ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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夕月夜の読書 笹沢佐保著『木枯し紋次郎』シリーズ その4

 今までの底本は光文社文庫でしたが、ここからは原則として新潮社です。諸般の都合により「悪女を斬るとき」だけ単行本であり、他は新潮社文庫です。

※16.『帰って来た木枯し紋次郎

16-1.「生きている幽霊」 嘉永2年陰暦11月10日ごろ~同3年陰暦4月 上州板鼻宿

 第15巻の「白刃が消した涙文字」から年齢設定がまた若い方向に変更されたらしく、天保10年に紋次郎は28歳だったことにされたようです。

 翌年になると同時に登場人物が一斉に加齢するという設定が27~28ページに書かれていたので、月日は陰暦であり、かつ年齢は数え歳ということになります。

 38~39歳の紋次郎は大いに弱体化しており、そのためもあってこの話からしばらくは板鼻宿に定住します。

16-2.「泣き笑い飯盛り女」 嘉永3年陰暦6月 上州板鼻宿

 紋次郎に杣人(木こり)の経験があるという設定が明かされます。巻末の「解説」によると作者自身が脚本を書いた映画版にそのような設定があったらしく、これは小説版にも「正史」として取り入れるための記述だったと考えられます。

 今回は若き日の紋次郎ですら勝てなかったであろう二人の浪人が敵だったのですが、中年版ならではの「二桃殺三士」の知恵で逆に無傷で完勝していました。こういうのも面白いですね。

16-3.「諸行無常の響き」 嘉永3年 上州板鼻宿

 没落した有力親分の弱さが描かれることで、紋次郎の未来の暗雲も予見させられました。

16-4.「舞い戻った疫病神」 嘉永3年 上州板鼻宿

 紋次郎がいざとなると迫害される立場であることを再認識させられる話でした。

16-5.「新たなる旅立ち」 嘉永3年初冬 上州板鼻宿

 いわゆる「堅気」の定住者たちにとことん幻滅すると同時に、渡世人の義理堅さを再認識させられた紋次郎は、また放浪の旅に出ました。

※17.『帰って来た紋次郎 同じく人殺し』

17-1.「仏前の握り飯」 ?年陰暦11月半ば 野州犬伏

 今回は「オチ」のようなものがなく、善玉として登場したキャラは全員最後まで善玉でした。

17-2.「同じく人殺し」 ?年早春 野州足尾

 連続で「オチ」なし。そういう作風に変えたのかもしれません。

17-3.「割れた鬼の面」 ?年陰暦3月半ば 甲州台ヶ原宿

 やはり意外な犯人のようなキャラは出てこず、悪役は最後まで悪役でした。

17-4.「反魂丹の受難」 ?年陰暦4月半ば 信州妻籠

 久々に意外な悪役が登場しましたが、そういうキャラが紋次郎とあえて関わりを持とうとした理由が弱かったのが残念でした。

17-5.「何れが欺く者」 ?年陰暦5月末 信州木曾山中

 ようやくスタンダードな紋次郎に戻った雰囲気でした。「板鼻ボケ」が治ったということでしょうか。

※18.『帰って来た紋次郎 かどわかし』

18-1.「峠だけでみた男」 ?年陰暦11月初め 信州笠取峠

 『帰って来た』シリーズになって以来、紋次郎の弱体化エピソードが多かったのですが、久々に強くて優秀な紋次郎が描かれました。

18-2.「十五年の沈黙」 ?年陰暦7月半ば 房州久留里

 今までは「実はこのキャラには意外な裏があった」というオチのある作品とオチのまったくない作品とが並んできましたが、今回は「このキャラは意外な裏があるのかもしれない」と匂わせるだけで終わるという非常に斬新な回でした。

 また不可抗力に近かったとはいえ、普段は義理堅い紋次郎が預かり金に手を付ける場面がありました。この点でも異色作でした。

18-3.「かどわかし」 ?年陰暦6月半ばすぎ~同月末 野州宇都宮

 第一章の内容がいつ第二章以降に関係してくるのかと思っているうちに、物語は終わっていました。どうやら第一章の事件は「かどわかし」の一般論を語るためのさわりだったようです。

18-4.「三人と一匹の別れ」 ?年陰暦3月半ば 上州富岡

 堅気も犯罪組織も主要登場人物の大半が死に、オチもないという、かなり悲しい話。

18-5.「観世音菩薩を射る」 ?年陰暦5月初旬 武州深谷

 今までありそうで無かった、カルト宗教の話。

18-6.「折り鶴に甘い露を」 嘉永4?年陰暦10月 野州今市宿

 16巻の「新たなる旅立ち」に登場した某恩人の遺言を果たす話。

 紋次郎の性格上、1年以上無駄に時間をかけた可能性は低いので、おそらく嘉永4年です。

※19.『帰って来た紋次郎 さらば手毬唄』

19-1.「まぼろしの慕情」 ?年陰暦2月初旬 信州千曲川野沢原橋

 12年前に紋次郎に救われた女性が、また似たようなシチュエーションで娘とともに救われます。

 「親が旧シリーズからのファンで、子が『帰って来た紋次郎』シリーズからのファン」という親子は日本中にいたと思いますが、それを象徴した登場人物なのかもしれません。

19-2.「顔役の養女」 嘉永元または2年陰暦3月末 遠州岩井の里

 10歳で三日月村を飛び出した紋次郎が27~28年ぶりに、兄たちのうちで唯一生き残っていた「弁蔵」と再会します。

 今回の時期の設定は直接には陰暦3月末としか書かれていませんが、「生きている幽霊」での年齢設定が生きているのならば、嘉永元年か嘉永2年ということになります。

19-3.「死出の山越え」 ?年陰暦6月初旬 濃州十三峠

 紋次郎が珍しく怪我人の世話を自発的にしたので読者としては驚いたのですが、すぐに別人が助力を請うてきたので、結局はお決まりの態度を示すことになりました。

19-4.「名月の別れ道」 ?年陰暦8月15日 信州中山峠

 今までも数多くの偽の紋次郎が登場してきましたが、今回は新しいタイプの偽者でした。

19-5.「さらば手毬唄」 ?年陰暦9月半ば 信州金沢

 終盤までずっと嘘を吐いていたキャラがいるという意味では、恒例のパターンです。

 でもその嘘の後味がよかったという意味で、例外的なケースでした。

19-6.「追われる七人」 ?年陰暦10月半ば 野州と奥州の国境

 「変装をした殺人犯人捜し」。かなり正統派のミステリー。

※20.『帰って来た紋次郎 悪女を斬るとき』

20-1.「やってくんねえ」 ?年陰暦10月末 上州大胡

 ほぼ完全無欠だからこそ、紋次郎と違って宿泊先での作法をきっちり守って毒キノコを食べてしまうという、かなり皮肉な末路をたどる渡世人が登場していました。

20-2.「振られて帰る果報者」 ?年陰暦11月中旬 駿州宇津谷峠

 前回に続き、立派な人格だからこそ死んでしまうキャラが二人も登場していました。

20-3.「望郷二十三年」 嘉永3年6月以降 豆州河津村

 徳川吉宗の百回忌の直後ぐらいの話だったので、久々に年代を特定できました。

20-4.「乱れ雪の宿」 ?年陰暦1月半ば 甲州白野宿

 またもやお人好しの渡世人が、その性格が災いして死にました。この巻はこの路線が重視されているようです。

20-5.「悪女を斬るとき」 陰暦2月下旬 信州沓掛

 またもやお人好しの渡世人が酷い目に遭っていました。

 そしてシリーズ史上初の「女親分」が誕生しかけるところでした。

20-6.「雪の中の大根」 陰暦11月初旬 上州万場

 親分が死んだ解散直前の一家の、良く言えば後継者ともいうべき未亡人が、ある策謀をめぐらせます。

 善悪こそ逆転していますが、「女親分的存在の謀略」という意味では、前回のセルフオマージュです。

 この巻では「お人好しの死」や「女親分の謀略」というテーマが被っているので、「ある話で使い切れなかったアイディアを、直後の別の話で流用した」という疑いが濃厚です。

※21.『帰って来た紋次郎 最後の峠越え』

21-1.「最後の峠越え」 嘉永年間菜の花の季節 三国峠越え

 特に大事件もなく、人々の交流が描かれました。

 最終巻の表題作で「最後」とまでついているので、これが事実上の最終回だったのかもしれません。

21-2.「夕映えの嫁入り」 ?年陰暦9月半ば 伊賀大山田

 上方に来ることが少ない紋次郎が伊勢に来ただけでも驚いたのですが、そこからさらに伊賀にまで行くことになりました。

21-3.「悪党のいない道」 ?年陰暦10月半ば 日光街道

 将軍の威光で悪党が近寄りにくい日光街道。普段は公儀に苦しめられる紋次郎ですが、今回は珍しくその威光に多少助けられました。

21-4.「死は遠い空の雲」 ?年麦蒔きの季節 信州鳥居峠

 今回はキャラの濃い二人の渡世人の戦いがメインであり、紋次郎は完全に脇役でした。

 しかも関わりのないはずの戦いの結果を見届けるために、行き止まりになっているとわかっている峠をわざわざ登るという野次馬根性まで発揮していて、実に紋次郎らしくなかったです。

21-5.「梅の花を好んだ男」 ?年陰暦2月半ば 甲州韮崎

 養親を尊重する養子と、実の親と殺し合った子との、対比が描かれていました。

21-6.「霧の中の白い顔」 ?年陰暦9月6~9日 常陸取手

 一応これが最終話ではあるものの、著者が生きていれば続きが普通に書かれたような、かなりスタンダードな話でした。