ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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被害者からも「大神官」呼ばわりされるハーゴンの前日譚は、実はもうナンバリング作品で描かれていたのかもしれませ~ん。

1.被害者からも「大神官」呼ばわりされるハーゴンの立場

 『ドラゴンクエストII』のハーゴンは、滅ぼした王国の残党にも「「大神官」ハーゴン」と呼ばれていました。

 単なる新興のカルト集団が武装蜂起しただけならば、被害者にはこうは呼ばれませ~ん。長年社会に根差し社会から一目置かれてきた教団が武力を用いたときにこそ、被害者からも正式な称号つきで総大将の名前が呼ばれるので~す。

 ジパングでも一般に、オウム真理教関連事件の再現ドラマで「地下鉄サリン事件以後に行方をくらました神聖法皇麻原彰晃を、何としても我々の手で逮捕するのだ」というセリフが出てこないでしょうけど、時代劇で「天台座主尊雲法親王は、我ら六波羅に対して徹底抗戦の構えを見せおった」というセリフが登場しても違和感がありませ~ん。

 きっとハーゴンも、『ドラゴンクエストV』に出てきた新興宗教の教祖のイブールなんかとは違って、挙兵の直前まで世界中から大神官として尊敬されていたのでしょう。そして挙兵後も、「大神官ハーゴンの主張に一理あり!」と唱える者たちが世界中に散らばっていたのでしょう。

 この立場をしっかり把握しておきましょう。

2.そのハーゴンの前日譚のリメイク

 星月夜は『ドラゴンクエストVIII』とは、そういうハーゴンの立場に大きな影響を受けて作られた物語であると考えておりま~す。

 まず物語が「暗黒神のチカラを得た男が、一国を滅ぼし、姫を動物に変えた」ところから始まるという時点で、「今作は主に『II』のセルフオマージュ路線でいきます」というスタッフからの強烈なメッセージが感じ取れま~す。

 その後も「暗黒神のチカラを得た人物は、一体化が進行すると皮膚が青くなり、さらに進行すると形状も悪魔的になっていく」という設定が明かされていきま~す。これにより、元は人間だった可能性が高いのに破壊神シドーの力を得てからは青い皮膚と異形化した耳らしきものを持った大神官ハーゴンのことが、古参ドラクエファンには想起される仕組みになっていま~す。

 やがて物語の中で暗黒神のチカラを継承したマルチェロ法皇に就任しますが、この「法皇」は英語版『VIII』では"Pope"ではなく"Lord High Priest"と訳されていま~す。

 "Lord High Priest"はもう一度和訳すると「大神官」になりかねないような称号で~す。最近の英語版『II』でも"self-styled"(自称)という限定つきですが被害兵士がハーゴン"high Priest"呼ばわりしているようで~す。

 このマルチェロの台頭の源泉は宗教団体としては非主流派である「聖堂騎士団」の私兵化でしたが、ハーゴンにも教団全体よりもハーゴン個人に忠誠を尽くしていそうな名称の「ハーゴンきし」という集団がいました。

3.マルチェロの一時的優勢ルートこそ『II』

 ここで仮に、マルチェロ法皇就任の儀式が主人公たちに邪魔されず、マルチェロの演説通りに教会の主流派が世界中の王制を廃止するための戦いを開始したとしましょう。

 あれほど世界中に根をはった組織の行動ですし、各王国の王権・主権も弱そうな中世的な世界観の世界ですから、一国が彼を一賊徒として追討するのは不可能で~す。『II』のローレシア王やサマルトリア王がそうであったように、せいぜい武勇に優れた血筋の人材にマルチェロ暗殺を命じるのが限界で~す。

 各地の宗教家・遠縁の王族・貴族・大商人の中にも、公然とマルチェロ側についたり、あるいは選挙王制への移行などの教会への妥協案を探る者が多かったことでしょう。

 だから各王国では自国内の"Lord High Priest"派の末端の神官については「地獄の使い」だの「悪魔神官」だのと呼んで投獄するかもしれませんが、マルチェロについては"Lord High Priest"呼ばわりを続けざるを得ないと思いま~す。

 このルートでの『VIII』世界の状態は、列強がハーゴンの脅威に脅えつつも彼を「大神官」と呼ばざるを得なかった『II』世界に酷似していま~す。

 すなわち「『II』とはマルチェロ法皇就任後に列強に対して一時的に優勢になった場合のような世界であり、『VIII』の終盤とはハーゴンが挙兵直後に敗れてすぐにシドーが出てきた場合のような世界である」と評価できま~す。

 こういう『II』世界と『VIII』世界の勢力関係の類似性に思いを馳せると、ハーゴンの前日譚や一時的に成功していた場合のマルチェロの後日談についての妄想が、一層はかどると思いま~す。

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余談.マルチェロのもう一人のモデル

 "Lord High Priest"で思いだしたのですが、リメイク版『IV』のエビルプリーストもまた、ハーゴンと並ぶマルチェロのもう一人のモデルだと思いま~す。

 『ドラゴンクエストIV』の中盤までは、地獄の帝王エスタークこそがラスボスという雰囲気があり、それより弱いデスピサロはあくまでエスターク軍の序列二位ぐらいに就任することを目指している人物として描かれていました。エビルプリーストはそのデスピサロの部下だったので、よほど出世しても本来なら第三位が上限の存在でした。

 旧版の『IV』ではエビルプリーストは最後までそういうキャラであり、そのイメージは『ダイの大冒険』の妖魔司教ザボエラの末路のほうに大きな影響を与えたと思われま~す。

 ところがリメイク版『VI』では、エスタークが死にその後継者を目指したデスピサロ地の底に潜ると、エビルプリーストは秘密の計画を発動させてデスパレスを乗っ取り、自分を魔族の筆頭にまでしてしまいました。

 リメイク版エビルプリーストのこの生き様は、悪の宗教家マルチェロの設定に、大きな影響を与えたと思いま~す。マルチェロはゲーム開始時の法皇の後継者程度の地位を目指していたニノ大司教の下で順調に教団第三位の実力者にまで昇進し、最後にニノを地の底に送って自分が法皇に就任しました。