ほしづくよのドラゴンクエストX日記

画像は原則として株式会社スクウェア・エニックスさんにも著作権があるので転載しないで下さ~い。 初めてのかたには「傑作選」(https://hoshizukuyo.hatenablog.com/archive/category/傑作選)がオススメで~す。 コメントの掲載には時間がかかることも多いで~す。 無記名コメントは内容が優れていても不掲載としま~す。

マデサゴーラの太陽と月

0.はじめに

 本日はマデサゴーラの芸術作品を中心に、彼にとって太陽と月が何を意味していたのかを探り、その成果からさらに彼の野心を具体的に明らかにしま~す。

夕月夜「天文ネタも芸術ネタもだ~いすき! これはきっとお姉様が私のために書いてくれた記事ですね!」

暁月夜「大魔王の野心の調査! これはきっと姐御が私のために書いてくれたんだな!」

1.絵画から考える、マデサゴーラの太陽と月

 まずはマデサゴーラの作品ではない、デモンマウンテンのこの絵をご覧くださ~い。

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 鑑賞者から見て太陽が左にあり、月が右にありますね~。そしてそれはこの絵の中で一番偉い存在である「ジャディンの園」から見ると、太陽が右で月が左だということで~す。

 以前別の記事にも書きましたが、絵の主役から見て右に太陽が配置され左に月が配置されるのは、「キリストの磔刑」をテーマにした絵の伝統で~す。地球の西洋では右のほうが偉いので、偉い存在を主役から見て右に配置するので~す。

 なお、大魔王は前を向いているのか後ろを向いているのかの決め手に欠けるので、大魔王から見て太陽がどちらにあるかは不明ですが、上にあるジャディンの園のほうが偉くて下にいくほど雑魚が群がっているこの絵においては、中間管理職的な大魔王自身の立場はほぼ無関係で~す。

 では次にマデサゴーラの描いた『創生の神』をご覧くださ~い。

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 な~んと、太陽と月の地位が標準的な発想と逆転してま~す! 創生の神になった自分を主役としていながら、太陽が自分から見て左にあり、月が自分から見て右にあるので~す。

 これについて、「マデサゴーラは左利きなどの理由から個人的に左が好きだった」という可能性はほぼゼロで~す。なぜなら付近にある作品『魔元帥』の解説で、自軍のナンバー2である魔元帥ゼルドラドを「右腕」と呼んでいましたから。

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 そうなると「マデサゴーラは、左右に関しては通念と同じく右のほうが偉いと思っており、その上で個人的に太陽が嫌いで月が好きだった」と考えたほうがよさそうで~す。

2.文学から考える、マデサゴーラの太陽と月

 続いて、偽りのリンジャの塔にある、マデサゴーラが偽リンジャーラの気持ちになったつもりで書いたと思われる手記を思い出してみましょう。

 クエスト「波間に消えた記憶」の紹介記事でも書いたように、偽リンジャハルの歴史はマデサゴーラの創作の部分が大きいので、偽りのリンジャの塔は真の世界の歴史学や考古学にとっては価値が低いのですが、だからこそ「マデサゴーラ研究」の資料としての価値は非常に高いので~す。

 「太陽は 明るく 地上を照らし 寒さに凍える者を 優しく温めてくれる。 だがもし 太陽に近づきすぎれば まぶしすぎる光で 目はつぶれ その熱に 身体は燃え尽きてしまうだろう。 そして 太陽がなければ 輝けないは そんな太陽から 離れることも かなわない いっそう あわれな存在なのだ」

 この文章では、太陽は偽パドレ、月は偽リンジャーラ、近づきすぎて破滅する架空の例は「偽パドレと敵対した場合の偽リンジャーラ」を指していると、それぞれ解釈すべきでしょう。

 そして「この偽リンジャーラの気持ちには、マデサゴーラの本音が投影されていた」というのが、星月夜の考えで~す。

 何しろ「創生の神」とは、かつてジャゴヌバにほぼ匹敵していたルティアナの地位を意味しま~す。その後継者的立場を目指すなんて、上司に対してかなり不遜な欲望ですからね。マデサゴーラはジャゴヌバの権威を利用しつつも、独自路線を探っていたと考えるべきでしょう。

 そこでこの偽リンジャーラの手記を「本音」へと翻訳してみましょう。

 「ジャゴヌバは 魔瘴を 魔界にもたらし 魔族を 強くしてくれる。 だがもし ジャゴヌバに近づきすぎれば 濃すぎる魔瘴で 発狂したり 死んでしまったりするだろう。 そして ジャゴヌバの権威がなければ 活躍できない大魔王は そんなジャゴヌバから 離反することも できない いっそう あわれな存在なのだ」

 ほぼピッタリですね。

 単にジャゴヌバと自分の関係を太陽と月になぞらえるだけでなく、魔族にとって適量なら便利だけど多すぎても少なすぎても厄介な魔瘴を、人間族にとって適量なら便利だけど多すぎても少なすぎても厄介な太陽光に上手にたとえていま~す。

 思い起こせばバージョン1.0のドルワーム王国の物語では、魔瘴石と太陽の石はエネルギーの方向が逆なだけであり、また容易に変換可能な存在とされていましたね。魔瘴と太陽光がほぼ同じようなものだというのは、この世界で最初から決まっていた設定のようで~す。

 こういう手記を見るに、市民を捨て駒にしてでも異界の魔人たちの力を得て最後はパドレに立ち向かったリンジャーラに共感して、自分もまたゼルドラドなどの部下を捨て駒にしてでも異界の創生の霊核の力を得て最後はジャゴヌバに立ち向かおうとしていたのではないでしょうか。

 その最後の戦いに勝ったとき、かつてジャゴヌバという太陽の権威で輝いていただけのマデサゴーラという月が、太陽より偉大な存在となるので~す。

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3.ジオラマから考える、マデサゴーラの太陽と月

 マデサゴーラは自分好みの世界の「偽りのレンダーシア」を創るさい、侵入者たちに「これは偽りの世界だ!」と見抜かれるリスクを高めてまで、「太陽が見えない」という設定にしていました。それでいて月はちゃんと見える設定でもありました。

 これも自分を常に月になぞらえていたため、月が太陽に負け続ける姿をなるべく見たくなかったから、月が太陽に勝った世界を真の勝利に先行して創ってしまったのでしょう。

 せめて月も見えないようにしておけば「太陽が見えないのは迷いの霧のせい」とか思う人も多かったでしょうに、欲望を抑えきれなかったんでしょうね~。

 マデサゴーラが目先の欲望に負けて大望を見失いやすいというのは、悠久の回廊の偽カジノでのふるまいからも明らかで~す。

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4.被害者から考える、マデサゴーラの太陽と月

 真のレンダーシアの各地の人々に与えた被害でも、「太陽の王国」の後継国であるアラハギーロへの仕打ちが一番酷かったで~す。

 これも常に太陽を憎悪の対象として考えていたからなのかもしれませ~ん。

 アラハギーロ関係者の中では偽ラウルにだけは例外的にハッピーエンドを用意していますが*1、彼は所詮故人であるので、この好待遇は夜の王国の子孫であるリィンへのサービスの手段だったと考えればいいので~す。

5.ネルゲルへの背信は予行演習か

 マデサゴーラは「自分の取り分は大陸一つ」という不利な契約をネルゲルと結んでいました。

 しかしまめちしきによれば「創生の霊核を手に入れたら 大魔王はアストルティア全土を 偽りの世界で塗りつぶし 創世の神となるつもりだった」とのことですから、ネルゲルのことはナドラガンドへ行くのに邪魔な冒険者たちを五大陸に足止めさせておくためだけの捨て駒ぐらいにしか思っていなかったことでしょう。

 そしてネルゲルとは、物語の設定上「偽りの太陽」から生み出された存在であり、元ネタの「ネルガル」も太陽神で~す。

 ネルゲルは自分のように苦労して正式に大魔王に即位したわけでもないのに、ジャゴヌバと通信したり取引きしたりできるので、「努力したことのない生まれつきの天才」で~す。しかも本来の計画どおりであれば「敵として勇者と盟友が誕生しない」というチート設定の立場なのですから、環境にも恵まれていました。

 『ドラゴンクエスト』シリーズの主人公側でたとえるならば、「おっ° て」もょもとみたいなもので~す。

 一方でマデサゴーラは、マデッサンスに展示されている『魔幻宮殿』の説明文によれば、大魔王になる前にまずはゴーラの平定から始めなければならなかった苦労人のようで~す。

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 苦労人マデサゴーラは、天才でお坊ちゃんのネルゲルがさぞ憎かったことでしょう。

 ここでまた話は偽りのリンジャの塔にもどりま~す。「月のような偽リンジャーラが太陽のような偽パドレに嫉妬して書いた」という設定でマデサゴーラが書いた手記には、他にもこんな文章がありま~す。

 「たとえば 自らが何日もかけて 解決した問題を ふと現れた天才に 一瞬で解かれてしまったら 人は 何を感じるだろうか? 自らの 血のにじむような努力は 天才のひらめきの前では 何の意味もなさないという 現実を 目の当たりにしたとき……」

 この文章は、「マデサゴーラは自分を月になぞらえ、太陽的なものを恨み、下克上したがっていた」という上記の星月夜の仮説に従うならば、以下のような本音を反映していることになりま~す。

 「自分は何百年もかけて苦労して大魔王に即位して魔族の盟主となった。これで勇者にもし勝てればアストルティアを征服できるという立場を手にしたということになる。しかし突如アストルティア内に出現した冥王ネルゲルは、最初からそこそこ強くて、しかも勇者と戦わずにアストルティアを征服できるという立場であったため、多くの魔族から大魔王より大きな期待を寄せられている。自分の今までの努力は何だったのだろうか?」

 この才能にも環境にも恵まれすぎた太陽神をおだてて利用して最後は捨てるというのは、無敵の太陽たるジャゴヌバをおだてて利用して最後は捨てるという計画の、一種の予行演習の要素があったのではないかと、星月夜は考えていま~す。

 ヌッジォさんは「芸術家として、自分は凡人で、マデサゴーラは天才」と考えていじけていましたが*2、マデサゴーラはマデサゴーラで「魔族の盟主として、自分は凡人で、ネルゲルは天才」と考えて苦しんでいたというわけで~す。

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6.以上を補強する証拠としての軍編成

 「自分の知り合いがマデサゴーラのアストルティア遠征に従軍した」という内容の発言をするNPCは、魔界の三大強国にも中立地帯にもおらず、ゴーラにしかいませ~ん。

 そしてマデッサンスに展示されている『異界への進軍』という絵でも、マデサゴーラが持っている軍旗はゴーラのもので~す。

 バルディスタやゼクレスにも従軍を命じていれば、勇者姫に対する勝率は高まっていたはずで~す。

 それでもあえて直属軍だけを率いたのは、「魔族の希望であるネルゲルを使い捨てにして、魔族の神であるジャゴヌバを超える」という魔界中にばれると危険な野心を抱いていたから機密を重んじたのだと考えれば、納得がいきますね~。

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7.先駆としての魔公王イシュラース

 『蒼天のソウラ』では、レイダメテスに呼応して魔公王イシュラースが太陰の一族を率いてアストルティアに攻め込んでいました。

 「太陰」とは「月」という意味で~す。

 この月の一族は、物語の途中までは「単に「真の太陽」戦士団の宿敵だからそういう名前なんだろう」という印象しかありませんでした*3

 でも話が進んでいくと、偽りの太陽レイダメテスの守護者ラズバーンの計画に表向き便乗しつつ、裏では六種族の有力者と通謀して手を抜きまくっていたことが判明しました。

 太陽を利用せざるを得ない月の立場でありながら、独自路線を目指してもがき続ける。この生き様こそ、大魔王マデサゴーラの先駆で~す。

(2020年3月16日追記)

 イコッサさんがこの記事を好意的に引用してくれた上に、さらに色々付け加えて「反逆の大魔王マデサゴーラ」という記事を仕上げてくれたので、リンクを貼っておきま~す。

 マデサゴーラの反意の証明について、「ジャオマンダの封印」という見事な証拠が加えられていました。

 ジャオマンダについては「まめちしき」で「魔瘴魂」と書かれていますが、これはスルーしてはいけない単語だったようです。

 「魔瘴魂ナドラグル」という敵が存在して*4、しかもその出自を強調しつつ自己紹介を語っていたのですから、原則としてその自己紹介の大部分はジャオマンダにも当てはまると考えるべきでした。

 その自己紹介の中には「大いなる闇の根源の 分け身たる者」とあったようで~す。

 つまりマデサゴーラさんは、ジャゴヌバの分身を封印しちゃってたわけですよ。

(同日追記)

 ツイッターでおにぎりさんが、偽りのリンジャの塔所蔵の日記のうち、この記事では分析しなかったものについて見事な分析をされていました~。

 簡単に紹介すると、「いよいよ明日は」で始まる日記は「自分に従順なネルゲル」になったつもりで書いたものだ、という見事な説で~す。

 リンクも貼っておきますので、詳細は直接読んでくださ~い。

(2021年1月11日追記)

 マデサゴーラトランプ*5のセリフのおかげで思い出せたのですが、ムービー「奈落の果ての決着」ではマデサゴーラは「お おのれ……。 神の道具ごときが 余を追い込むか……」と悔しがっていました。

 ここに、「一般に大魔王の対なる存在とされている勇者はグランゼニス神の単なる道具にすぎないが、自分は異界滅神の単なる道具なんかではない!」という強烈な自負心が表明されていましたね。

(2021年10月4日追記)

 続編を発表しました。