ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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羅刹王バラシュナの「八門崩絶」・「戦法」・「容姿」・「好敵手の末路」・「開発者の性」の元ネタは、西暦700年前後の日本の王権にあり。カギは昨年の中尾山古墳の発掘調査。

0.はじめに

 羅刹王バラシュナIII撃破*1を記念し、長らく草稿のまま放置していたバラシュナの新たな元ネタの考察記事を完成させました。

1.総論

 過去記事「聖守護者の闘戦記を『ラーマーヤナ』で解釈してみました。するとガートラントと「守護」の相性の良さの理由まで見えてきました」で書いたとおり、星月夜は羅刹王バラシュナの立場については、『ラーマーヤナ』のラーヴァナが最大の元ネタであると考えておりま~す。

 また名前については、当該記事の追記部分に書いたとおり、ラーヴァナの異母兄のヴァイシュラヴァナが最大の元ネタであると考えておりま~す。

 しかし実際に配信が始まったあとの新情報である、「八門崩絶」・「戦法」・「容姿」・「好敵手の末路」・「開発者の性」については、西暦700年前後の日本の王権の影響が強いと考えるようになりました。

 5.5後期のメインストーリーでバラシュナの誕生秘話*2を知り、それは確信になりました。

 本稿では、その西暦700年前後の日本の王権のバラシュナへの影響を語るとともに、運営がこれを参考にした主たる原因が昨年の中尾山古墳発掘調査であるという推測も主張しま~す。

2.「歴史探偵 飛鳥の八角形古墳」紹介

 この説の端緒となったのが、NHKの「歴史探偵 飛鳥の八角形古墳」という番組*3で~す。放映された4月の時点ではこの番組がバラシュナの考察に役立つとは思いもよらなかったのですが、6月からバラシュナに関する新しい設定が次々と明かされていくに従い、深い関連性を感じるようになりました。

 以下は番組内容の要約で~す。

 「昨年大々的に発掘調査がなされた奈良県明日香村の中尾山古墳は、精巧な八角であり、また墳頂部の装飾の巨石も八基で綺麗に八方向を向いていたと推定される。

 最近の研究では、七世紀後半以降の八角墳はどれも天皇であり、これはもう山川の歴史教科書にも書かれているほどの通説である。立ち入り禁止の天武・持統陵の地形を斜め上から調査したところ、やはり八角墳であった。

 『万葉集』の「八隅知し」という表現にもあるように、当時の日本の王権は八角・八方向の支配にこだわっており、今でも高御座にその名残がある。夢殿や須弥壇とも何らかの関係があるのかもしれない。

 八角墳であることも含め、総合的に見て中尾山古墳は文武天皇の真の陵墓である可能性が高い。

 かつて中尾山古墳から盗掘された骨蔵器だと思われていた金銅製四鐶壺は、今回の調査で別の古墳から盗まれたものだと判明した。

 よって持統天皇の骨蔵器ではないかとも考えられるが、X線調査では孔雀のような形状の鳳凰の絵が描かれており、遣唐使がこの形状の鳳凰を日本に伝えたのは持統天皇の葬儀の翌年であると推測されており、やはり問題が残る。ただし改葬の可能性もあるので持統説も全否定はできない」

雨月「こんなおざなりな紹介では語り尽くせないほど優れた番組やったから、ぜひ再放送で視聴してや~」

3.バラシュナの設定との共通点を解説

 前章で紹介した昨年の中尾山古墳発掘調査関連の話題とバラシュナの設定との共通点を、星月夜の独自説を交えて確認していきま~す。

3-1.八門崩絶

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 天子が八方向を支配するという発想は大陸から入ってきました。

 番組では『万葉集』の「八隅知し」だけが紹介されていましたが、他に有名なものとしては『日本書紀』の「掩八紘而為宇」がありま~す。正式な即位の数年前の神武天皇が「八方向のはるか遠くまで支配するぞ!」という強い信念を表明したときのセリフで~す。

 この「八紘」は元々は当然ながら中国語で~す。有名な出典としては淮南子があり、岩波文庫の『日本書紀』の「掩八紘而為宇」部分への注釈でも『淮南子』が紹介されていま~す。

 そしてこの『淮南子』で「八紘」が登場する墬形訓には、バラシュナの特技「八門崩絶」と関連の深い「八門」という単語も登場しているので~す。

 墬形訓の世界観においては、世界の中心にはタテ3ヨコ3のほぼ正方形の「九州」があり、その外側の八方向を「八殥」といいま~す。そのまた外側を「八紘」といいま~す。そのまた外側を「八極」といい、八極はそれぞれ門でもあるので、別名が「八門」なので~す。

 なお「八極(八門)」のそのまた外側についての記述は存在しませ~ん。また幅千里の八方向の話ばかり書かれ、「北北東はどうなっているのか?」などの話題は一切書かれておりませ~ん。

 すなわち「八門崩絶」とは、当時の日本が八角墳に込めた世界観に即して意訳すると、「全世界壊滅」で~す。アキーラ神の漫画の第23回天下一武道会の決勝戦マジュニア選手が放った「ちきゅうはめつは」(技名の出典は『ドラゴンボール3 悟空伝』)と大体同じ意味で~す。その世界観の最大の元ネタ『淮南子』墬形訓には幅千里の八方向に収まりきらない方向について記述の欠如があることまで再現されていま~す。

暁月夜「天地雷鳴士と縁の深い奇門遁甲*4*5にも開・休・生・傷・杜・景・驚・死の「八門」があるが、淮南子』の八門の呼び名はまた別なんだな」

星月夜「東北から時計回りに、蒼門・開明之門・陽門・暑門・白門・閶闔之門・幽都之門・寒門よ。しっかり暗記しなさ~い」

雨月「ちなみにその『悟空伝』の「ちきゅうはめつは」も残像拳が発動すると無傷で避けられるで~。どう避けたのかは知らんけど」

3-2.不動の戦法

 羅刹王バラシュナは、配信当初は「みとれ」による混乱のせいで中央から歩いて動いて打撃攻撃をしてしまうケースがありました。

 その打撃のダメージは非常に大きかったので、歩き移動は必ずしも冒険者側の有利になるものではなく、かつ意図的に狙って歩かせることも非常に困難でしたが、即座に修正されてしまいました。

 すなわち運営には、難易度とは別の観点において「バラシュナは中央から動かないものである」という強烈な信念があったことになりま~す。

 これは前述の「八方向の支配」の発想と表裏一体で~す。『論語』為政篇にあるように、君主は世界の中心に北極星のように鎮座して、世界を支配する存在なので~す。

暁月夜「チェスで八方向に無限に移動できるクイーンは中央に近い位置にいるほど行き先のマスが多くなり、全体に睨みを効かせられる。おそらくそれと同じ発想だな」

3-3.容姿における竜と鳳凰(孔雀型)の影響

 日本を含めた東アジアにおいて君主はにたとえられま~す。バラシュナはインドの羅刹王ラーヴァナとは似ても似つかぬ竜の姿で~す。

 さらに持統天皇または文武天皇と深く関係しているという説が有力な金銅製四鐶壺に孔雀のような形状の鳳凰が描かれていたことは、前述のとおりで~す。バラシュナにも孔雀のような五色の羽が生えていま~す。

暁月夜「皇帝に擬せられる竜は正確には五本指だぞ~。バラシュナのような四本指の竜は偽の竜とみなされ、皇帝以外でも使用が許されていたんだ。その点がこの説の弱点だな」

星月夜「当時の日本は唐以外に対しては帝国としてふるまいつつ、遣唐使には「王から皇帝への使者」としての役割を演じさせていたんだから、四本指でも決して弱点にならないわ~」

3-4.好敵手ガラテアの末路

 中尾山古墳は鎌倉時代に盗掘に遭ったせいか、発掘をしても石室に骨蔵器はありませんでした。しかも金銅製四鐶壺が持統天皇の骨蔵器であった場合、持統天皇陵にも骨蔵器は現存しないことになりま~す。

 ここで思い出したのが、ユリエルの語る、バラシュナとガラテアが一騎打ちの果てに消え去ったという設定で~す。そして「この墓にガラテアはいません」という、不自然な強調で~す。

 過去記事「「聖守護者の戦いについて」のさらなる分析。ガルドドンを封印したのはガラテアにあらず」ではこの不自然な強調について別の理由を考えましたが、運営の念頭には金銅製四鐶壺があったのかもしれませ~ん。

3-5.バラシュナの開発者の性

 バラシュナの開発者であるシュナは、七賢者の中で紅一点であったことが不自然に強調されていま~す。夫のメゼの性はともかくとして、他の五人の性まで語る意義は本来なら薄いはずで~す。

 しかしここで「バラシュナの元ネタである西暦700年ごろの日本の君主は、男性が多いが、少数ながら女性もいた」と運営が伝えようとしていたと考えれば、「シュナは紅一点」という設定を起源魔スコルパイドのまめちしきでわざわざ教えてきたことも納得がいきま~す。

4.設定が明かされた時期

 前章で紹介した諸設定は、「羅刹の王である」とか「ガラテアに封印された」などの以前から明かされていた設定と違い、すべて今年に入ってから急に明かされたもので~す。

 よってこれは「西暦700年前後の日本の王権の特徴の中でも特に中尾山古墳と関係の深い五つの特徴が、偶然にも羅刹王バラシュナの五つの設定と共通していた」というものである可能性は極めて低く、逆に「運営が昨年の中尾山古墳発掘調査の成果を参考に設定を考えた」という可能性は非常に高いといえましょう。