ほしづくよのドラゴンクエストX日記

画像は原則として株式会社スクウェア・エニックスさんにも著作権があるので転載しないで下さ~い。 初めてのかたには「傑作選」(https://hoshizukuyo.hatenablog.com/archive/category/傑作選)がオススメで~す。 コメントの掲載には時間がかかることも多いで~す。 無記名コメントは内容が優れていても不掲載としま~す。

5.2以後に明かされた情報も加味して、魔界の諸設定への『大審問官』からの影響を再検討しました。おかげでゴダの終焉の地が飛竜の峰であった理由が見えてきました。「大勇者の天衣」の元ネタも発見で~す。

1.はじめに

 5.1時代に当時までに明かされていた情報を元にして、過去記事「『大審問官』と「大審門」の関係 そして明かされるモーモン王国と「荒野」の真実」書きました。

 『大審問官』とは『カラマーゾフの兄弟』の作中物語であり、異端審問官が「キリストの開いた初期キリスト教は一部の立派な者しか救えないのに対し、悪魔と契約したカトリック教会は立派ではない万民に救済の幻想を与えることができるので、当分はカトリックのほうが優れている」とキリストに対して主張し、それを聞いたキリストが黙って去っていくという内容で~す。

 そして5thディスクで大審門を管理してモーモンに偽りの楽園を与えた魔仙卿こそが、この大審問官に当たると考えました。

 今でもこの過去記事の中心的な部分の内容は正しいと思っていま~す。

 しかし第1章で「あくまで5.1時点での情報からの類推であり、第3章以降の仮説は今後覆る可能性もあることを先に明言しておきま~す」と予告した通り、5.2以後に明かされた情報によって見解を多少修正しました。

 第一の修正は、「誰がキリスト的役割を果たしていたのか?」についての見解を変えたことで~す。

 第二の修正は、「『大審問官』からの直接の影響だけではなく、『大審問官』の影響を受けて創られた埴谷雄高の『死霊』経由での間接的な影響もある」というもので~す。

 本稿ではそうした再検討の結果を発表していきま~す。

2.第一の修正、誰がキリストか?

2-0.総論

 当時は「やがて再来するけど今は全部魔仙卿任せ」という立場のジャゴヌバこそが、『大審問官』におけるキリストに一番近い存在だと考えていました。

 しかし今では、魔界の現状に満足をせずに何らかの改革を考え続けたゴダとその後継者たちの側にこそ、より多くのキリスト的要素を見いだしておりま~す。

 本章ではその側面を大いに語ろうと思いま~す。

2-1.ゴダにおけるキリスト的要素

 「ゴダ」と聞くと、ほとんどの人はまずは「神」を意味する"God"を想起することでしょう。これ自体もまた三位一体論から考えるにキリスト的要素といえま~す。

 しかしそれ以上に重要なのは、キリストが処刑された場所である「ゴルゴタの丘」で~す。これは「頭蓋骨の丘」という意味で~す。

 ジパングでは『ウルトラマンA』第13~14話のように「ゴルゴ」と最後を濁らせる誤りも流行しているので、そうしたことも加味するとますます「ゴルゴタ」と「ゴダ」の発音上の類似性は高まりま~す。

 ゴルゴタの丘でのキリストの処刑については、「キリストは意図的に処刑されることで、人類の祖から始まる全人類の罪を背負い、世界を清めた」と考える有力な立場がありま~す。

 5.5後期に兄弟姉妹から又聞きした初代魔仙卿の話*1によれば、ゴダもまた意図的に無謀な外征をして死ぬことで、魔祖から始まる魔界に充満していた悪意を清めたわけで~す。

 そう考えると、6.2では謎とされたゴダ軍の「征服に来たはずなのに、ドラクロン山地を占拠して山頂で総大将が討たれるまで動かなかった」という行動*2のメタ的な理由までわかりま~す。

 キリストがゴルゴタの丘の上で死んだことを模倣するため、運営はゴダを骸骨だらけの山の上で死なせたかったのでしょう。

2-2.ネロドスにおけるキリスト的要素

 キリストに十二使徒がいたように、ネロドスにも魔軍十二将がいました。

 「ユダの裏切りにより、補欠が十三人目になった」までは完全には再現されませんでしたが、それを匂わすネグールドラゴンまで登場しました*3

 また「殺してもすぐに復活する」や「他者を不死にする」などの設定もキリスト的で~す。

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2-3.マデサゴーラにおけるキリスト的要素

 マデサゴーラはスーパーVIPルームで悪魔の誘惑に打ち勝ちました。

 また最終的には創造神になったので、三位一体説からはやはりキリスト的であることになりま~す。

2-4.ヴァルザードらにおけるキリスト的要素

 ヴァルザードは全魔族を根本的に救うためにブルラトスを育て始め、仮面の大魔王と二代目魔仙卿の兄弟姉妹はその事業を承継して完成させました。

 ウバダバはこのブルラトスを「魚」と呼んでいました。過去記事「ファラザード城地下牢の囚人たちの研究(後篇)」で書いたように、「魚」はキリストを象徴しま~す。

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3.『死霊版大審問官』構想からの影響

3-0.総論

 埴谷雄高の未完の大作『死霊』は、「悪辣な人格の親父と、そのおかしな息子たちが主役」という点では『カラマーゾフの兄弟』に似た作品で~す。

 『死霊』の自序では、『カラマーゾフの兄弟』の『大審問官』や耆那教(ジャイナ教)の厳しい教義に影響を受けたという話が書かれま~す。これに続けて、仏教の始祖たる釈迦と耆那教の始祖たる「大雄」(マハーヴィーラ)とが対話をする作中物語が終盤に登場する、という構想が語られま~す。

 「『大審問官』に影響を受けた奇妙な一家を描いた文学作品における作中物語で、宗教上の対話がなされる」となると、この釈迦と大雄の対決とは、『大審問官』の「大審問官VSキリスト」のアジア的翻案であると想定できま~す。よって本稿では、この作中物語を「『死霊版大審問官』構想」と仮称しま~す。

 ここで「立派ではない万民に偽りの救済を与える宗教家」たる大審問官に当たるのが、釈迦で~す。

 ジパングでは『三教指帰』の昔から釈迦は「世俗的な孔子」や「戒律の弱い日本仏教」と対比されることが多いのですが、より厳しい戒律を重視する大雄と対話をするならば、釈迦はキリストよりも大審問官に近い立場となりま~す。

 過去記事「『ドラゴンクエストIX』と『ドラゴンクエストX』の間におけるグランゼニスの変質を、『妙法蓮華経』提婆達多品から読み解きました。「時の王者」という奇妙な称号の由来もこれで判明しました」で書いたように、提婆達多が作った分派も仏教より厳しめの戒律が特徴だったとされているので、仏教は成立当初の社会常識では「釈迦の戒律は甘すぎるのではないか? 釈迦は立派ではない万民に偽りの救済を与えようとしているのではないか?」という疑念を多くの人々に抱かせるものだったと考えることができま~す。

 本章では以上を前提とした上で、運営が『死霊版大審問官』構想からも多くの発想を受け取っていた形跡を列挙していきま~す。

3-1.「死霊」を操るデスマスター

 「死霊」を召喚できるデスマスターは、5.0から配信が始まったので、大審門や魔仙卿とは同期ということになりま~す。

 この「死霊」関連の職の登場およびその時期からは、「『大審問官』そのもののみならず、その影響下の作品『死霊版大審問官』構想まで参考にするぞ!」という強い宣言が感じられま~す。

3-2.「大勇」者

 5.3メインストーリーを進めると、アンルシアは「大勇者の天衣」という名称の衣装を着ることができるようになりま~す。

 この「大勇者」という言葉は、それまでの『ドラゴンクエスト』シリーズではほとんど出てきませんでした。かなり懸命に検索をしたのですが、5.3以前に「大勇者」という言葉が使われたドラゴンクエストは『勇者アベル伝説』ぐらいしか見当たりませんでした。

 こういう耳慣れない名称を運営があえて用いた理由としては、「5.2で主人公が魔王に就任したから釣り合わせた」という面ももちろんあることでしょう。

 しかし「マハーヴィーラ」の漢訳には「大雄」のみならず「大勇」もあるということに気づくと、「これはいよいよ『死霊版大審問官』構想からの影響が佳境になってきた」と思えるわけで~す。

3-3.大勇者のアヒンサー

 埴谷雄高が大雄に惹かれた原因の一つが、ジャイナ教が仏教よりもアヒンサー(「非暴力」等に近い概念)を徹底していたことにありました。

 『ドラゴンクエスト』シリーズの勇者は武力で戦う立場なので、マハーヴィーラの釈迦をも越えるアヒンサーの徹底をそのままの形で投影するわけにはいきませ~ん。

 しかしサブストーリーとしてクエスト「ぼくのいのちの恩人さん」*4が配信され、アンルシアが魔界との停戦が成立する前から魔族の少年の命を救っていたという設定が明かされました。

 この幕間劇こそ、「大勇者」が「大勇」の単なる駄洒落ではなく、「徹底的なアヒンサーの実践をした大勇」という要素も多少は投影されていることの現れであると、星月夜は考えました。

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3-4.最終戦で大したことなかったスキルマスター

 過去記事「「スキルマスター≒仏陀」仮説の根拠がどんどんたまってきました」以来、スキルマスターに仏陀が投影されているという話を何度も書いてきました。

 このスキルマスターは登場以来長らく、大いなる闇の根源との戦いに備えているだのと語っていましたが、5thディスクでのジャゴヌバとの最終決戦ではほとんど活躍しないまま終わりました。

 逆に一番目立っていたのは、トドメの一撃であるミナディンの中心人物となった勇者姫でした。

 この最終戦におけるアンルシアとスキルマスターの活躍度の大きな違いには、「大雄(大勇)の前では大したことない釈迦」という『死霊版大審問官』構想の影響があるのかもしれませ~ん。

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3-5.絶対滅神のデザイン

 最終戦で大勇者に敗れた絶対滅神ジャゴヌバにも、当然ながら『死霊版大審問官』構想の釈迦や仏教のイメージが投影されていま~す。

 下の写真のジャゴヌバ、手が多数あるタイプの菩薩像と苦行時代の釈迦の像とを合成して少し邪悪にしたという雰囲気で~す。

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