ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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『大審問官』と「大審門」の関係 そして明かされるモーモン王国と「荒野」の真実

0.はじめに

 ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の第五篇第五章では、登場人物が書いた作中作品として『大審問官』という物語が語られま~す。

 本稿ではこの作品が「大審門」に与えた影響をまとめました。

 あくまで5.1時点での情報からの類推であり、第3章以降の仮説は今後覆る可能性もあることを先に明言しておきま~す。

 だから、やがて新情報を加味した続編記事を書く可能性が大で~す。

1.『大審問官』内容紹介

 『大審問官』では、再来を予言したのちに千五百年以上地上から消えていたキリストが、異端審問が盛んな時代のスペインに突然再来しま~す。

 でもすでに「キリスト教」はカトリック教会に完全に握られており、異端審問業界の大物である「大審問官」にキリストは捕縛され、投獄されてしまいま~す。

 大審問官は牢内のキリストに以下のような内容を語りま~す。

 「キリストは荒野での悪魔の三大誘惑であるパン・奇跡・権力を退け、自由尊重のキリスト教を作った。自分も若いころは荒野での飢えた自由に挑戦した。でもそんな高邁な信仰に耐えられるのは、人よりも神に近いような一握りのエリートだけであり、それ以外の人類の多数派は自由よりもパン・奇跡・権力に支配されたがる。そしてそういう一般人を幸福にできるのは、キリストではなく、悪魔と手を組んでキリスト教を修正したカトリック教会のほうなのだ」と。

 なお、キリストが五つのパンと二匹の魚で成人男性だけでも五千名である群衆の腹を満たした記述が四つの福音書のすべてにあり、さらには『マタイ福音書』と『マルコ福音書』では類似の行為をもう一度やっているほどなので、『大審問官』の聖書解釈には星月夜は個人的に反対で~す。ついでにいうと、悪魔が提案した「空中浮遊で墜落死を回避」の奇跡は拒否しても「水上歩行で溺死を回避」の奇跡は自発的にやっていま~す。

 なので本稿は『大審問官』の内容を称揚してそのカトリック批判の尻馬に乗るといったものではなく、あくまで『大審問官』の『ドラゴンクエストX』への影響を論じるだけのもので~す。

2.『大審問官』の「大審門」への影響の証明

 この『大審問官』は5.0で登場した「大審門」に影響を与えたと思われま~す。

 まず直感ですぐわかるように、発音が似ていますね。

 そして漢字表記まで似ていま~す。

 しかも「大審門」という単語は創作的で不自然なものなので、まず間違いなく『大審問官』の影響の下で考案されたことでしょう。前にも書きましたが*1、「自然なもの」は先行する何かと似ていても偶然の一致である可能性が高く、「不自然なもの」は先行する何かと少し似ている程度でもそれを意識して無理に作られたものである可能性が高いので~す。

 また「『罪と罰』で読み解くリベリオ ―― 強力な暗号「そうニャ」の秘密。そして思想的元凶は……」という記事で証明したとおり、このゲームの運営がドストエフスキーの影響を受けていることはほぼ確実で~す。

 以上の理由から少なくとも名称に影響を与えたことは確実でしょう。こればっかりは、今後覆る可能性はほぼゼロで~す。

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3.仮に「魔仙卿 ≒ 大審問官」としてみる

 さて、「大審門」が『大審問官』から名称以外にも内容的な影響があったと仮定してみましょう。

 この場合、大審問官やその黒幕であるローマ教皇に当たるのは、魔仙卿で~す。

 そして教皇から戴冠される皇帝に当たるのが大魔王であり、教皇が崇めるキリストに当たるのがジャゴヌバで~す。

 魔仙卿は名目上はジャゴヌバの権威を背景にしていますが、ジャゴヌバとあまりまともに意思疎通をしている形跡はありませ~ん。そしてジャゴヌバの手の動きを自己流に解釈して、その自説をあたかもジャゴヌバの真意であるかのように魔王たちに語っていました。

 そして本人なりの正義感で、弱者を保護したり、強者の持つ危険な武器を破壊させたりしてきたわけで~す。

 こういう権力者にとって一番困るのは、万全な状態の神本人の再登場で~す。

 やがてそういう形で魔仙卿とジャゴヌバの間で利害の対立が生じる可能性を指摘しておきま~す。

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4.荒野での三つの試みと悪魔のモーモン王国

 第一章で書いたことの再確認になりますが、『大審問官』では、キリストと違ってカトリックはパン・奇跡・権力を使って、自由に耐えられない弱者に不自由な幸福を与えたとされていま~す。

 さて、魔仙卿は魔界全体に対してもこれら三つの試みに似た介入を多少は行っていますが、中でも重点的に介入しているのがジャディンの園で~す。自由で弱肉強食な通常の魔界で生きていくことを諦めた弱小モンスターをここに集めて保護し、モモリオン王という権力者を据えて、彼らにそれなりの幸せを与えていま~す。

 そして、そうした保護を拒否したモンスターの代表例が「モーモン・強」で~す。まめちしきには「理想郷モーモン王国に背を向け 荒野で生きていくことを選んだ ハードボイルドなモーモン。 強くなければ生きていけない」とありま~す。

 まず、この文章に出てくるモーモン王国」についてですが、メインストーリーでモモリオン王に最初に会ったときに「ここは 魔界の桃源郷 ジャディンの園。 ……モーモン王国と 呼ぶ者もおるがな」と語られるので、ジャディンの園と同一視していいでしょう。

 次に「荒野」について考えてみま~す。実際のモーモン・強の「主な生息地」は、現時点では緑豊かなベルヴァインの森西のみであり、そこは荒野ではありませ~ん。つまりここでいう「荒野」とは、現実の荒野ではなく、何らかの比喩なので~す。

 そしてこれを『大審問官』で話題に出た『新約聖書』の「荒野」(ἔρημος)の比喩であると解した場合、モーモン・強のまめちしきは「魔仙卿が弱者のために創った不自由なモーモン王国での奴隷的な幸福を拒否し、真正キリスト教徒のような荒野での自由を選んだ」と読み解くことができ、ピタリとつじつまが合うわけで~す。

 これ以外の理論でモーモン・強のまめちしきと生息地のズレをより整合的に説明することは、現時点ではほぼ不可能なのではないかと自負しておりま~す。

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5.では『カラマーゾフの兄弟』自体からの影響は?

 では『大審問官』を包含する『カラマーゾフの兄弟』自体からの影響はどの程度あるのかというと、現時点では「ほぼない」といわざるをえませ~ん。

 以下のように多少影響があるような雰囲気の設定もありますが、原典と一致しない面が多すぎで~す。だから似ていても偶然の可能性が高いで~す。仮に偶然ではなかったとしても、せいぜいアイディア程度の影響しかないということになりま~す。

 今後に期待という程度ですね~。

5-1.先代の後継者候補は「三人」とも「四人」とも言える。

 物語冒頭のカラマーゾフ家当主フョードルには三人の正式な息子がいました。そして料理人も実は落胤であるという噂がありました。やがてこの料理人が先代当主を殺害したと自白しますが、裁判では信じてもらえず、読書人の中にも真犯人は別にいると考える者が多いで~す。

 そして大魔王マデサゴーラの有力な後継者と目されていたのは三魔王でしたが、勇者の盟友もまた後継者候補と認定されました。この盟友は先代大魔王の殺害者の一人ともいえますが、真の責任者は勇者本人で~す*2

 こう書くと何となく似ていますが、ここに挙げた登場人物たちの性格がほぼ不一致なんですよ~。特にフョードルは典型的な俗物であり、芸術家という雰囲気はありませ~ん。

5-2.死んだとたんに評価が下がる人がいる。

 ゾシマ長老は聖人として崇拝されていましたが、死んだ直後の死臭が強烈だったため、一気に評価が下がりました。

 魔界ではイーヴ王やマデサゴーラが死後に評価や影響力が下がったようで~す。

 でも、それは魔界における死者に対する全般的傾向でもあり、またゾシマ長老の死ほど極端ではありませんでした。

5-3.社会問題の代表例として児童虐待が語られる。

 『カラマーゾフ家の兄弟』では社会問題として児童虐待が繰り返し語られま~す。

 ヴァレリアもかつてはその被害者であったため、児童の問題にはそれなりに気を配っていたようで~す。

 でも、魔界の最大の問題は大魔瘴期で~す。

5-4.ロシア人登場

 『大審問官』はスペインが舞台でしたが、『カラマーゾフの兄弟』はロシアが舞台であり、登場人物の大半はロシア人で~す。

 そして「イルーシャ」はロシア系の名前で~す。

 これなんかもう、「だからどうした?」レベルの一致ですね。

(2021年6月17日追記)

 夕月夜が『カラマーゾフの兄弟』を読破して人物の動向メモを作ったようで~す。詳細はこのリンク先にて。

(2023年9月19日追記)

 第1章で予告した、第3章以下の見解に微修正を加えた続編の下書きが終わりました。

 近日中に発表し、リンクを貼る予定で~す。