0.はじめに
4.0メインストーリーで登場したエテーネ王国については、文学方面からの影響の中ではザミャーチンの『われら』こそが最強であるというのが、過去記事でも語った星月夜の立場で~す。
しかし4.0に限定せず「4thディスク全体への影響」となると、文学方面においてはスウィフトの『ガリヴァー旅行記』(以下、『旅行記』と表記)こそが最強であると考えていま~す。
『旅行記』は過去にもモンスターの名称「リリパット」などを通じて『ドラゴンクエスト』シリーズに多少の影響を与えてきましたが、『ドラゴンクエストX』の4thディスクへの影響の大きさはそういったものとは桁違いであり、原作者として「堀井雄二」と「スウィフト」とを併記してもいいぐらいだとすら思っていま~す。
本稿ではこの影響関係を整理しました。
1.エテーネ王宮
4.0メインストーリーで登場したエテーネ王宮は、『旅行記』第3篇のラピュタの影響が強いで~す。
王家が空から地上を支配しているという設定は直接の影響であり、下部の黒い半球体内部のデザインは宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』を介在した間接的な影響であるといえま~す。
ここまでは多くの人が気づいたことだと思うのですが、ここで考察をやめてしまうのは以下で見るように非常にもったいないことなので~す。
2.巨大な偽メレアーデ
4.0メインストーリーのイル・ラビリンスでは、巨大な偽メレアーデとチェスの試合をすることになりま~す。
ここで『旅行記』の影響に気づいていないと、脈絡もなく敵が巨大化したように思えてしまい、「シュールだ!」という感想しかわきませ~ん。
でも『旅行記』第2篇で、ガリヴァーが巨人の住むブロブディンナグ国の王家に買われて巨人の王族から玩具として扱われた話の影響に気づけると、むしろ「原作に忠実だ!」という感想がわいてきま~す。
3.王立アルケミアや帝国技術庁の負の側面
4.0メインストーリーの王立アルケミアや4.3メインストーリーの帝国技術庁では、人々の役に立たない研究や危険な研究もされていました。
こうした科学の研究所の負の側面は、『旅行記』第3篇で出てきたラピュタの属領であるバルニバービ大陸の奇妙な研究所からの影響が強いといえま~す。
4.不死
4.1メインストーリーでは、1.2配信開始の魔法の迷宮のころから長く語られてきた不死の魔王ネロドスがついに登場しました。
それだけなら単なる伏線の回収ですが、ネロドスの部下たちも当時から不死だったことにされました。さらにネロドスの力を継承したネロスゴーグも不死であり、それを何とか工夫して倒すというのが4.1の最大のテーマでした。
なぜそこまで不死が強調されたかといえば、やはり『旅行記』第3篇の影響だと思いま~す。そこではラグナク国の「ストラルドブラグ」という不死の人間たちを通じて、「老い」や「死」について考察が深められていま~す。
5.ガリバーハンド
ガリバーハンドは2.0以来長らく秘宝の巨人の固有技でしたが、4.1で邪将トロルバッコスがこれを使いました。使われるとトロルバッコスがますます巨大に感じられるようになっていました。
技の名称の点でも、敵が巨人という点でも、これは『旅行記』第2篇の影響で~す。
現代の魔法の迷宮のトロルバッコスが使ってこない技であるので、原典への非常に強いオマージュが感じられま~す。
6.鬼人とドワーフの対比
4.2メインストーリーではオーガより闘争的で野蛮な「鬼人」が登場しました。
そして次の4.3メインストーリーまで話を進めると、文明的だからこそかえって鬼人以上の大虐殺を効率的に達成できたウルベア地下帝国が登場しました。
この意図的な対比により、「鬼人とドワーフとで、本当に危険な生物だったのは、果たしてどちらか?」と深く考えさせられる内容になっていま~す。
この対比も『旅行記』第4篇に出てきた類人獣「ヤフー」(「ヤーフ」とも)の影響だと思いま~す。そこでは「理性がないから害悪も個人単位であるヤフーと、多少は理性があるからこそ集団戦でもっと酷い犠牲を作り出すヨーロッパ人とで、本当に危険な生物なのは、果たしてどちらか?」が問われていました。
7.しゃべる馬のサンダー
4.2サブストーリーのクエスト「約束の獣」*1で、しゃべる馬のサンダーが登場しました。
『旅行記』の影響に気づいていないと、『III』に出てきた「しゃべる馬のエド」の単なるセルフオマージュに思えてしまいま~す。
でもこの時期にあえて馬をしゃべらせたのは、『旅行記』第4篇に出てきたしゃべる馬の「フウイヌム」(「フイーヌム」とも)たちへのオマージュであると星月夜は考えていま~す。
8.ウルベア大魔神
4.3メインストーリーの前日譚では、本来は和解できたかもしれない二つの強大な国の争いが語られました。その抗争では彗星の如く現れたグルヤンラシュが一方の国に肩入れし、巨人を模した大量破壊兵器のウルベア大魔神を使い決着をつけました。そして主人公がストーリーを進めると、最終的にはグルヤンラシュはウルタ皇女に粛清されそうになり、それをきっかけに故郷に半強制的に帰ることになりました。
これは『旅行記』第1篇をほぼそのままにしたような話の流れで~す。小人のリリパット国と小人のブレフスキュ国が些細な理由で対立をしていたところに、存在自体が大量破壊兵器となるガリヴァーが彗星の如く漂着し、巨人としての立場で一気に戦局を変えました。でも最後は皇帝に粛清されそうになり、イギリスに逃げ帰ることになりました。
この影響関係に気づければ、運営がガテリア皇国を滅ぼした大量破壊兵器を巨大でかつ人型にした理由も、1.0から伝説の魔物として語られてきたグルヤンラシュの正体をあえて人間族の漂着者にした理由も、一瞬で理解できま~す。
9.鬼人やドワーフの代替案たりうるか疑問のアルウェーン
本稿第6章で語ったように、4.2メインストーリーでは鬼人による個人単位の悪が描かれ、4.3メインストーリーではドワーフによる集団単位の悪が描かれました。
次に4.4メインストーリーで見せられたのは、一見理想郷であるアルウェーンで~す。無気力で落ち着いた人格になったプクリポたちが、完全に統制された社会で「幸福」に生きていました。一応平和ですが、異分子とみなされた一部のプクリポへの待遇は過酷なものでした。
これは本稿第7章で紹介した『旅行記』第4章のフウイヌムたちの社会からの影響が強いで~す。フウイヌムたちは平和的な生物であり争いはなく、その社会は徹底的に人口が調節され格差も飢えもない状態でした。ガリヴァーはこれを理想化しますが、フウイヌムたちはガリヴァーを自分たちの統制社会に馴染めない異分子とみなして最後は追放してしまいま~す。
フウイヌムの理想的な統制社会は『旅行記』の200年以上前に書かれた『ユートピア』に酷似していますが、『ユートピア』では単なる美談として描かれていた不穏分子の排除について、『旅行記』第4章では主人公自身もまたその被害者としました。これによって『旅行記』第4章はユートピア文学の性質とディストピア文学の先駆としての性質とを同時に持つことになりました。
このディストピア文学の系譜の中で、前述の『われら』も書かれたので~す。
さらに「一方に徹底的な管理による平穏という地獄があり、もう一方に徹底的な弱肉強食による自由という地獄がある。その中間を貫くのも、作品によっては真エンディングとは言い難い」というメッセージ性が強い『真・女神転生』シリーズは、完全にこの問題意識の中で作られているといえま~す。
10.久遠の神殿のボスラッシュ
4.5の久遠の神殿では、過去の歴史で活躍した偉人たちがパラレルワールドから召喚され、ボスラッシュとなりま~す。
これもまた『旅行記』第3篇のグラブダブドリッブ島の影響が感じられま~す。ここでは歴史上の有名人の亡霊たちが、次々に召喚されま~す。
11.キュロノスの動機
『旅行記』は全体を通じて様々な角度から人間を風刺していま~す。だから読むと「時代や地域を問わず、人間とは何と下らない生物なのか!」という気分になりがちで~す。
これこそ、キュロノスの全生物抹殺計画の動機そのもので~す。
(4月23日追記)
第5章は本日加筆したもので~す。