ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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ゲルメデ「学芸大臣」から考える、ゴーラの近代性とグルヤンラシュの天才性。そして新たなる希望。

1.主任のある大臣とない大臣

 近代的な国では、官僚機構を職掌ごとに省庁で分けてそれぞれの上に責任ある担当者を置くという発想が強いで~す。

 そういう国の大臣の多くは、主任の内容をつけて「〇〇大臣」と呼ばれ、その権限の内容は初めからほぼ決まっていま~す。権力闘争をしようがしまいが普段の仕事の内容自体はほぼ同じであり、影響力がいくら強くても他部門への口出しには限界がある一方で、影響力が弱くても他部門の責任者からの介入にも一定の限界があるわけで~す。

 一方で中世的な国では、大臣はただ漠然と「大臣」とだけ呼ばれることが多いで~す。あるいはせいぜい「太政大臣」とか「左大臣」とか、大臣同士での序列がつくだけで~す。

 だからそういう大臣の職務内容が曖昧な統治機構においては、大臣は権力闘争の結果次第では万機を預かって絶大な力を持つことが多かった一方、逆に名目上の立場に追いやられることもまた多かったので~す。そしてそういう傾向がまた権力闘争の火種になりました。

 なお以上はあくまで理念的な二分法なので、特に過渡期においては主任があるのかないのかはっきりしない大臣というものも世界中に多くありました。大日本帝国の「内大臣はその典型で~す。

雨月「主任があるようで内大臣。くっくっくっ」

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2.アストルティアの大臣と魔界の大臣

 前章の理論で、アストルティアの大臣と魔界の大臣とを比較してみましょう。

 ちゃんとした主任のある大臣って、アストルティアでは珍しいですよね。チグリ大臣(グレン)とかコトル大臣(カミハルムイ)とかリゲル大臣(偽グランゼドーラ)とかコルシュ大臣(グランゼドーラ)とかカブース大臣(アラハギーロ)とかコルシュール大臣(古グランゼドーラ)とかムニュ大臣(オルセコ)とか、みんな単に「大臣」とだけ呼ばれています。

 ここで列挙した大臣たちは、他にライバルらしき大臣がいない状態で玉座の間にいるので、おそらくは総理大臣級なのでしょうが、コルシュ大臣とコルシュール大臣の立ち位置の違いには微妙な地位の差も感じられま~す*1

 いやはや、実に中世的ですね~。

 一方で魔幻都市ゴーラには、学芸大臣」のゲルメデさんがいま~す。

 「議会」が存在したネクロデアの近代性にも驚かされましたが*2、こう考えると学芸大臣のいるゴーラも中々近代的ということになりま~す。

 他にも、魔界のいつの時代のどの国の大臣かは不明ですが、「殺りく大臣」というのもいたことが「グリーンシザー・強」のまめちしきから判明していま~す。

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3.グルヤンラシュの負の遺産

 前章の確認になりますが、アストルティア統治機構は概して中世的であり、魔界に大きく後れをとっていま~す。

 しかしアストルティアにおいても、統治機構の近代性の萌芽のようなものがかつて見られました。3000年前のウルベア地下帝国で~す。

 主人公が行ける時代にはすでにグルヤンラシュにより粛清ずみだったためNPCとしては登場しませんが、設定上はウルベア地下帝国で財務官ルルミソの父が財務大臣でした。財務のことなら原則として他所からあまり口を出されない代わりに、本人も財務がらみの問題でしか他所に口を出せないという、安定的で限定された権力の財務大臣がいたので~す。

 しかしウルベア地下帝国の祭政一致の古代的要素が隙となり、「宰相」グルヤンラシュによってその芽を摘まれてしまいました。

 ここで明らかになるグルヤンラシュの天才性とは、邪魔な高級官僚を自然な戦死の形で死なせたことよりも、その地位を踏襲する後任者を作らなかったことで~す。自分の言いなりになる後任者を任命するだけであったなら、いつ裏切られるかしれたものではないですし、またほぼ100%言いなりになるとしても毎回一応の交渉が必要ですからね~。

 グルヤンラシュ政権時代を生き延びた大臣にはクヨチ大臣がいますが、彼は無任所であり、またそれゆえに掃除夫にされていました。まさに中世的世界で~す。

 地球でもクヨチ大臣に似た例がありま~す。『新五代史』馬胤孫伝や『資治通鑑』巻第二百七十九によると、後唐王朝は、馮道という有力者をとりあえず「司空」に任命しました。「司空」は歴代中国王朝では大臣級の伝統ある役名の職で~す。でも当時の後唐では司空の職務内容が曖昧だったため、馮道は祭祀関連の掃除だけをする立場を押しつけられそうになったそうで~す。

 当時の世界最強国の統治機構のあり方を根本から変えてしまったのですから、グルヤンラシュが後世のアストルティアに及ぼした影響は計り知れませ~ん。

 こういう作業はよほど「権力とは何か」を知っていなければできないことで~す。それを裸一貫から始めて、かつ少なくとも七十年、ひょっとすると何千年も生きている海千山千のお目付け役の筆頭研究員を差し置いて、十年ぐらいで成し遂げたのですから、グルヤンラシュは希代の天才といえましょう。

 こんなすごい才能を秘めていた人材を「荒事しか能のないグズ」と見てしまったのはドミネウスの大失敗でしたね。計画を全部先に話して説得の上で重用するか、逆に完全に無権力の状態にしておくべきでした。

雨月「そうはいうても、クヨチ大臣の普段の仕事と、ゲルメデ学芸大臣の普段の仕事は、ペペロゴーラのせいで事実上ほぼおんなじやないの?」

星月夜「きっと運営はそういう評価を回避するためにこそ、クエスト「天才と凡人と」*3でゲルメデ学芸大臣に別の仕事も担当させたのよ~」

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4.新たなる希望

 しかし最近になってアストルティアにも新たに主任のある大臣が再誕しました。

 「補給大臣」のPさんで~す。

 今はまだ国政の役職ではなく、無給であり、アストルティア防衛軍において騎兵より地位の低そうな軍服を着ていますが*4、新たなる希望の萌芽ではあるでしょう。

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