ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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夕月夜の読書メモその5-1 吉川英治著『新・平家物語』

夕月夜「オリンピックの開会式に関する記事で登場した後白河法皇に興味がわいたので、吉川英治『新・平家物語を読んでメモをとっていきま~す。底本は1976年に講談社から出た吉川英治文庫の96~111巻の全16冊で~す。史実や平家物語』(以下、『旧』と表記)と共通している部分は大胆に省略したので、著者が描きたかった独自世界のほうに焦点を当てたメモになっておりま~す」

暁月夜「つまり『旧』を読んだことがない人にはハードルが高いメモというわけだな」

夕月夜「いきなり読者を減らすようなこと、いわないでよ」

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1.ちげぐさの巻

 保延元年、平清盛の若いころから話は始まる。一家は極貧状態。叔父の忠正には馬鹿にされ、母の中御門泰子は父忠盛に愛想を尽かして実家に帰ってしまう。なお清盛の真の父親は不明。

 清盛の同輩には遠藤盛遠・佐藤義清・源ノ渡などのちに有名になる連中がいて、つるんでいる場面が多い。鳥羽僧正もかなり強引に登場する。

 遠藤盛遠は源ノ渡の妻に横恋慕をした挙句に誤殺して逃亡し、文覚となる。佐藤義清は出家して西行となる。鳥羽僧正は死ぬ。

 巻の終盤では不安定な政情のせいで武士が急に重宝されるようになり、忠盛は再婚し、清盛も急に羽振りがよくなる。

夕月夜「のちに有名になる人物が若いころから主人公の周囲で不自然に目立っている歴史小説は、リアリティに欠けま~す。しかしある程度は歴史上の有名人愛好家に媚びないと目先の読者数が増えないでしょうから、バランスが難しいで~す」

暁月夜「そもそも歴史小説というのはキャラ萌え二次創作同人みたいなところがあるからな~

2.九重の巻

 延暦寺の僧兵が神輿の権威を利用して強訴に来るが、平清盛は神輿に矢を当てて追い返す。これは本来は重罪であったが、罰金刑ですむ。

 その後は摂関家忠通・頼長兄弟の宮廷闘争が描かれ、それが発展して保元の乱の前夜となる。この話題の途中で平忠盛は病死する。

暁月夜「史書にも『旧』にもないこの神輿に矢を当てたエピソードは、「吉川英治原作」と銘打っていない2012年の大河ドラマにも採用されたそうだ」

夕月夜「忠臣蔵立花左近と同じく、もはや民族の記憶に昇華したというわけね。立花左近の知名度は、今や大星由良之助を越えていると思うのよね」

3.ほげんの巻

 保元の乱が描かれる。昔から平清盛を馬鹿にしていた平忠正は最期まで俗物として死んでいき、清盛に感情移入をしていた読者に爽快感を与える。

 文覚が再登場し、戦死者や処刑者を弔いつつ、戦後に新しく朝廷を仕切るようになった信西の恐怖政治を批判する。

 当時はまだモブキャラ同然の存在であった熊谷直実源義朝の部下として都で生活を始め、彼の視点で庶民の様子が描かれる。

 架空の商人の朱鼻も登場し、野心的な貴族を相手に商売に励む。そのお得意様の藤原経宗は史実ではすでに二位になっている時期であるが、まだ「夕顔の三位」というニックネームがしばしば使用されている。

 巻の最後に平治の乱が起きる。

4.六波羅行幸の巻

 平治の乱の顛末。源頼朝の流刑まで。

暁月夜「ほぼ史実通りのせいで夕月夜先生には大胆に省略されてしまったが、血沸き肉躍る内容だったぞ」

5.常盤木の巻

 源義平平清盛の暗殺を目指すが、捕らえられ斬られる。

 表向きは平和な時代なので、常盤御前・文覚・西行金売り吉次朱鼻阿部麻鳥といった登場人物の描写が多い。なお麻鳥とは、崇徳上皇の召使として以前から登場していた人物であり、今では医学を学んでいる。

 しかし後白河上皇二条天皇の水面下の争いは激しさを増していく。その一例として、『旧』の「二代后」と同じく、かつて近衛天皇の后であり現在は太皇太后とされている藤原多子二条天皇が后に望んだという件が語られる。『旧』では二条天皇を諫める臣下たちが異国の例として出した則天武后の話を、むしろ二条天皇のほうが自己正当化の根拠として語っている。

6.石船の巻

 二条天皇の大葬で興福寺延暦寺が争ったり、白拍子祇王が酷い目にあったりと、『旧』の序盤のエピソードが多々流用される。ただし都に来たばかりの平忠度がそれらの事件に巻き込まれるという形をとることが多いため、単なる焼き直しにはなっていない。

 文覚は狼藉の果て、ついに伊豆に流刑となる。

 育ってきた源義経を奥州へ落ち延びさせる計画が本格化し、麻鳥はまた偶然にもその計画を練る源義朝残党の鎌田正近たちと接近遭遇する。

夕月夜「こういう作者に愛されたキャラクターたちが異常なほど偶然接近遭遇してしまう不自然性は、昔だったら馬鹿にしたでしょうが、小説の王者ともいうべきドストエフスキーの作品ですらそうだと最近知ったので*1、もう諦めの境地ですわ~」

暁月夜「それに同じキャラを繰り返し登場させて様々な体験をさせるというのは、映像化が楽だということでもあるんだぜ。映像化のさいに脚本家が俳優ファンの視聴者に媚びて原作を改変してまでやりたい作業を、作家のほうで先行してやってくれているのだからな」

7.みちのくの巻

 源義経の奥州への逃亡劇が始まる。義朝残党や金売り吉次は当然のこと、隠遁後の祇王までもがその手助けをする。

 途中で、のちの静御前となる少女や源有綱那須宗高佐藤継信・忠信兄弟といった連中と知りあう。

 独自設定として、保元の乱で伊豆に流された源為朝は脱出して琉球になっており、藤原秀衡征夷大将軍になっている。

暁月夜「源為朝琉球王の元ネタは、その息子が琉球王になったという伝説だろうな。藤原秀衡征夷大将軍は、その息子の末路を想起すると皮肉なものよな」

8.火乃国の巻

 火乃国とは伊豆のこと。ここで流刑者生活を送っている源頼朝を中心に物語が進む。流刑者仲間の文覚と交流したり、北条政子と恋愛したりする。

 都では『旧』の第一巻の最終章「内裏炎上」の話題がやっと終わり、同第二巻「座主流」の話題にやっと入る。天台座主明雲が流刑に遭うも、延暦寺の僧兵は護送中にその身を奪還する。『旧』ではその企ての中心人物の「怒め坊」は祐慶であるが、本作では祐慶の弟子という設定で弁慶がその役を担う。

 近年の比叡山が起こした諸事件の黒幕を名乗って弁慶は院御所に自首をする。事情を知って仲介役となった平頼盛が弁慶を連れて御所に入ると、中にいるはずの後白河法皇も院近臣も全員留守であり、このため頼盛は鹿ヶ谷の陰謀に気づく。

9.御産の巻

 鹿ヶ谷の陰謀は暴かれ、多くの有力者が流刑となる。

 高倉天皇平徳子の間に皇子(のちの安徳天皇が生まれる。

 源義経は奥州を抜け出し、叔父の源行家に会いに熊野へ行く。現地で偶然にも弁慶の生き別れの母であるさめと知り合う。さめには弁慶の他にという娘もいて、蓬は偶然にもかつて常盤御前の下女であり今は阿部麻鳥の妻であった。

 熊野も危険になってきたので、義経は行家の持つもう一つの拠点である近江の堅田に移る。

 その旅の中で伊勢義盛を部下にする。伊勢義盛偶然にも義経が奥州へ行くさいに上野でその宿泊を断った旅籠の親父でもあり、山賊まがいのことをして暮らしてきたものの偶然にも西行の弟子の西住の薫陶を受けて改心していたのである。かつての同志である源有綱・鎌田正近とも合流する。

暁月夜「苦労して奥州に逃げた義経が、なぜかまたすぐに近畿に戻ってくる不自然さは、『義経記』の影響が強いな。伊勢義盛に多彩すぎる属性が盛り込まれているのも、『旧』や『平治物語』などの様々な伝承を欲張って全部採用したからであろう」

夕月夜「さすが暁月夜。武人が主役の古典は二線級のものも抑えているのね」

10.りんねの巻

 源有綱は親平家の祖父源頼政・父源仲綱らとは仲が悪かったが、源行家から実は祖父たちも本音では反平氏と聞かされる。そこで都で祖父と再会し、以仁王の挙兵が準備されていることまで聞かされる。

 源行家の息子の出っ歯の源行宗は「山下兵衛義経」と名乗って源義経の影武者としてゲリラ活動をしていたが、弁慶に捕まる。行宗を救おうとした堅田の同志たち数名が平時忠の謀略により捕まり、行家も負傷する。

 義経と時忠との間で和議が成立し行宗らは解放されるが、時忠は政権内部の過激派のガス抜きのため、「弁慶を使って義経を暗殺しようとしたが失敗した」という演技をする。義経を追った弁慶は、義経が熊野から引率してきた母さめと再会し、義経に帰順する。

 中央政界では治承三年の政変が起きる。その後、以仁王の令旨も発せられる。

11.断橋の巻

 以仁王源頼政は都で挙兵するが敗死する。

 以仁王の令旨により治承四年八月十七日源頼朝が挙兵する。

 頼朝は石橋山の戦いに敗れ、房総で再起を図る。

暁月夜「今日は頼朝の挙兵記念日だったか」

12.かまくら殿の巻

 源義仲武田信義も挙兵する。近畿の僧兵も反平氏の姿勢を強める。

 源頼朝富士川の戦いに勝利し、関東の大半を制圧する。

 源義経・源行宗は頼朝に合流する。

 朱鼻と吉次は戦争商人同士で密かに手を結び、平氏奥州藤原氏が関東・中部の源氏を滅ぼして日本を二分する計画を立て、平清盛が模索した平和的解決の芽を摘む作業を開始する。

 平重衡は南都を焼討する。

13.三界の巻

 平清盛が重病になる。阿部麻鳥が診察をしたり文覚が見舞いに来たりするが、死ぬ。

 源義仲横田河原の戦いに勝利して越後に進出する。

 源行家は頼朝からの待遇の悪さを嫌い、頼朝の弟の源義円を名目上の総大将として独自に平氏と戦う。しかし墨俣川の戦いに敗れて義円も死んだので、義仲軍に合流する。

 行家の兄の源義広もまた頼朝から離反して義仲軍に合流する。

 「五条大納言」の通称のある藤原邦綱が、朱鼻の養子であるという独自設定あり。

夕月夜「ここまででちょうど半分の八冊。清盛も死に、物語としてもキリがいいわね。『旧』でも大体半分ぐらいのあたりで死ぬし」

暁月夜「朱鼻、コミカルなキャラクターとして登場したはずが、今では源平合戦の黒幕にして権大納言の義父とは」

夕月夜「著者本人が書いた『随筆 新平家』によると、この藤原邦綱こそ朱鼻のモデルらしいのよね。低い身分から金と平氏の力で権大納言にまで出世したのよ」