聞で「これが宇宙人だ!!」と誤報されてしまい、かつ防衛庁長官に「新聞に宇宙人と書いてあるからには宇宙人です!!」と説得されたからで~す。

 この対比により「新聞の情報は状況により、あるときはまったく信じられず、あるときは都合よく信じられる(信じたふりをした者の責任転嫁に使われる)」という社会の有様が浮彫りになりま~す。これは新聞に限らず、テレビや、現在ならインターネット等にも、通底する問題で~す。

 そして松戸先生の暴走の局面だけを切り取ると、ケイは「新聞を愛していたのにその新聞に裏切られた悲劇の主人公」ということになりま~す。

 しかし三大勢力の身勝手な行動に翻弄された結果として、ケイは実質的に「宇宙の王」とでもいうべき絶対の立場を手に入れ、好き放題に生甲斐である新聞配達ができるようになったので~す。

 ここでアルファベットの"K"を思い出しましょう。まったく別の方向に書いた三つの直線が、一つの文字を形作っていま~す。そういうタイプのアルファベットには他に"Y"もありますが、「ワイ」という名前は「ケイ」より不自然な上に武骨な一人称代名詞のイメージとも重なってしまうので、「ケイ」こそがこの物語の主人公にもっとも似合った名前であったことがわかりま~す。

 そして日本語のフィクション作品における"K"という登場人物は、夏目漱石の『こゝろ』の"K"を想起させま~す。

 「私」(先生)という「勝手なやつ」のせいで自殺したものの、その行為によってやがて「私」を自殺に追い込んだ登場人物で~す。これは「松戸先生らの勝手なやつらが、ケイを殺すと自分も死ぬ」という設定とも通底しますね。

 しかも「私」(先生)が"K"の自殺を遠因とした自殺をするさい、直接のきっかけとなったのは、新聞に掲載された乃木大将の遺書で~す。人の死に関わる重要な局面で、また「新聞」という共通点が出てきました。

 高橋留美子は『めぞん一刻』(1980~1987連載)の中で『こゝろ』を扱っているので、この時点ですでに影響を受けていた可能性も高いで~す。仮に本人が意識的な影響をまだ受けていなかったとしても、一流の読者は「ケイ」と「ケイの死」と「ケイの死による死」の新聞を媒介とした連鎖の構造に模倣の美を見出すわけで~す。

 こういう奥深さに気づかないとただのドタバタギャグに見えてしまう漫画なので、漫画評論家の才能を見極めるのにも使えてしまう、怖~い漫画なので~す。

夕月夜「古典の知識があれば、ツスクルの外伝クエストもより深く味わえるというわけですね。夕月夜もがんばって読書に励みま~す!」