０．はじめに
5thディスクの内容に影響を与えたと思われる文学として、当ブログでは『カラマーゾフの兄弟』と『死霊』とを紹介してきました*1*2。
しかしトーマス・マンの著作『魔の山』の内容とその後日談もまた、5thディスクの内容に大きな影響を与えたのではないかと、最近星月夜は考えるようになりました。
本稿第１章では『魔の山』をめぐる情報を紹介し、第２・３章でその内容の5thディスク前後への影響を吟味していきま～す。
１．『魔の山』と後日談の紹介
１－１．内容
『魔の山』は1924年のドイツでトーマス・マンが発表した作品で～す。
時代設定は第一次世界大戦前夜で～す。
主な舞台は、日本語で「山上宮殿」を意味する「ベルクホーフ」と呼ばれる療養院で～す。
主人公は写実的な絵が上手という以外は平凡なハンス・カストルプ。従兄弟の見舞いに魔の山に来たのですが、そこで持病を発見され、自らも魔の山の住人の一人となりま～す。
魔の山では個性豊かな登場人物たちが多様な思想を語りまくりま～す。そしてその百家争鳴にハンスが翻弄されていきま～す。これは第一次世界大戦後に民主化したドイツの状況を表現しているという分析もありま～す。
ハンスは終盤で第一次世界大戦に招集され、その死が暗示されて終わりま～す。
なお『魔の山』では「7」という数字が非常に頻繁に登場して強調されていま～す。
１－２．悲劇の後日談
本作の刊行後、ドイツの「魔の山」的な百家争鳴は徐々に弱体化し、自作自演の議事堂放火を利用したナチス政権の発足により民主制も終焉を迎えま～す。
これによりドイツの新しい独裁者となったヒトラーは、ドイツにとっては本来は余所者であったオーストリア出身の写実的な絵描きであり、初期のナチス党内では序列第7位にすぎない人物でしたが、めきめきと頭角を現して独裁者にまで上りつめたので～す。皮肉にも彼の別荘の名前もまた「ベルクホーフ」でした。
トーマス・マンはこのために亡命を余儀なくされま～す。
ヒトラーの率いたナチス政権は、髑髏の紋章などで有名な独特のデザインの親衛隊制服や、人体実験や、大量虐殺や、前衛芸術の弾圧や、ムッソリーニを真似た右手を高々と挙げる敬礼などで、今でも有名で～す。
ナチス政権の末期には幹部の戦死・裏切り・逃亡・粛清が相次いだため、ヒトラーの後継者となったのは政治色の薄い軍人のデーニッツでした。
２．5thディスクと『魔の山』の内容との類似性
２－１．主人公は平凡
デフォルト主人公のエックス君は、「特徴の無いのが特徴」というぐらい平凡な存在で～す。
２－２．冒頭で「魔」の世界の一員となる
エックス君は5thディスクの冒頭で、魔族になりました。
２－３．療養を兼ねて「魔の山」へ
エックス君は魔族風の顔を治す目的を兼ねて、デモンマウンテンに登りました。デモンマウンテンは直訳すると「魔の山」です。
２－４．「魔の山」には肉親
デモンマウンテンで待っていたのは、兄弟姉妹でした。
２－５．民主化後の百家争鳴
マデサゴーラという強大な支配者が急にいなくなったあとの後継者争いでは、魔界の有力者たちによる「大魔瘴期をどう乗り切るべきか」をめぐっての議論も白熱しました。
２－６．「大戦」勃発
デモンマウンテンでの議論が尽きた後で、「魔界大戦」が勃発しました。
5.1当時は「「大戦」と呼ぶほどの規模・期間の戦争ではなかった」という批判が多くのプレイヤーから寄せられました。たしかに不自然な命名といえま～す。そして不自然だからこそ、『魔の山』の影響による命名である可能性が高いので～す。
２－７．混迷の原点は「7」
こういう混乱が続くのも、元をただせば「かつて7人の賢者が、ジャゴヌバを倒すのに失敗したから」であり、さらには「その後互いに7柱の有力な神を率いたルティアナとジャゴヌバとの戦いが、引き分けに終わったから」でした。
２－８．主人公は写実的な絵と相性が良い
エックス君は1stディスクのころから写真家でもあり、4thディスクの遊び人クエストでは写真家としてプロデビューしていま～す。
３．5thディスク前後と『魔の山』の後日談との類似性
３－１．大戦後、新たな独裁者の誕生
エックス君は魔界大戦の後、大魔王となりました。
３－２．その独裁者は、余所者
エックス君は本来の所属は、魔界ではなくアストルティア。しかも5000年前のアストルティア。究極に余所者で～す。
３－３．その独裁者は、前衛的な芸術家を弾圧
「絵描きの独裁者」属性を先代のマデサゴーラに随分奪われたかのように思えたエックス君ですが、のちにマデサゴーラの作品には前衛的な抽象画が多かったことが明らかになりました。ヒトラーはこういう前衛的な芸術が大嫌いでした。
そういう前衛的な芸術家を殺し、さらにはその未完の遺作を孫を煽って稚拙な絵に修正したのが、エックス君でした。
３－４．その独裁者は、写実的な芸術家
一方でエックス君は、２－８で書いた通り、写真家で～す。
しかも風景画を好む絵描きのイルーシャと手を組んでの即位でしたし、そのイルーシャからやがて「スケッチ」のしぐさをもらえました。
３－５．その独裁者が所属する一党の悪行の内容
エックス君の所属するエテーネ王家といえば、人体実験に励んだのちに自作自演で王宮を隔離して自己クーデターをしたドミネウス伯父さんや、自作自演で皇帝を暗殺して戦争を起こして大量虐殺をした従兄弟のクオードも所属しており、悪名高いで～す。
ついでに言うと、義理の兄弟姉妹も大魔瘴期を早めて毒ガスを散布しまくりました。
３－６．その一党のイデオロギーの押し付け役の服装
エテーネ王家のイデオロギーの国民への押し付け役が指針監督官のベルマなのですが、その制服のデザインはナチスの親衛隊の制服の影響を受けていると言われていま～す。
３－７．その一党の退場後はイデオロギー色の薄い軍人政権が発足
エテーネ王家がエテーネ王国の支配者としての座を失ったあとは、イデオロギー色の薄い軍人のセオドルトを首班とする臨時政権が発足しました。
その軍司令部には、明らかにデーニッツの影響を受けたと思われる「デニッツ」もいました。
３－８．髑髏関連の職業が三連続で登場
5thディスクの期間中やその直後には、ガテリアの故地で髑髏の軍団を結成しようと思えば結成できるデスマスター、職業専用の体上装備に大きな髑髏がついている魔剣士、職業専用の頭装備に髑髏マークのある海賊が、相次いで実装されました。
３－９．海賊の旧版の立ちかた
海賊の立ちかたは現在では修正されていますが、実装当時はナチス式敬礼に似ていると言われました。
夕月夜「またもや課題図書が増えてしまいましたわ～」
