0.はじめに
本稿は過去記事「マデサゴーラの太陽と月」の続編で~す。
正編を軽く要約しま~す。マデサゴーラは自分を月になぞらえ、ジャゴヌバやネルゲルを太陽になぞらえ、月が太陽に勝つ未来を夢想していました。その根拠は彼の作品群のあちこちに発見できました。
現在では当時より物語が進み新しい情報も入ってきたので、続編の執筆を決めました。
なお正編のみならず過去記事「5.5後期の物語から解釈する、マデサゴーラ芸術」の内容も前提としますので、そちらも先にお読みくださ~い。
1.正編の弱点は『創生の神』における太陽への一定の評価
正編で語った太陽のうち、偽リンジャーラの日記帳の「太陽」は確実に「異界滅神ジャゴヌバの現状(当時)」を指していると思いま~す。正編の内容の繰り返しになりますが、1.0のドルワームの物語を参考に、太陽をジャゴヌバに、太陽光を魔瘴に、人間を魔族に置き換えると、そのまま意味が完全に通じるからで~す。
また偽のレンダーシアで完全に消されてしまった太陽は、「マデサゴーラに完全に滅ぼされた未来のジャゴヌバ」を意味していることでしょう。
しかし『創生の神』に描かれた太陽は、配置上は中央の「神」や神からみて右手の「月」に劣るものの、序列第三位程度の位置を保持していま~す。この序列第三位の太陽が、ジャゴヌバやネルゲル「だけ」を象徴している可能性は低そうで~す。
この太陽にはもっと別の意味もあるのではないかと考えてみました。
2.ルティアナもまた太陽であるという理論
ルティアナは名前に「ルナ」が入っていることもあり、月と深い関係が深い神だと考える説が多いで~す。
しかし5.4以降に「ルティアナとジャゴヌバは、本人同士の直接対決ではほぼ同等の能力で決着がつかなかったので、鏡合わせの秘儀で痛み分けとした」という神話時代の歴史が明かされました。
そしてジャゴヌバは魔瘴の根源であり、その魔瘴は太陽光の力を何らかの意味で反転させただけのものであるということは、1.0のドルワームのストーリーから明かされていました。
ジャゴヌバとルティアナが「対」であり、かつジャゴヌバが「裏太陽」であるならば、ルティアナとはまさに「太陽」であるといえま~す。
よって『創生の神』でマデサゴーラが左手に掲げていた太陽とは、過去記事「5.5後期の物語から解釈する、マデサゴーラ芸術」の研究成果と合わせて考えるに、「異界滅神なら倒せるが絶対滅神は倒せない、ルティアナの力」と解釈すべきでしょう。『自由なるラ・テート』の右側についていた蝶の羽とほぼ同じ意味で~す。
右手に掲げた月は、『自由なるラ・テート』や『したたる欲望』などからの類推で、「絶対滅神をも倒せる、協調した人々のパートスの力」ということになりま~す。
3.比喩のヒントはガウシア樹海か?
3-0.総論
以下に見るように、ガウシア樹海には前章で語った「ジャゴヌバの裏太陽」・「ルティアナの太陽」・「人々の月」に当たるものが全部揃っているので、これが『創生の神』の比喩のヒントになったのだと星月夜は推測しておりま~す。
3-1.呪いの泉 ≒ ジャゴヌバの裏太陽
ジャゴヌバといえば、「対象を強制的に変質させる魔瘴」と「暗黒の手」の二点が封印時ですら多少は使える基本中の基本技でした。
この呪いの泉も、落ちた者を強制的に変質させる水を湛えており、また暗黒の手を思わせる形に枝が伸びておりま~す。
ジャゴヌバの力の一部が顕現している可能性が高いですし、仮に偶然の一致だったとしても、マデサゴーラにとっては比喩表現の元ネタになりやすいものであったことでしょう。
ここに落ちた被害者の一人であるウェブニーが蜘蛛になったストーリー*1も、「ジャゴヌバといえば蜘蛛」という運営からのヒントだった可能性がありま~す。
3-2.ラーの広場 ≒ ルティアナの太陽
4.2メインストーリーで、「ラーのかがみ」には、強制的に鬼人へと変えられた者を元に戻す性能があると判明しました。そしてこのラーの広場にあるラーの果実も、呪いの泉による変化を解除する性能がありま~す。
地球で「ラー」といえばエジプトの太陽神で~す。
偽の太陽の王国が発展してできた偽のアラハギーロ王国にも、かつて「ラー」というファラオがいました。ラーが真のアラハギーロ王国にもいたのかは不明ですが、少なくとも偽のピラミッドを建てたマデサゴーラの脳内で「太陽といえばラー」という連想があったのは確実で~す。
ジャゴヌバの力に酷似した呪いの泉の対極の力であり、かつマデサゴーラも太陽と関係があると認めた「ラー」の名が使われているのですから、これは太陽神ルティアナの力の顕現である可能性が高いで~す。仮に実際にはそうでなかったとしても、マデサゴーラがルティアナの比喩表現に太陽を思いつくきっかけになった可能性は非常に高いで~す。
3-3.トポルの村 ≒ 人々の月
裏太陽からも太陽からも離れた場所にあるトポルの村に人々が集住しており、月花石がお守りとして使われており、月スミレのランプも使用されていま~す*2。
すなわちトポルの村は、「人々の集合」であり「月」でもありま~す。
この月スミレのランプは、星くずの香油を使えば魔物を追い払う機能があり、暗やみの香油を使えば魔物をおびき寄せる機能がありま~す。
「光」にすぎない太陽も「闇」にすぎない裏太陽も超越する、両属性を包括してしかも状況に応じて適度に使い分ける協調の理念を体現していたのが、この村の「月」だったというわけで~す。
マデサゴーラが絶対滅神をも倒す真の奥の手を「月」で表現したのも、この村の影響である可能性が非常に高いで~す。
3-4.「ガウシア」の元ネタも天文かも?
太陽あり、月あり、星くずあり、暗やみありで、ガウシア樹海は宇宙と非常に縁が深いで~す。
これが本稿で星月夜が考えたように運営の意図的な方針であったか、それとも単なる偶然であったのかは、「ガウシア」という名前自体も天文学と縁が深いかどうかによって確率が強く左右されるといえましょう。
そこで自説を強化するため久々に天文学の用語を想起したところ、太陽の質量や地球太陽間の距離などから導かれた「ガウシアングラビテイショナルコンスタント」(ガウス引力定数)を思い出しました。
よってガウシア樹海の名称自体からも、ガウシア樹海全体の有り様が『創生の神』の比喩表現に影響を与えたという設定が存在する可能性が高いという主張を補強できま~す。
3-5.ダークレアリズム三部作の舞台にも影響?
「『森の秘密』でルティアナが異界滅神ジャゴヌバを圧倒するも、『森の番人』でジャゴヌバが絶対滅神になって逆転し、『森の番人』で協調の力が絶対滅神をも倒す」という流れが、過去記事「5.5後期の物語から解釈する、マデサゴーラ芸術」の研究成果でした。
この記事では「妖精」・「蜘蛛」・「二匹の蛇」の意味はほぼ完璧に読み解いたと自負していたのですが、「決戦の舞台がなぜ「森」なのか?」の考察が不十分でした。
しかし「ルティアナ」・「ジャゴヌバ」・「人々」の三勢力の入り乱れのミニチュアがガウシア樹海で実現しており、かつマデサゴーラがその影響を受けていたとすれば、舞台が森なのは自然で~す。
4.月が「協調」であるもう一つの根拠、ムーンキメラ
4-0.総論
一見太陽より弱そうな月こそが、異界滅神に勝った太陽でも勝てない絶対滅神をも倒す「協調」の理念を体現しているという説のもう一つの証拠が、ムーンキメラで~す。
4-1.能力からの証明
ムーンキメラの転生元のスターキメラは、通常攻撃以外の攻撃手段は「はげしいほのお」と「しゃくねつ」という炎属性しかなく、また属性耐性は光に異常に強くて闇に異常に弱いという、偏りのある存在でした。
「熱を発し、光に特化されていて闇に弱い」とは、まさに太陽でありルティアナであるといえましょう。
これに対してムーンキメラはというと、ブレスは炎・氷・闇・光の四属性を使い分け、呪文は風・雷・闇の三属性を使い分けま~す。土属性こそないものの、攻撃手段はほぼオールマイティといえましょう。しかも属性耐性は全部通常であり、偏りがないので~す。
多様な個性が相互補完された存在とは、まさに月であり協調であるといえましょう。
まめちしきにも「月が 満ち欠けするように 光と闇の魔力を 増減させて」と書かれており、運営が月の満ち欠けに光と闇の協調を見出し、それを特に意図的にムーンキメラに象徴させたのは確実であるといえましょう。
ちなみにいつも新月のなげきムーンは、運営から単なる「闇」とみなされたようで、スターキメラとは逆に光に弱くて闇に強いで~す。
4-2.キメラの歴史からの証明
キメラのまめちしきによると、キメラは「ハゲタカとヘビの合成獣」で~す。
そしてキメラ・強のまめちしきによると、「手元にタカと竜がなかったので 代わりに使ったと魔王は語る」とありま~す。
このキメラとスターキメラの形状が似ているのは、ゲーム上の絵として細部が省略されたからではなく、設定上のもののようで~す。スターキメラのまめちしきによると、キメラが毛をピンクに染めるだけでスターキメラの偽物になれるようで~す。
よってムーンキメラの転生元のスターキメラとは、キメラと同じ手法で「ある魔王」に生み出された新生物であるか、もしくはメイジキメラのようにキメラから進化したものということになりそうで~す。どちらにせよ「ある魔王」がムーンキメラの誕生に深く関わっておりま~す。
さて、創造神マデサゴーラの形状はダークレアリズムの模索を経て対ジャゴヌバ必勝兵器として造られたものである可能性が高いということは、過去記事「5.5後期の物語から解釈する、マデサゴーラ芸術」の研究成果で~す。
ここでその創造神マデサゴーラの形状を再確認してみましょう。
竜。
ヘビ。
タカかもしれない鳥の羽。タカとは断言できないものの少なくともバラシュナのような孔雀の羽ではないで~す。
つまりムーンキメラとは、羅刹王バラシュナと並ぶ創造神マデサゴーラの原型の一つだった可能性が高いわけで~す。
ただしメイジキメラが1300年前のドランド平原に出没するので、キメラを創造した「ある魔王」はマデサゴーラとは別人であった可能性も高いで~す。ひょっとしたらシュナによってバラシュナへと強化された「年老いた魔王」その人であったのかもしれませ~ん。
4-3.黄金の翼
過去記事「5.5後期の物語から解釈する、マデサゴーラ芸術」で書いたとおり、マデサゴーラは異界滅神なら倒せるルティアナの力を蝶の羽根で表現し、絶対滅神に勝つにはそこに加えなければならない人々の協調の力を黄金の翼で表現しました。
あれは実は「ムーンキメラのつばさ」であったのかもしれませ~ん。
ただしムーンキメラは体毛こそ金色ですが羽根は白いのが弱点で~す。
5.まとめ
・マデサゴーラは異界滅神なら倒せるルティアナの力を蝶の羽根や眼球以外にも太陽で象徴することがあり、この場合には絶対滅神を倒すのに必要な人々の協調の力を黄金の翼ではなく月で象徴した。
・天体を用いたその比喩の元ネタは、ガウシア樹海とムーンキメラである。
夕月夜「久々に天文系の話が聞けて、本当に嬉しかったで~す。またお願いしま~す」