1.「毒」を印象づける色の地域差の確認
よく比較される傾向ですが、「毒」を印象づける色は地域によって異なりま~す。
大雑把にいうと、日本では「紫」であるのに対し、欧米では「緑」で~す。
2.初代『ドラゴンクエスト』の毒は完全に欧米準拠
RPGという文化がアメリカから入ってきたこともあり、また世界観が中世ヨーロッパに近かったこともあり、初代『ドラゴンクエスト』の毒は完全に欧米準拠の緑でした。
当時は「毒」といえばマップ上の毒の沼地のみであり、それは濃い緑色に塗られていました。
同じマップ上にある草原は黄緑で森は緑なので、毒の沼地を濃い緑にするというのは識別の観点からは愚行で~す。
でも当時の裾野が狭く欧米文化を継受したばかりのゲーム業界では、おそらくこれこそが「プレイヤーの多数派にわかりやすい」表現だったのでしょう。
3.現地化の萌芽と大敵が同時に登場した『II』
日本のテレビゲーム史が徐々に長くなり、かつ欧米慣れしていない一般層までもがテレビゲームを楽しむようになると、毒の印象も現地化が必要になってきま~す。
当時のスタッフがその課題にどの程度自覚的であったかは不明ですが、『II』では「毒」をその名に冠する唯一の敵であるポイズンキッスの色が水色でした。これこそが毒の印象の現地化の記念すべき第一歩であったといえま~す。
その一方で、『II』で最初に登場する毒モンスターであるバブルスライムは、鮮やかな黄緑色でした。これが後々に毒の印象の現地化の最大の障壁となりま~す。
4.現地化が進むも大敵も手強かった『III』~『IX』期
その後の『III』~『IX』期において毒の印象の現地化は徐々に進み、リメイク版『I・II』からはついに毒の沼地が紫色になりました。
一方でバブルスライムの抵抗も手強かったので~す。
ほぼ単色なスライム系同士の識別において色こそが重要な意味を持っていた上に、シャドーなどとは違ってバブルスライムの知名度も抜群であったため、あとから色を変えるわけにもいかなかったのでしょう。
この時期にバブルスライムの影響力を薄めるためになされたことが二つありました。
第一は、バブルスライムの毒より怖い「猛毒」を登場させたことで~す。これによりバブルスライムは「軽いほうの毒を持つモンスターの一種」というイメージになりました。
第二は、黄緑色のスライムなのに毒を持っていないスライムつむりやスライムナイトらを登場させたことで~す。スライム系の印象が強烈だというのなら、同じスライム系で中和すればいいというわけで~す。
5.ついにバブルスライムの影響力を克服した『X』ver.3.3
そして本作『X』の出番で~す。
バージョン3.3からは、「毒」と深く結びついた闇の領界が登場しました。「毒」と聞けば多くのプレイヤーが黒紫色の闇の領界を想起するようになりました。
そして『キャラバンハート』などで既出だった紫色のスライム系モンスターであるダークキングに、「そういう毒の世界である闇の領界の毒が、さらに濃縮されて生まれた、究極の毒スライム」という新しい意味を付加させてから、知名度抜群のエンドコンテンツのボスとして登場させました。
これにより多くのプレイヤーが「毒のスライム」といえば典型例として紫色のダークキングを想起するようになり、緑色のバブルスライムといえば序盤の弱弱しい毒を持っていた敵のうちの一種類ということになりました。
『ドラゴンクエスト』シリーズにおける毒を印象づける色の現地化は、これをもって一段落を迎えたといえましょう。