1.マンマーによる処罰と許し
「『罪と罰』で読み解くリベリオ」という記事で、キャット・リベリオの物語が『罪と罰』のラスコーリニコフに酷似していることを指摘しました。
その中で、キャット・マンマーがリベリオに与えていてリベリオが最終的に自ら受け入れた「罰」が、リベリオを成長させ社会に復帰させるための「許し」の機能を持っているということを指摘しました。
もしもサブストーリーの第2話あたりでなあなあな形で許されていたら、リベリオは成長できなかったでしょうし、周囲からも「禊をすませていない」という理由からずっと罪人として白い目で見られつづけたことでしょう。
そしてこの、「処罰を通じた許し」の構造は、ウェナ諸島関連の話で頻出しておりま~す。
2.マリーヌによる処罰と許し
マリーヌ神は、カシャルからの助命嘆願を受け入れ、水の領界の竜族に対して大幅な減刑を行いました。
しかし自分たちが本来は死刑であった立場だと永遠に認識させるため、水中に沈めた状態は維持しました。また減刑の分の「けじめ」も、カシャルの声という形でしっかりとつけていました。
この態度により、水の領界の竜族は、竜族の中で過去の戦争犯罪を一番反省してナドラガ神への崇拝を捨てました。
ただ単にひたすら苦しめるだけの罰を受けた、炎・氷・闇の領界の竜族は反省もせず、いつしか自分たちがなぜ苦しめられているのかも忘れてしまいました。そして今ではナドラガ教団の強い影響下にありま~す。
エルドナ神の処罰は、教育刑という観点から見ると、成果はそれらの中間程度でしたね。
ムストの町の豊かさ*1や翠嵐の聖塔の竜族にのみ楽な構造*2から推測するに、罪人たちにこっそりと配慮をした形跡がうかがえま~す。
そしてたしかに、この領界では教会でルティアナ像が拝まれるなど、ナドラガへの崇拝が薄れている様子もありました。
しかしナドラガ神とナドラガ教団に対抗する疾風の騎士団が作られるまでは、外界からの異邦人二名の渡来と、彼らによる粘り強い説得と予言の奇跡の提示とが必要であった点などをみるに、やはり水の領界には一歩及びませんね。
この差は、エルドナ神の減刑がこっそりとした便宜にすぎず、罪人たちに意識的な悔悟をさせるための「けじめ」がないことが原因だったと考えられま~す。
3.ディオーレによる処罰と許し
『蒼天のソウラ』の7巻の156~160ページでは、ジャングが「鉄血のジャング」時代に犯した罪が女王ディオーレによって裁かれていました。
そして処罰の内容は、名目上は無期限の遠島刑でありつつも、その実質は「クズ鉄のジャング」の構成員が今後も「鉄血のジャング」の構成員のようにならないよう指導をさせ続けるというものでした。
この処罰というけじめがあったからこそ、ジャングの身分は目こぼしをもらっている逃亡中の海賊ではなく、国家公認の労務を提供する服役者になったので~す。
(2022年3月22日追記)
6.1のサブストーリーで、ディオーレは新たにキャスランを許しました。詳細は近日公開の記事にて。
4.ユナティによる処罰と許し
魔法戦士の職業クエストでは、魔法戦士団を危機に陥れたノーランが、永久の国外追放処分にされていました。
この職業クエストを紹介した記事で星月夜は、「ノーランが、「ウェナ諸島を守るにはウェナ諸島で戦い続けるのが唯一の方法だ」という思想を墨守し続けた場合、これは彼にとって地獄の刑罰です。(原文改行)一方、「他の大陸を平和にすることが、めぐりめぐってウェナの平和にもつながるのだ」という思想を受け入れた場合、これは星月夜に最終的に与えられた処遇とほとんど変わるところがありません。(原文改行)つまり己の偏狭さに気付いた次の瞬間に、実質的に刑罰は自動的に終わるわけです。これはかなり粋な計らいだと思いました」と書きました。
これもやはり、処罰を通じた許しの物語の一環だったのでしょうね。
そして女王から処罰の内容を定める権限を委任されたのが、アーベルク団長ではなくユナティ副団長だったことについては、当時は不思議に思ったものですが、こうしてウェナ諸島関連の類似の物語と比較したことで、得心がいきました。
そこに貫かれているテーマは、単なる「処罰を通じた許し」ではなく「女性による処罰を通じた許し」なのでしょう。