ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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パクレ警部の総合研究

0.はじめに

  本日はパクレ警部についての研究をまとめてみました。

 何かと評判の悪いパクレですが、結論は再評価の方向に傾きました。

1.警部という地位について

 まずはその称号である「警部」から考察していきま~す。

 『アストルティア創世記』の111ページでは、パクレ警部について「アストルティアには警察は存在しないので、彼は“警部を自称している単なる一般人”なんですけどね(笑)」と公式設定が語られていま~す。

 しかも明らかに警察の制服風のファッションをしたウヅキさんの活動がエルトナの伝統儀礼だと念を押されたところを見るに、この設定は現在でも厳格に守られているようで~す。

 よってパクレの真の地位は「一般人」で決まりですね~。

 しかしここで疑問がわきま~す。「警察組織が存在しない世界で、どうして「警部」という階級を思いつけたのか?」と。警察が存在しない世界で警察という概念を発明した者は、まだ上司も部下もいないので、「警官」と翻訳される概念の称号を名乗り得ても、「警部」と翻訳される概念の称号は名乗り得ないでしょう。

 これについて考えるヒントとなるのが、「アストルティアには、警察は存在しなくても、刑法・犯罪の概念は存在する」ということと、「この状況が地球のヨーロッパの中世社会に近い」ということで~す。

 中世のヨーロッパでの治安維持は、民間の組織や後世でいう警察の仕事「も」する公務員によって担われていました。活動の費用も、自弁や現地での略奪や犯罪者からの罰金・賄賂によってまかなわれていました。

 アストルティアでも、スクアーロ海賊団の窃盗などの小事件は自力救済や冒険者へのクエストで解決するのが常識であり、逮捕後の裁判や処罰だけを行政がサービスしてくれま~す。そして砂漠の土竜団とかが王陵不敬罪までしたりすると、軍人も彼らの逮捕に駆り出されたりするわけで~す。

 その後の地球では、徐々に公費で警察活動だけをする組織が作られていき、現代の警察へと発展していったわけで~す。

 こういった歴史の類似性を考えるに、警察が存在しないアストルティアでも警察という概念の萌芽的なものはすでに存在しており、また着想レベルでは警察活動だけをする近代的な警察組織の設立を夢想する者がいても不思議ではありませ~ん。

 そういうわけで、事実上は私立探偵にすぎないのに「警部」を名乗るパクレとは、「近代警察組織の設立の提唱者」だと考えました。

 「犯罪が起きてから泥縄式に冒険者を雇って解決を目指したのでは治安はいつまでも低いままだ。それよりはつねに治安維持活動を行う部門を作ろうではないか!」と提唱し、その先進的な発想が受け入れられなかったので、「ではワガハイが実験的に私費でその仕事をしてみるから、その恩恵の多寡を見て、いつか設立を考慮しなおしてくれ。この規模の町の治安の責任者となると、この建白書の組織図でいえば「警部」なので、とりあえず警部を自称する」といって活動を開始したのだと考えれば、色々と辻褄が合いそうですね~。

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2.捜査能力について

 ナブレット団長がオルフェアの子どもたちをさらったとき、パクレ警部はプディンをふくめたナブナブサーカス団員全員を共犯者扱いして、高圧的に捜査をしていました。これで印象を悪くした人も多かったと思いま~す。

 ところが2016年の「キュララな夏休み」で、オルフェアのメインストーリーでナブレットが行方不明ということになっている時点のキャラでイベントに参加しても、ナブレットをふくめたサーカス団員全員が海岸で仲良くくつろいでいる姿が目撃できました*1

 「……他の連中の目は ごまかせても ワガハイの目は ごまかせんぞ!」という宣言は、完全に真実だったと判明したので~す。

 彼は捜査官としては天才の部類に入るといってもいいでしょう。

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3.金銭面について

 まずは本人が書いた「パクレ警部の愛と汗の事件簿」の内容の全文を引用しま~す。

 「ワガハイの名は パクレ警部。 人知れず オルフェアの町を守り続けて 30年。 愛用のトレンチコートも ヨレヨレである。 日に3杯のコーヒーと ひと箱のシガーチョコ。 あとは 菓子パンなんかを かじりながら 悪の組織を 日夜 見張っている。 こんな暮らしだが 不思議と 女に不自由しない。 酒場の看板娘も ワガハイに ホの字のようで 顔を見るたびに 言い寄ってくる。 そんなワガハイに逆うらみをした 悪徳高利貸しに イチャモンをつけられ 丸刈りにされかけた。 あれは まさに殉職の危機であったように思う。 だが ワガハイは 決して屈しない。 ワガハイの敗北は 正義の敗北である。 この町の平穏を守れるのなら 死をも恐れない」

 これは悪く解釈すれば、自分を天才だと勘違いした、貧乏でもてない男の手記に見えてしまうでしょう。そのように読んでしまった人も多いかと思いま~す。

 でもまずはこの写真をご覧くださ~い。

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 パクレ警部の家は、大人気のナブナブサーカスのテントの入り口の真正面にあるので~す。その経済的な価値は計り知れませ~ん。

 そしてこの家がまだ抵当に入っていないので~す。なお、アストルティアにも不動産を担保とする制度が存在することは、「輝く私のプレシャスデイズ」で明かで~す*2

  次に家の中を見てみましょう。

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 食料の備蓄もあり、照明は贅沢につけっぱなしであり、貧乏ならとっくに売り払っているような二台目の寝台という贅沢品もありま~す。

 それに本当に貧乏ならば、一日に三杯もコーヒーのような嗜好品を摂取したりはしないもので~す。

 また私財を投じて報酬を用意してからモンスター討伐隊へ向けて「パクレ警部の依頼書」をしばしば執筆していることからも、貧乏である可能性は非常に低そうですね~。

 高利貸しであるギャンドルの存在だけが、パクレ貧乏説の唯一の証拠で~す。そしてこの証拠は以下の理由により簡単にくつがえりま~す。

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 まず、返すアテがない相手に高利貸しは金を貸しませ~ん。返せそうだと判断したからこそ貸したのでしょう。

 しかもその返すアテというのも、パクレが先祖から相続した財産ではなく、本人が今後稼ぐと思われた収入に依拠しているのでしょう。なぜなら、この高価な家を担保にしなかったということは、その手続きの面倒さを省いたほうが得だと思うぐらいにパクレが現金を返す確率が高いと判断したということだからで~す。

 そしてメインストーリーを4.2現在の最前線まで進めた状態でギャンドルに話しかけたところ、「パクレの野郎……ヤバすぎる ヤマに 首を つっこみやがって。 オレの利息 永遠に返さねえつもりかよ……」と語られます。利息だけ気にしているということは、元本はとっくの昔に返し終えたようですね。ちなみにゲーム開始時のギャンドルのセリフについても、断言こそできないものの、元本は回収ずみの可能性がありま~す。

 つまりパクレがギャンドルから金を借りたのは、貧乏だからではなく、一時的に大金が必要だったからであり、元本はその後すぐに返したのでしょう。

 残るはより楽な利息部分の返済だったわけですが、警察活動の使命感に燃えて帰宅しなかったときなどには、指定の日に金を返し損ねたこともあったのでしょう。そしてパクレが女性にもてることを逆うらみしているギャンドルは、相手に返済の能力があるのを知った上で、返済が少し遅れただけでイチャモンをつけて嫌がらせをしてくるのでしょう。

 こう考えると、金銭面のつじつまが全部合うわけで~す。

4.女性関係について

 次に、本当に「パクレ警部の愛と汗の事件簿」どおり、パクレ警部は女性にもてるのかについて考えてみましょう。

 事件簿の記述にあった「酒場の看板娘」とは、おそらくヘルーペさんで~す。

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 ゲーム開始時の状態で話しかけると、彼女はパクレについて「なんか アタシの服とか ワイセツ物チンレツ罪だ! とかいって ゴミ袋 かぶせようとすんのおー」と語り、不快感を示してきました。

 女性に不自由している男性ならマジマジと見たい半裸体を取り締まろうとするあたり、「不思議と 女に不自由しない」までは本当の可能性が高いですね~。

 でも看板娘に好かれているというのは、さすがに彼の勘違いではないかと、この時点では思ってしまうことでしょう。

 ところが4.2時点で話しかけると、「いると ウザいオヤジなんだけどー いなくなると さみしいっていうかあー」とヘルーペさんは語ってきま~す。

 つまりパクレは、ヘルーペさん本人すらほとんど気づいていなかった彼への好感を、敏感に感じ取っていたことになりま~す。これはすごいですね~。

 そしてここまで敏感ならば、相思相愛になりそうな相手を発見するのも簡単でしょうから、他の女性との恋愛も発展しやすそうで~す。これでますます「不思議と 女に不自由しない」の信憑性も高まりました。

5.勇気について

 悪魔ザイガスがアルウェ王妃との約束の日にオルフェアの町にやってきたとき、他の住民が呆然としているだけの中、パクレ警部は「町内侵入罪」でザイガスを逮捕しようとしますが、すぐに今日は機嫌がいいので特別に見逃すと宣言して逃亡しました。これは彼の経歴の汚点といえば汚点ですね~。

 しかし「この町の平穏を守れるのなら」という条件つき「死をも恐れない」と書いていたのですから、無駄死にしそうなときの退却は、自分の決意への違反ではありませ~ん。

 予言者であるアルウェ王妃が、ザイガスはフォステイル広場に誘いこまなければ倒せないと考えていたのですから、このときにザイガスに戦いを挑まなかったパクレの選択は正しかったといえましょう。

 アリストテレスは"Ἠθικὰ Νικομάχεια"(『ニコマコス倫理学』)で、「勇敢さ」とは「臆病」と「蛮勇」の中間にあるものだと喝破しました。

 ただの臆病者ならばザイガスを逮捕しようという発想すら持たなかったでしょうし、蛮勇にはやる者ならば無駄死にしていたことでしょう。

 すなわちパクレは適切な勇気の持ち主なので~す。

6.今どこに?

 ラグアス王子が帰ってきたあとも、王子を探しに行ったパクレ警部が帰ってこないと、オルフェアの町では噂になっていました。

 もしも単に王子を探していただけならば、王子の帰還はアストルティアでもナドラガンドでも常識的な情報なので、パクレも帰ってきてしかるべきでしょう。

 すると、考えられる現状は以下の二種類で~す。

 第一は、誘拐の実行犯であるプレイヤーの兄弟姉妹の逮捕を目指し、すでに対象がこの時代から消えたことも知らないまま、僅かな情報を元に捜査を続けているというもの。

 第二は、残念ながらもう殉職してしまったというもの。

 どちらにせよ、命懸けで努力をした人だったと評価できま~す。

7.結論

 パクレ警部は、警察組織の設立を提唱した「近代警察の父」となり得る思想家であり、しかもその思想を広めるために私財を投じてオルフェアの町の平穏を守り続けてみせた苦労人でもあり、一捜査官としての能力は天才的であり、金を稼ぐ能力は天下一品であり、女性の気持ちを相手の自覚以上に見抜けるために恋愛相手に不自由せず、適切な量の勇気を持っているという、ほぼ完全無欠のプクリポである。

8.続編へのリンク

 続・パクレ警部の総合研究

参考文献

※林田敏子・大日方純夫編(2012)『警察』ミネルヴァ書房