1.はじめに
タイムトラベルやタイムスリップを扱った作品は無数にあるので、本作の「時渡りの術」については「本歌取りの対象となった特定の作品」なんていうものは存在しないだろうと長年決めつけてきました。
しかし最近になって安西信行の『烈火の炎』を読み、これこそが「時渡り」関連の物語の直接の元ネタである可能性が高いと考えるようになりました。
2.「時空流離の術」を重視した『烈火の炎』の内容紹介
『烈火の炎』は戦闘こそが物語の華という見解も強いのですが、ここでは本稿の主題に沿って「時渡りの術」に当たる「時空流離の術」を重視した形で内容を紹介しま~す。
日本の中心であった都から物理的に近いものの隔絶された小世界でもある伊賀の国に、「火影」という忍者の集団が暮らしていました。
火影は他の忍者集団と違って忍術がほぼ使えない常人の集まりだったのですが、歴代頭首が炎を操れ、また「魔導具」と総称される不思議なアイテムを多々所持していたため、他の集団に匹敵する力を持っていました。
やがて魔導具の力を怖れかつ欲した織田信長に攻められ、火影は滅びま~す。
頭首の正妻の陽炎は「時空流離の術」を使って息子の烈火を未来に飛ばしますが、この術の副作用による呪いにより不老不死になってしまいま~す。
またこの時に烈火の庶兄の紅麗も未来に飛ばされ、現代で野心家である森光蘭に利用されたことで烈火の強大なライバルになりま~す。ただしやがて森光蘭から離反し、ラスボスと戦うころには頼もしい味方となりま~す。
ラスボスである究極の生命は、火影の負の遺産である「天堂地獄」という危険な魔導具が母体であり、そこに森光蘭の精神と現代の一般人の血肉とが融合したもので~す。
この最終戦に勝利した烈火は、呪いの解けた陽炎と外見上数歳差の親子として楽しく暮らしましたとさ。
3.兄弟姉妹の時渡りに与えた影響
3-1.舞台
舞台となる現代のエテーネの村は、世界の中心(シュリナ談)であるグランゼドーラから物理的には近い場所にありま~す。しかし内海や森のせいで、外部とは隔絶した小世界をなしていま~す。
この舞台の特徴は、伊賀の国に似ていま~す。
3-2.特殊能力と特殊技能を持つ小集団
エテーネの村で暮らすエテーネの民は、時渡の術や時見の能力を先祖から少しだけ受け継いでおり、また錬金術も僅かに伝えていました。
この「遺伝的特殊能力と伝統的特殊技能とを持った小集団」という立ち位置は、火影に似ていま~す。
3-3.有力者に危険視され攻め込まれる
その特殊能力を当時の有力者である冥王ネルゲルに危険視されて攻め込まれました。
これは織田信長による侵攻に対応していま~す。
史実のほうの織田信長については過去記事「織田信長はムドーの有力な元ネタであると思いま~す」で書いたようにムドーへの影響が強いですが、『烈火の炎』の登場人物としての織田信長に一番近いのはネルゲルで~す。
3-4.家族を異時代に逃がす
このネルゲルとの戦いの中で、主人公は時渡の術を使って兄弟姉妹を60年前の世界に逃がしました。
これは陽炎が息子を400年後の世界に逃がしたのと対応していま~す。
3-5.その代償の呪いは不老
兄弟姉妹はその時渡りの術で命が助かりましたが、代償として術の呪いにより不老となりました。
使用者が呪われる時空流離の術と違って被使用者のほうが呪われたわけですが、代償の呪いの内容が「不老」という点では一致していま~す。
3-6.主人公との路線対立
主人公はナドラガンドの野心家であるオルストフに利用されたことで、兄弟姉妹と路線が対立しま~す。
これは紅麗が森光蘭に利用されて弟の烈火と路線対立をしていた時期に相当しま~す。
3-7.色々融合してラスボス完成
ナドラガ教団の負の遺産である「創生の霊核」とか「オルストフの精神」とか「エステラの肉体」とかが、色々融合して3rdディスクのラスボスとなりました。
これは「天堂地獄」に色々融合して『烈火の炎』のラスボスが仕上がった経緯に対応していま~す。
3-8.ラスボスと戦うころには主人公が味方に
兄弟姉妹がラスボスと戦うころには、主人公はオルストフから離反して頼もしい味方となっていました。
これは烈火がラスボスと戦う時点では紅麗が森光蘭から離反して頼もしい味方になっていた件に対応していま~す。
3-9.烈火の炎
そして兄弟姉妹が炎の領界の烈火の渓谷で主人公の様子を見守る場面がありま~す。
4.主人公の時渡りにも影響
以上、オフラインモードから3.5後期までにかけて兄弟姉妹が『烈火の炎』の烈火の立場を演じ終えたわけですが、4.0から語られ始めた主人公の時渡りについても、若干の影響が確認できま~す。
4-1.時渡りによる母との別離
ヘルゲゴーグ集団がエテーネ王宮を襲ったとき、主人公は自力で5000年後の未来に逃げ、そのことで母であるマローネと別離することになりました。
呪いがないケースであり、また子が自力で未来に向かったという相違点もありますが、母との別離という点では『烈火の炎』に似ていま~す。
4-2.悪に利用され敵にまわる親族
父であるパドレは時見の箱に利用されて主人公の敵となりました。
過去記事「3rdディスクの物語は4thディスクの物語の予型であった! この傍迷惑な親子!」で、3rdディスクの主人公の立場が4thディスクのパドレに立場に似ているという分析をしました。その原因が「どちらも立場の元ネタが紅麗だったから、自然に似た」である可能性はかなり高そうで~す。
4-3.色々融合してラスボス完成
エテーネ王国の負の遺産である「時見の箱」に「竜神の心臓のエネルギー」とか「プレゴーグ」とか「歴史に残る四匹のモンスター」とかが色々融合して、4thディスクのラスボスが完成しました。
これは本稿「3-7」の再演で~す。
4-4.ラスボスと戦うころにはパドレが味方に
そのラスボスと戦うころにはパドレは頼もしい味方となっていました。
これは本稿「3-8」の再演で~す。
4-5.外見上数歳差の親子
ラスボス撃破後は、主人公はパドレ・マローネ夫婦と外見上は数歳差しかない親子として生きることとなりました。
これは『烈火の炎』の後日談の時点での陽炎と烈火の親子みたいなもので~す。
5.作者の系譜
過去記事『ジア・クトの重要な元ネタかもしれない『双亡亭壊すべし』。マデサゴーラみたいなのもいるよ』では、藤田和日郎の『双亡亭壊すべし』からの強い影響について語りました。
そして本稿で語った『烈火の炎』の作者である安西信行は、藤田和日郎の弟子にあたるので~す。
また過去記事「鉄巨兵ダイダルモスを倒し、6.5前期時代のパニガルムモンスターをコンプリートしました。ダイダルモスの語源は三種類思いつきました」では『金色のガッシュ』からの影響を指摘しましたが、その作者の雷句誠もまた藤田和日郎の弟子にあたりま~す。
さらに過去記事「呪縛の魔獣の系譜を遡る。高橋留美子と半魚人の歴史」では、ツスクルの外伝への高橋留美子の影響を語りましたが、藤田和日郎が漫画を目指したきっかけは高橋留美子の短編「闇をかけるまなざし」を読んだことにあるそうで~す*1。
スタッフの中には、この一連の系譜の作風を全体として愛している人がいるのかもしれませ~ん。
余談.個人的な好み
以上、「時渡りの術」への影響に特化して『烈火の炎』を紹介してきましたが、星月夜の一番の好みのキャラは時空流離とはあまり関係がない「魔元紗」で~す。
「怪しげなマントに身を包んでいて、ある設定により原則として常にノーダメージ。名目上の上司は紅麗だが、実はそのまた上の森光蘭の命令で動いていた」というキャラで、外見も設定もミストバーンそっくりで~す。