0.はじめに
本日は、アスバルの改革がなぜ成功したのかを考え、失敗に終わったイーヴの改革と比較してみました。
成功者と失敗者とを比較すると、結果から遡って失敗者を批判する形になりがちですが、意外にもイーヴへの一定の再評価につながりました。
1.ゼクレス内の勢力の整理
話をわかりやすくするため、やや大雑把ですが、ゼクレス内の利害の主体を「王家・大貴族・小貴族・平民」の四大勢力に分けま~す。
これまでにNPCとの会話などで入ってきた情報にもとづくと、小貴族と平民は中央官僚の人選をめぐって対立することが多く、王家と大貴族は封建的特権の量をめぐって対立することが多いようで~す。それ以外の対立の情報は、今のところ目立った形では入ってきていませ~ん。
なお魔物は一応平民以下の最下層という位置づけのようですが、平民と雑居している上に目立った利害対立もなく、政治への対応も平民と歩調を合わせている感が強いので、本稿では平民の一種として扱いま~す。
2.第一の成功原因 漸進的だった。
貴族制度を一気に全廃しようとしたイーヴと異なり、アスバルは大貴族に対しては極端なことをしていませ~ん。
5.5前期の物語を始める直前まで、ベラストル家の使用人のアウレールは「ゼクレス王家や大魔王よりベラストル家優先」という立場を大魔王に対しても公然と語っており、またどうぐ使いのクエストを今さら受注しても某大貴族は「地上制圧隊」を私有したままで~す。
つまり王権から半ば独立した大貴族の地位は、ほぼ保証しているので~す。
彼の改革とは、オジャロス政権の中央官僚の人材を平民からも求めるという政策をそのまま維持した上で、その官僚たちから賄賂などの不正な副収入の道を閉ざしただけのもので~す。
またその中央官僚の平民からの登用についても、クエスト「想いを針にこめて」で見るようにオジャロスによる粛清の嵐の直後で人材難である時期なのですから*1、貴族主義者が政権を握っていたとしても急場をしのぐためある程度はやっていたかもしれない政策で~す。
以上、小貴族の不正な既得権層だけを狙い撃ちにしたものであり、かつそれもある程度は不可抗力とみなされるようなものであるという、非常に漸進的な改革であったことが、成功の第一の理由だったといえましょう。
3.第二の成功原因 歴史的経緯により抵抗勢力はすでに弱り切っていた。
3-1.イーヴの下準備
イーヴが王家以外の身分制を廃止するために動いていたことは周知のとおりで~す。
つまり「王家 対 大貴族」では王家側に有利であり、「小貴族 対 平民」では平民側に有利な政権であったことになりま~す。
ゼクレスに限らず貴族の封建的特権の弱体化というのは、大抵は王権と平民の両極への利益になりま~す。
地球でもヨーロッパでは、封建的貴族の弱体化の時代である絶対王政期に王権と平民が強大化し、そうした風潮の中で個人と王権を強調する『リヴァイアサン』も執筆されました。ジパングでも商人が台頭し大名が弱体化していく中で「一君万民論」が栄え、やがて版籍奉還が実現しました。
3-2.エルガドーラの下準備
イーヴの改革が失敗に終わったとき、エルガドーラは強大な貴族たちには王領を差し出して和を請いました。そこまでは5.2までで判明していた情報で~す*2。
しかし「絶美の魔神よ 降臨せよ」*3で判明した事実によると、「心眼のゴレッポ」のような復権させる意味のない連中については、エルガドーラは復権させなかったようで~す。
すなわち、すでにイーヴによって弱体化させられていた小貴族たちは、300年にわたるエルガドーラ政権の間、復活の芽を摘まれていたというわけで~す。
つまり「王家 対 大貴族」では大貴族側、「小貴族 対 平民」では現状維持で~す。
3-3.オジャロスの下準備
エルガドーラの次にゼクレスを支配したオジャロスは、再びイーヴのように平民の力を利用して身分制を弱める改革をしました。イーヴ派との違いといえば、「王家の絶対性まで揺るがすかどうか?」で~す。
そして宮中で粛清をしまくりましたが、イーヴ派は最後まで潜伏していたわけですから、この時代に粛清された者の大半は小貴族派だったことでしょう。これで宮廷の小貴族の既得権層はさらに弱体化したことになりま~す。
つまり「王家 対 大貴族」では大貴族側、「小貴族 対 平民」では平民側で~す。
3-4.アスバルの登場
そういうオジャロスを王が粛清しましたが、衆人環視の中で大貴族のベラストル家と組んで倒したのですから、これは他の大貴族からは特に警戒されなかったことでしょう。
平民層にインタビューしたところ、オジャロスを懐かしむ声が多少聞こえましたが、官吏の登用基準が維持されたことにより、特に大きな不満はないようで~す。
そして「アスバルに罷免されたり収入源を絶たれたりして、恨んでいる元世襲官僚」みたいなキャラは現段階では未登場で~す。
イーヴが減らし、エルガドーラが増やさず、オジャロスが粛清し尽くした結果、抵抗する気力と財力のある小貴族はもう残っていないのでしょう。
つまり実はアスバル政権とは、「王家 対 大貴族」では大貴族の一人であるオジャロスにだけ厳しかったとはいえほぼ現状維持、「小貴族 対 平民」では腐敗にだけ厳しかったとはいえほぼ現状維持というわけで~す。
3-5.歴史的経緯のまとめ
「王家 対 大貴族」の利害対立の推移は比較的ゆるやかなものであり、エルガドーラ政権初期に王家の領土が少し大貴族たちに割譲され、アスバル時代初期にオジャロス大公領が王家に事実上併呑されたという程度で~す。領土内の王領の相対的な面積は、おそらく300年前の時点ぐらいにまで戻ったのではないでしょうか。
一方で「小貴族 対 平民」の利害対立については、「小貴族粛清 → その結果を維持 → 小貴族粛清 → その結果を維持」というサイクルでした。
よってこの300年間の抗争の結果は、小貴族の一人敗けで~す。
そういう弱り切った連中の既得権益を削るのは、若造の魔王でも簡単だったことでしょう。
前章では標的をしぼったことを評価しましたが、そのしぼられた標的の力が弱り切っていたこともまた、成功の第二の理由といえましょう。
4.外交
王権の強化において、外交は本来難しい問題で~す。
「外国にも王の強大な友人がいる」となると、クーデターはそれだけ抑止されま~す。せっかくクーデターに一時的に成功しても、王が亡命に成功すると強大な外国軍を率いて復権するかもしれませんからね。
フランス革命でも革命権力は王の亡命を非常に警戒しており、ヴァレンヌ逃亡事件がルイ16世の人気を一気に弱めました。そして1791年憲法の第3編第2章第1節第7条前段で、王国を去った王が立法府の招聘に背き続けると退位とみなされると定められました*4。
ではとにかく外国と友好を結べば王権は安泰なのかというと、そう単純でもありませ~ん。国家に強大な外敵がいないと臣下は「大嫌いな外国に立ち向かうため、好きでもない王にも滅私奉公しよう」という気分になりませ~ん。
しかし現在のアスバルは大魔王と二人の魔王という強大な外部勢力と仲がよく、それでいて各人の滅私奉公が必要な大魔瘴期が迫ってきているのですから、極めて理想的な状況にあるといえましょう。
これが成功の第三の原因で~す。
5.イーヴの置かれていた状況との比較
イーヴ改革はアスバル改革の成功原因との共通点がほぼありませんが、こうして比較すると、どこまでが本人の無能さによるもので、どこからが不可抗力だったのかがよくわかりま~す。
5-1.アスバルと違って敵を大貴族か小貴族のどちらかに絞らなかった件
王家と平民の実力の合計を過大評価したということで、責められても仕方ありませ~ん。
5-2.アスバルと違って敵が歴史的経緯で弱体化していなかった件
誰かが先鞭をつけなければ貴族は一向に弱体化しないわけですから、こういう僥倖がなかったことについては責めるべきではないでしょう。
5-3.アスバルのように他国と外交を結ぼうとして、国内で一層嫌われた件
拙速だったとはいえ方向性はそんなに間違っていなかったといえましょう。少なくとも「あれは所詮理想論だ」の一言では片づけられないと思いま~す。
(12月10日追記)
その後のサイレント修正にて、ゴレッポを罷免したのはイーヴではなくエルガドーラになったようで~す。
なのでエルガドーラも、実力のない小貴族を増やさないどころか少しずつ減らしていったというのが、現在の「正史」のようで~す。
詳細は本日の記事にて。