ほしづくよのドラゴンクエストX日記

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合体スライムたちの「意識」について考えました。

0.はじめに

 本稿では「それぞれ独立した意識を持った合体スライムたちが合体すると、個々の意識はどうなるのか?」という問題を語りま~す。

1.類例は地球に存在する

 「それぞれが別個に意識を持っていた八匹のスライムが合体して、一つの緩やかな統一感のある意識を持つ一匹のスライムになる」という現象について、「意識というものは本来分割も統合も不可能な一個の独立した何かである」という素朴な発想を持っている人は、説明のための仮説すら容易に思い浮かばないことでしょう。

 しかしそういった素朴な発想は、地球の科学ではすでに否定されておりま~す。以下は村上郁也編『イラストレクチャー 認知神経科学』(オーム社 2010)の第11章を参考にした概説で~す。

 アメリカの神経心理学者スペリーは、右脳と左脳をつなぐ「脳梁」が切断されている「分離脳患者」を調べることで、一般に「一個人」とカウントされる主体に意識が二つ宿ることを証明しました。

 すなわち人間は、あるケースでは二つである意識が、あるケースでは融合して一つにもなる(気がする)生物だということで~す。

 この業績でスペリーは1981年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。当然ながら合体スライムが初登場した『ドラゴンクエストIV』発売以前のことで~す。

 さらには二つどころか、さらに細かく分割できるとする「微小意識仮説」(ゼキおよびバーテルズが提唱)や「多元草稿理論」(デネットが提唱)というものもありま~す。

 こういったことを知っている人は、合体スライムとキングスライムの意識の関係についても、「不思議だな~」ではなく「地球でもよくあることだな~」と思うので~す。

2.本作の世界観も意識可分の立場

2-0.総論

 そうはいっても地球とは別のフィクション世界においては、「意識というものは本来分割も統合も不可能な一個の独立した何かである」という世界観であるケースも多々ありま~す。

 そこで地球の神経科学の成果を合体スライムに適用するためには、本作の世界観が「意識というものは分けることもできれば融合することもある」であることを証明する必要がありま~す。

 以下、「融合」と「分割」とに分けて証明しま~す。

2-1.意識の融合

 1.4クエスト「三闘士の導き」で「三闘の守護霊」が登場し、まめちしきには「三闘士の霊の集合体」とか「三闘士の魂は今ひとつとなり」とか語られました。

 これにより「個性を持っていた複数の意識が融合することもある」が公式設定になりました。

2-2.意識の分割

 2.4クエスト「真実に気づいた男」*1で魔勇者アンルシアが「私の魂の欠片」を自発的に分割してそれを保険として活用していたことが明らかになりました。

 さらに5.3クエスト「ふたりの近親憎悪」*2では、この魔勇者アンルシアの魂からはもう二つの破片が独立した人格へと成長させられていたことが判明しました。

 ただしこの魔勇者アンルシアは、女王ゼルメアと同じく*3魂を作るのが下手なマデサゴーラ*4によって作られた存在なので、「出来損ないの魂だからこそ分割できた」という可能性が多少残っていました。

 5.5前期クエスト「淡い記憶を紐解いて」*5では脳を一時的に失い魂だけで思考するようになったことで知能が低下したキャラクターが登場し、意識を構成する「魂」と「脳」とは分割が可能というところまでは証明できました。

2-3.その「魂」部分のさらなる分割

 キングスライムはスライム八匹が原則なので、意識が脳と魂に二分できることの証明だけでは物足りませんでした。そこで「魂」部分の可分も証明したくなりました。

 6.0メインストーリーで前述の「三闘の守護霊」とは別に、フォーリオンで魂から復元された三闘士が登場した時点で、通常のアストルティア民の魂の可分が証明されたと考えることもできま~す。

 しかし神話篇はプレイスタイルによってはヒューザに関して時系列が乱れることが放置された例もあるので、「6.4あたりで再び肉体を失った三闘士がのちに融合して三闘の守護霊になった」という可能性も残されていま~す。

 よって「魂は可分が原則」が完全な公式設定になったのは、6.1メインストーリーでリナーシェの魂が悪神と非悪神部分に分かれ、かつ非悪神部分がさらに八分割された時点*6まで下るのではないかと考えていま~す。

3.ホーリーキングで検証

 さて本作で合体スライムであったことが唯一明証されたホーリーキングが、上述の設定に則しているか判定しま~す。

 まず6.0での分裂時*7には、もう一度ホーリーキングに戻って試練を続けることが平気な者もいれば、それをいやがっているブルースやブラザーもいました。分裂時には意識は八種類に分裂するようで~す。

 そして6.1メインストーリー終了後に話しかけると、「昔……私がまだ 合体を会得しておらず 8匹のスライムとして」と昔話をしてきました。統合時には分裂時代の記憶もありつつ、意識は一つに統合されているようで~す。

 やはり第1章で語った人類の脳同様、「情報の連絡通路が遮断されていると別個に存在する諸意識は、通路が開通すると一種の統一(感)を持つ」設定で特に問題がなさそうで~す。

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4.スライムタワーの独自の価値

 『ドラゴンクエストIX』では、スライムタワーというのはキングスライムの単なる失敗版として扱われていました。

 そして本作ではそうした記述は消え、フォーリオンでもホーリーキングとは別にスライミーズがそれなりの地位を持っていました。キングスライムとは別個の、スライムタワーならではの価値が認められているといえましょう。

 そして神経科学の成果から勘案すると、本作のような評価のほうが正しいで~す。

 地球人で脳梁で左右の脳が連携できている「健常者」は、左脳と右脳の意識が統一されるがゆえに両脳に別個に与えられた刺激を無理に干渉させてしまうため、実験内容によっては成績が分断脳患者に劣るのだそうで~す。

 ゆえに同様に、個々の意識が保たれたままのスライムタワーにも、キングスライムには無い価値がありそうで~す。たとえば「分担作業による全方向への警戒」などで~す。