0.はじめに
過去記事「ナジーンが隻眼で黒服のキャラである理由」では、ユシュカにはナウシカの半面である「慈悲」の側面が投影されていると主張しました。
今でもその立場は変わっていませんが、『三国演義』の劉備のイメージも投影されていると考えるようになりました。
本稿ではユシュカが『三国演義』の劉備から影響を受けたと思われる点を列挙していきま~す。
なおあえて「『三国演義』の」という限定を付しましたが、当然ながら史実の劉備からも間接的な影響を受けておりま~す。演義と史実の微妙な差異は、第4章と第11章でのみ確認しま~す。
1.先祖らしき人の偉業の類似性
真実性には疑いもありますが、劉備は漢の高祖の劉邦の子孫とされていま~す。
そして大魔王顔壁の彫像を根拠に、ユシュカは大魔王ヴァルザードの子孫の可能性が高いとされていま~す。
劉邦とヴァルザードの二人の類似性については、以前「魔界の「覇王」の研究」という記事で書いたので、詳細はリンク先をご覧くださ~い。
2.元は行商人
若いころの劉備はムシロなどを売って暮らしていたとされていま~す。
ユシュカも宝石の行商人としてスタートしました。
3.受けた教育は一流
若いころの劉備は貧しかったものの、親戚からの援助で一流の儒者である盧植に学ぶことができました。
ユシュカも、家族の意向で強制的にネクロデアで高い文化資本を身に着けさせられ、さらには偶然にも一流の賢者であるマリーンの弟子にもなれました*1。
ナジーンは劉備の人生における様々な隣人の役を果たしていくことになりますが、この時点では盧植門下の同輩の公孫瓚の役割を果たしているといえましょう。
4.イデオロギーは「協調」
『三国演義』の第38回で諸葛亮は劉備に対して、「これは西川五十四州の地図です。将軍が覇業を成し遂げたいなら、北は天の時を確保した曹操に譲り、南は地の利を確保した孫権に譲り、将軍は人の和を確保すべきです。まずは荊州を取って一勢力を形成し、次に西川を取って覇業の基礎とし、それによって三大勢力の一角となりましょう。その後は中央への進出を目指しましょう」(拙訳)と語っていま~す。
ユシュカも、武力でも伝統でもライバル他国に勝てませんが、協調の理念で一大勢力を作りました。
ちなみに正史『三国志』のほうでは、劉備が「人の和」を代表する勢力という記述はありませ~ん。
5.先祖(?)の国を再興
劉邦の建てた漢が二度目の滅亡をすると、劉備は蜀の地で漢を継ぐという立場の国を建てました。
ユシュカも滅亡したザードを継承するファラザードを建てました。
6.三顧の礼
劉備は諸葛亮を配下に加えるため、三顧の礼を尽くしたとされていま~す。
ユシュカもレジャンナの三姉妹をファラザードに加えるため、しつこいほど何度も説得をしたと語られていま~す。
7.現地人は大幹部になれず
劉備の蜀漢では、現地の出身者は一部の例外を除けば出世できず、彼が外部から率いてきた有力者、とりわけ荊州人士が大幹部の座を占めたようで~す。
ファラザードでも副官はネクロデア出身のナジーンであり、中央市場を統括するのはレジャンナ出身のジルガモットであり、現地人のハジャラハやシシカバブは裏世界や戦場の実力者という立場どまりで~す。
ここでのナジーンには、曹操に滅ぼされた劉表勢力の残党の劉琦や伊籍ら荊州人士たちや劉備の幼馴染みの簡雍のイメージが投影されていま~す。
8.三大勢力の一角になる
蜀漢は当時の三大勢力の一角であり、だからこそ「三国志」という言葉もできました。
ファラザードもゴーラの衰退後は、三大勢力の一角となりました。
9.元同盟者に背後を突かれて有力者を失う
劉備の古くからの部下である関羽は曹操を攻めますが、劉備の元同盟者の孫権に背後を突かれて死にます。劉備は孫権に復讐戦を挑みますが、夷陵の戦いで火計を受けて敗北し、その後は衰退しました。
ユシュカもゼクレスと同盟してバルディスタを攻めますが、突然裏切ったゼクレスが背後から強力な光線を発したため、ナジーンは死にます*2。
ここでのナジーンには、関羽や夷陵の戦いの戦死者である馬良らのイメージが投影されていま~す。
10.敗北後は引きこもり
劉備は夷陵の戦いの敗北後は白帝城に死ぬまで引きこもりました。
11.君可自為成都之主
劉備は諸葛亮に「自分の息子が無能だったら、君が自ら都の支配者になりなさい」と言い残しました。
ユシュカも自分の能力が主人公に及ばないことに気づき、長年かけて作っていたデスディオ暗黒荒原の新首都施設を譲りました*4。
ちなみに正史の諸葛亮伝のほうでは「君が自ら取りなさい」という曖昧な表現になっており、新首都の移譲という物語への影響力は『演義』に劣っているといえましょう。
12.火徳(9月20日追記)
劉備が守ろうとした漢は五行のうちの火徳に対応するものとされ、だからこそ蜀漢の最後の年号は炎興でした。
ユシュカも正装は赤であり、「紅蓮の衣」などの火に関係する特技も多く持っていま~す。
この件に関してはファラザードの国としてのカラーが土徳である黄色であったため、書くのを躊躇していました。
しかし『史記』暦書によると、漢は発足当初は黒の水徳を自称し、その後は土徳説が徐々に強くなり武帝時代に公式見解になったそうで~す。火徳説はどうやら前漢末からの発想のようで~す。
ならばファラザードが黄色でもあまり問題ではないと考えました。
高祖劉邦に当たるヴァルザードは海魔獣ブルラトスを生み出したり国家の公式の祭壇に大ダコのオブジェを置いたりと「水」に関する業績が多く、その後継国は「土」の影響を残していたものの、ユシュカはあえて強烈に「火」でそれを塗り替えようとしているわけですし。